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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
最終章 二人の姉妹
51/66

51.研がれた牙


 廉が祐の前に立つが、祐はそれを退けて前に出た。


「廉姉は少し休んでいてくれ。俺が相手をする」

「私でも勝てる可能性がないのよ。祐一人じゃあ」

「でも、やらないといけないんだ。俺自身の代償の為に……」


 代償のワードに廉は言葉を詰まらせた。


「……その言葉、ちゃんと覚えていたのね」

「あぁ、たった今思い出した。代償を払わせすぎたんだ。だから、俺がやるんだ。俺が」

「……祐──」


 呼びかける前に、祐は恵魔に突撃して攻撃を仕掛ける。


「はぁ!」

「来やがれ!貴様ら姉妹を殺す!」


 恵魔の放つ速く重い大振りな一撃に祐は攻撃を仕掛ける直前で急ブレーキを掛けてその場に止まった。

 前髪が少し切れたが、身体の直撃は避けた。

 だが、目の前の抉れた地面に冷や汗をかいた。

 

「じ、地面に抉れた跡が⁉︎」


 今の一撃、地面を削るほどの威力。まともに食らったら、ステーキにされちまうと内心ヒヤッと感じた。


「うらぁぁぁ!!」

「だが、恐れるものかぁ!」


 恐れては行かないと真正面から突っ込み、爪の攻撃を身体を掠めながらも突き進んで、間合いへと入り込んだ。

 速度を緩めず、首元に頭突きを喰らわせて恵魔を怯ませた。

 更に祐は続けて脚を一直線に伸ばして蹴りを放つが、左腕で受け止められて反撃に爪の振り払われた。


「くっ!」


 祐は咄嗟に後方に飛び上がって回避したが、足を見ると軽い切り傷が出来ていた。


「やはり速いな。寸前でのダメージ覚悟での攻めが限界か……だが奴の防御も硬いし、中々に上手くいかんもんだな」


 今の攻防だけでも身体に切り傷が無数に出来て、更には攻撃もまともに喰らわせられない。

 だからと言って、ここで引き下がる事は出来ない。

 頭突きされた恵魔は喉元を押さえながら、血が混じった痰を吐き捨てた。


「ぺっ!やけに逃げ足は素早いねぇ。これって人生に逃げ続けていたからかぁ?」

「あぁ、そうかもな!真っ直ぐ進みすぎたら逆に切り刻まれてもうボロボロだろうさ!けどな、逃げ続けていたからこそ、何も見えずに情けない自分に酔いしれていたから、こんなねじ曲がっちまったよ。だから、今から前進むんだよ。安全道でな」

「ゆっくりじゃ、カメにも勝てねぇよ!俺はうさぎタイプだ!」


 恵魔は爪を立てて飛びかかり、真上より両爪を交互に振りかぶった。

 避けるか避けないかの二択。

 ここで選ぶのは──


「避けない!」


 恵魔の振りかぶった両手を捕み、爪を眼前にて食い止めた。

 だが、恵魔は手を掴まれた状況を利用して、鉄棒でぶら下がるように身体を揺らして、膝蹴りを祐の胴体に喰らわせた。


「ぐわっ!」

「甘いわい!」


 祐はダメージから片手を離した。

 恵魔は爪を立ててもう片方の掴んでいる手の肩目掛けて、爪で突いた。


「ぐっ!」


 制服に血が滲んだ。

 祐はすぐに恵魔を蹴り上げるも、避ける速度が素早く咄嗟に後方に下がった。

 更に両足を地に付けた途端、猫のように両手足を地面につけて素早く動き、またも距離を一気に詰めた。


「これほどで!」

「一点ばかり見つめても、その思惑は一瞬一秒で崩れちまうんだよ!」


 咄嗟に動いた。

 猫のように飛びかかる恵魔の攻撃を避けた。真後ろに飛び超えていく恵魔の足を──


「!?」


 手を伸ばして振り向いた瞬間、頬を後ろ足で蹴り飛ばされた。

 すぐに体勢を整える祐。

 恵魔は着地すると間髪入れずに方向転換して、祐へと再び飛びかかり、爪を振りかぶった。


「ちぃ!」


 大振りな攻撃を寸で避けて、反撃を繰り出そうとした。

 だが、恵魔は振りかぶった勢いを乗せて体を宙返りさせ、足を突き出して祐の肩にかかと落としを決めた。


「うっ‼︎」

「技を見切れよ!」


 額から血が噴き出て、その場に膝をつく。

 速く変則的な動きに攻撃。

 どれを見ても真っ向から勝負は困難。


「だがよぉ。まだやれるんだよ!」

「よぉ、やるのぉ。こんな無様に膝ついた奴がいう言葉かい?」


 祐は自分の頬を叩き、地面を強く踏み込んで立ち上がった。


「ダメージを受けるほど、体力を下がるどころかやる気が湧いてくる性格なんでね。全身地に倒れるまでは戦ってやる」

「それでよろしいんだよ」


 祐は恵魔にローキックを放った。

 恵魔はその場に飛び、祐の顔面に蹴りを喰らわせた。

 だが、祐は怯まずに恵魔の足を掴んだ。


「掴んだ!」

 

 恵魔の足を力強く握りしめて、背負い投げをして頭から地面に投げ倒した。

 だが、地面に当たった感触も音もない。

 ふと後ろを確認すると恵魔は片指を地面に突き刺して、無理やり地面の直撃を食い止めていた。


「どいつもこいつも何て頑丈だ!」

「お前もなぁ!」


 足を掴まれ、頭は地面に向いており、指先のみが地面についている宙づりな状態。

 だが、恵魔はその状態から足の力を込め始め、上へと伸ばし始めた。

 足を掴んでいるはずの祐の身体が逆に宙へと浮き、そのまま恵魔は足を足を後ろに振り下ろし、祐を体を地面にたたきつけた。


「いって!」


 祐はなんとか立ち上がるが頭を直接地面にぶつけた痛みで立ち眩みをしていた。

 長期戦は難しいと考えるもこの時点で体力に限界を迎えようとしていた。


「くっ……手の打ちようがない」

「体力だけが取り柄なら、スピードの俺には勝てんよぉ。いずれ体力が尽きる。そん時まで立ち続けられるかぁ?」

「ちぃ!やるならやれよ!俺はまだ戦えるんだぜ!」


 祐の方から攻撃を仕掛け、拳を突くも恵魔は飛び上がって避け、祐の頭を両手で掴んで脳天に膝打ちを喰らわせた。


「ぐはっ!」

「あっけねぇ最後だな!おい!」


 祐は額から血を出し、完全に沈黙してその場に倒れ込んだ。


「この程度なら復讐を待ってた俺が馬鹿みたいだぜ」


 恵魔は祐の前に立ち、顔の前で足を上げた。


「アディオス、祐ちゃん」

「くっ……」


 踏まれる。そう思ったその時──

 

「!?」


 恵魔は背後より何か気配を感じ、爪を大きく振りかぶった。

 その手を背後に現れた人物は掴み、逆に強く掴み返した。


「ちっ、まだ倒れてなかったか……廉!」

「やはり、私が行く。祐一人に負わせる訳には行かないのよ」


 まだ身体が癒えていない廉が恵魔の後ろに現れた。

 祐は上半身を起こし、同じくボロボロの廉に驚いた。


「廉姉!その身体じゃあ、無理だ!」

「共倒れするよりはマシよ。今は私に任せて」


 恵魔は一度距離を取り、その間に廉は祐を立ち上がらせた。


「すまない廉姉、また助けられてしまった」

「いいえ、私の方がまだお返しが足りないくらいよ」

「へへ、行ってくれるね。でも、まだ戦えるから代わる気はねぇぞ」

「今の祐よりは戦えるわよ」

「この通りピンピン動けるぞ、ホラ!」


 そう言って祐は激しくジャンプしたり、何度もジャブやローキックを見せて元気をアピールした。

 すると廉は祐のけがをしている横腹を指で軽く突いた。


「いたたたた!それは無しだっての!」


 祐は悲鳴を上げて、ジャンプした時よりも高く飛び上がり、体を丸めて痛む苦しむ。


「きっと腰にヒビが入ってるわね。それに切り傷もいっぱい。常人ならもう倒れているわよ」

「常人じゃないから倒れないんだろうが」

「でも元気は十分にあるわね、よかった」


 廉は恵魔の前に立つ。

 恵魔も先程の我を忘れた廉とは違う、生気の感じる廉に闘争本能が沸々と湧き上がってきた。

 さっきとは違う、本能のままとは違う生きている廉との勝負にテンションがぶち上がる。


「今度こそ、あなたを止めて見せる」

「あの妹よか、楽しませてくれよなぁ!お姉ちゃんよぉ!」

「先ほどのようには行かない」


ジリジリと距離を詰めて互いに間合いに入り、いつどちらが攻撃を繰り出すか、二人の空間には誰も近づけないほどの威圧的空気が漂っている。


「どちらが先に仕掛ける……」


祐が見守る中、恵魔が足先の小石を踏み潰し、バキっと音が鳴った。

その瞬間に二人の戦いのゴングが鳴り、同時に蹴りを放った。


「始まった!」

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