49.価値ある存在
ひょっとこの表情はひび割れた露出した目から見て分かるように怒りに満ちているのが分かる。
「やべぇな。あの野郎を怒らせちまったかな?」
「よほど大事な仮面だったんだろうよ」
「家宝なら、しまっとけっつうんだよ!」
二人は構えて迎撃態勢に入る。
「全員体力少ないんだ!ここを乗り切るぞ!」
「おう!」
トランプを投げ、二人は咄嗟に避けた。
だが、次の瞬間には目の前からひょっとこの姿は消えていた。
「くそ!また消えたか!」
「!?燈後ろ!」
「何っ!?」
またも背後から現れたひょっとこに燈は対応しきれず、顔面を蹴られるも燈は耐えて、反撃するも軽々と避けられてひょっとこは頭上に移動した。
「早い!本当にアタシらの一撃を食らった奴かよっ!?」
燈が反応しようとするも、ひょっとこはすぐに消えて背後に現れてトランプで背中を切り裂いた。
「ぐわっ!」
「燈!」
「喰らうかよ!」
聖燐はギリギリで攻撃をかわし、回し蹴りで応戦するも体力の低下で攻撃速度が鈍り、仮面を掠り直撃しなかった。
足もよろめき、態勢を保つのものやっとな状態で片膝をついた。
「そろそろ限界のようだな。ならば、ここで仕留める!」
「くっ!」
攻撃をしようとこちらに向かってくるひょっとこに、反応しようとしたが足が震えて立ち上がれず、意識が朦朧とした。
「くっ、流石にもう体力が残ってねぇ……や」
そう言って聖燐は力尽きて地面に仰向けに倒れ落ちた。
意識が遠のいていく中、何か声が聞こえてきた。
「聖燐!」
空から聴き覚えのあるあの声が聞こえてきた。
「いてて……頭がクラクラし過ぎて、とうとう祐の幻聴が聞こえてきたか。あたしの命もこれまでか」
「聞こえてんだろ!聖燐!返事くれぇしろや!」
もう一度聞こえてきて、とうとう死ぬのかと思って、最後に青空を見て死のうと空を見上げた。
すると空から二人の女子が飛び降りてきて、その一人が因縁の相手である祐だった。
「寝てるんじゃねぇぞ!!」
「え!?」
ばっちりと目が合った。
はっきりと分かった。本物の祐だと。
「お前!来たのか!」
とボロボロながらも笑顔が溢れた聖燐だが、落ちてくる祐は明らかに聖燐の真上に落ちてきた。
「なんで空から来てんだよ!ってか、こっちに落ちてくるなぁぁぁ!!」
「制御出来るかぁぁぁ!!」
踏まれると重い目を瞑った。
そして祐は……聖燐の真横に轟音と共に着地して、地面を深く凹ませた。
「着地!」
「ここに来て、一番死ぬかと思った……ぜ」
「すまんなぁ!小さすぎて踏み潰しそうになったぜ」
「あぁ、こんな奴に潰されたら末代までの恥だぜ」
二人は互いに歪み合うが、次第に口角が上がり、二人は笑い出した。
「は、ははは!さっきの驚いた顔、情けなかったぜ!」
「そっちこそ、落ちてきた時の顔。最高に馬鹿馬鹿しかったぜ」
笑い合った二人だが、近くにいるひょっとこと目が合うなり、祐の目つきが一気に変わった。
「もしかして、お前あのお面野郎に負けたのか?」
「悔しいが、その通りだ。奴は素早いし、武器も強い……アタシもダチも見ての通りボロボロだ」
すると祐は聖燐を手を差し伸ばした。
「立てるか」
「あぁ、こんくらい大丈夫──いててて!!」
「無理すんなよ。手を貸すぜ」
聖燐は一度は掴む事を拒否するが、祐の真っ直ぐな目を見て何か変わった事を察知して、自分も正直になろうと祐の手を掴んだ。
「ありがとう……助かった」
祐の手を掴んで分かった。変わったんだ。
どう言えばいいのか分からない。でも、何かが変わったことだけは分かる。
精神的成長が、その目に写されている。
口を開こうとした時、先に祐が告げた。
「変わったなお前」
「……お前こそ、目が変わった気がする。だが、言いたい事は沢山あるが……」
「あぁ、後にしてくれるか」
「まずは廉と恵魔の戦いを止めてくれ。これじゃあどっちかが死ぬまで戦う事になる……」
「やはり、ここに居たか恵魔の奴」
祐も分かっていた。
ここに漂う血の匂いが。昔と同じあの荒々しい空気。
「廉姉に謝る前に化け物と戦うことになるとはな」
身体に何度もピリつく感じは今も忘れられない。
だが、ここで再び因縁が巡り合うのならば、それも運命であり、越えなきゃいけない道である。
「祐!」
同じく着地を果たした望江も上手く合流した。
「お前も無事に着地していたか!」
「あんたのおかげ高所恐怖症が治った気がするよ」
「来たばっかりで悪いが、俺のダチの聖燐を頼む!怪我してボロボロだから支えてくれ!」
「お前どうするんだ!」
「今度は俺の命運を掛かる戦いに行く!」
「アンタが祐が言っていた聖燐か」
「あぁよろしく頼む」
真後ろから飛んできたトランプをいとも簡単に掴み取った。
「小細工相手はもう十分だ!」
と真横にトランプを投げ飛ばすと、姿を消していたひょっとこが現れてトランプを掴み取った。
「見破ったか」
「ちょこまかと動く近所の子供のようなもんだよ。お前の動きなんぞ。それより退け」
祐は拳をぎっしりと握りしめた腕を見せつけて来た。
「今邪魔すんなら退かすぞ」
その顔はイライラしているのか、歯を食いしばって怒りを表していた。
目の前にいるのに邪魔してくる気持ち悪い顔に思いっきり拳を振り上げた。
ひょっとこが目の前から消えた。
「気をつけろ祐!」
聖燐が声をあげるが祐は反応せず、左の肘を曲げて真後ろに思いっきり引いた。
その肘は真後ろから奇襲を掛けたひょっとこの腹部に直撃し、そのまま祐は回し蹴りを食らわせて一撃でKOさせた。
あっという間に撃破した燈も聖燐も驚いていた。
「アイツもあんなパワーをもっているのか……」
「やっぱし最強だな。アイツ……認めたくないが」
祐はひょっとこを気にする様子も見せずに、廉の元へと寄った。
「!?」
頭を抱えている廉に、祐も驚愕した。
こんな廉は見たことない、こんなにも苦しんでいる姿を。
「廉姉!」
「その顔、祐だな。やっと姉妹揃ってご対面か? さぁ、あの影から救えるかなぁ?」
「お前があの時の……恵魔!貴様か!」
廉と祐の再会に恵魔はそのまま手を出さずに、見下すように笑っていた。
苦しんでいる廉の支えながら、祐は語りかけた。
「大丈夫か、廉姉! 大丈夫なのか!」
「う……祐」
「あぁ、来たんだよ! 一緒に帰るぞ!」
祐の必死の声掛けに、廉の心に小さな光が見えた。その影の奥にいる祐の見た目をした光の影が見えてきた。
「わ、私は……」
「廉姉!」
祐と目が合うと廉の目に光が戻りはじめた。
祐は身体に触れると、先ほど恵魔に攻撃されて出た血が手にべったりとついた。
「怪我をしているのか……」
廉は祐を見て、あの事を思い出した。
祐がリボンを叩きつけた時を、お姉さんが自分を庇って事故に巻き込まれた事を。その事を思い出すと、心に再び影が祐の光の影を何処かへ消し去ってしまった。そしていきなり目を見開いて叫び出してしまった。
「きゃぁぁぁ!! あっ、うわぁぁぁ!!」
「どうしたんだ廉姉!! おい、おい!!」
廉は再び消えゆく意思の中で、祐を突き飛ばした。そして、廉の目の光が消えていった。そしてゆっくりと立ち上がった。
今の廉にはその場にいる全員の姿が、真っ黒の謎の人型生物に見えた。祐の声も全て聞こえなくなった。そして自分を馬鹿にするように笑っているように感じた。
廉は自分を笑っていると思う祐へと攻撃を仕掛けてきた。
「!?」
瞬間的に祐の目の前に移動して、祐の腹に拳を深く抉り込んだ。その一撃は祐にとっても強烈な攻撃であり、腹を抑えて数歩下がったが、廉は追撃の如く蹴り倒した。
「おいおい、兄弟で喧嘩おっぱじめやがったぜ」
恵魔は高みの見物で、その場に胡座をかいてその喧嘩を見物することにした。
祐は立ち、廉の目を見た。その目は祐を見つめてはおらず、虚空の空を呆然と見つめていた。
「何でだよ……廉姉。何があったんだよ! 答えろよ!」
「貴方は、私の心に声を聞かせてくる……その音がノイズとなるから、消す!」
祐は両手を広げて、攻撃しない事を弱々しく伝えた。
「俺は廉姉にはもう攻撃なんて出来ない……これ以上!出来るか!」
だが影に閉じ込められ、ずっと座っている廉には声すら届く事はなかった。更に廉は祐へと攻撃を仕掛けた。
祐は廉に手をあげる事は出来ず、防御しか出来なかった。
人混みから聖燐の肩を組んで望江と燈が現れた。
「やばい……祐が押されてる……」
「あれが祐の姉さん……本当にそっくりだ」
聖燐も見てる事しか出来なかった。廉に一方的に殴られている祐を見て、望江は叫んだ。
「祐、言ったでしょ! 『この拳は人を脅かすものではない、人の為に振り上げる拳だ』って!」
「……くっ、でも」
「その拳で麗花さんやあたしを救ったように姉貴を救いなさい!」
祐に出来たのは、廉の拳を受け止める事だけだった。だが、掴んだ状態で廉は空いている足で祐の顔を蹴り上げた。更に攻撃してくる廉に対して祐は攻撃を止める事しか出来なかった、
祐が攻防を続けていると、監視塔の上から麻酔銃を構えた兵士やヘリが二人を狙っている。更に広場の兵士も集まりだした。
「侵入者及び、そこの二人に告ぐ! 直ちに戦闘をやめないと、麻酔銃で眠らせるぞ!!」
もちろん二人は止める事なく、攻防を続けていた。
警告を無視したと捉えた兵士たちは直ちに銃口を向けた。その時、聖燐と望江はお互いの顔を見合った。そして、無意識にニヤリと笑って、肩から手を離して拳を握りしめた。
「望江だっけ? あたしを気が合うじゃねぇか」
「そうみたいね……聖燐。二人の間を邪魔させる訳には……」
「行かねえよな!!」
二人は一斉に、後ろに立っていた囚人たちを殴り倒した。
「何すんだこのやろう!」
「喧嘩だよ」
と怒り狂った囚人だが、燈が前に立ち塞がり、再びその囚人を管制塔に向けて投げ飛ばした。
「燈大丈夫か!」
「あの姉妹が苦労してるのに、呑気に寝ている場合じゃなかろう」
燈は同じ棟にいる連中に向けて声を上げた。
「おい全員で喧嘩をおっ始めるぞ!仲間を援護する為にな!」
「「「おう!!」」」
燈の一言で、棟の全員が一斉に色んな囚人達を殴り始め、一気に女子のコート全域で喧嘩が始まった。
「至る所で喧嘩が!」
「くっ!侵入者が分からん!」
広場の兵士たちは喧嘩が邪魔で進む事が出来ず、祐たちの居場所は分からなくなった。




