46.邪悪なるオーラ
聖燐はそのまま倒れてるが、廉に支えられた。
寄り添った廉に対して、聖燐は作り笑いをしながら応答した。
「ヤベェ……身体が言う事を効かなかったぜ。何なんだろうな」
「今は静かにしてなさい……」
廉は立ち上がって恵魔を睨みつけた。
自分自身も聖燐と同じだった。あの動きそのものも早かった。だが、それよりも身体に危険な認識が欠けていた。
彼女の出すオーラは危険だと分かった。
その鋭い目を見て恵魔は歯を見せて大きく笑った。
「聞いた通りの顔だ。昔と変わらないなその目。俺は好きだぜぁ。ボロボロにして引きちぎりたくなるくらいに」
「貴方の目的はなんなの……」
「復讐の為に決まっているだろぉう」
初めて一人の人間として接してくれた仲間たちがピンチに陥っている。
廉は戦いたくないが警戒して、険しい表情に変えて拳を強く握りしめた。
「少しはやる気になったかぁ?」
「やる気にはならない……でも」
「……では、仲間とやらの力を借りて、戦うやる気を出してもらおうかな。そうしないともう一人のお前が出てこないからな」
再びいやらしい笑みを浮かべて、倒れている燈の元へと向かった。
すると恵魔の前に出っ歯が手を広げて道を塞いだ。恐怖を前に足を震わせており、かなりビビっている。
「あ、燈さんのも、元には行かせないぞ!!」
「残念だが、俺は弱い奴が嫌いだ」
「や、やめろ……」
出っ歯には倒れている燈の言葉は聞こえなかった。
恵魔の顔を見て、身体全体から寒気がした。まさに悪魔、本物の悪魔そのものだった。
全てが闇に包まれており、まるで一人で暗闇に取り残されているように。だが、燈を守る為に、一人になろうとも必死になっていた。
「あ、あたしの名は──」
「雑魚の名前なんて聞きたくもねぇ!消えろ!」
迫力のある声に強烈な圧を感じた。
その一瞬の怯みで、出っ歯の腹を抉り込むように蹴りつけた。
胴体から何かが折れる音が聞こえて来た。
廉も燈も聖燐もその音が耳に聞こえた。
「ぐがっ!!」
「くっくっく、勇気は褒めてやるよ」
腹を抑えて苦しんでいる出っ歯を見て、廉の心に不安と言う闇が一つの黒い影を作り出し、頭を抱え始めた。
「うっ!」
何かが自分を乗っ取ろうとするように身体が言う事を聞かなくなる。
その姿に恵魔はニヤリと笑った。
「そうだ、その苦しみをもっと全面に見せろ。そして呼び覚ませ、お前の中の影を!」
「や、やめて……これ以上は」
頭を抱えて苦しむ廉。それを見て更に心を揺さぶろうと、指を空高く鳴らした。
その瞬間、目の前にひょっとこが忍者の如く、その場に現れた。
「何でしょうか……」
「こいつらを痛めつけてやれ」
ひょっとこは倒れている燈の腕を掴むと、逆の方向へと曲げ始めた。
体力が減っている燈は何も抵抗出来ず、ただ苦しんでいるだけだった。
「や、やめなさい!!」
「なら、戦う気になるか?」
容赦なく曲がっていく腕、廉の精神が揺らぎ始めた。
「ぐわぁぁぁ!!」
戦わないと燈の腕が。でも、戦ったらまた自分を見失うかもしれない。
廉は祐との思い出を考えて、平常心を保とうとした。
「さぁ、早くしないと腕が折れちまうぜ?」
「ぐあぁぁぁ!!」
だが、燈の叫び声は徐々に大きくなり、廉の心に穴を開けた。必死に堪えるが、徐々にその穴の中の闇へと吸い込まれていった。
「や、やめて……もう……」
廉の心の中にある祐との思い出も、お姉さんの言葉も全て影に包まれて、心の奥底へと引っ込んでいった。
両手の力なくなりぶら下げ、目から光は失われて、死んだような虚ろな目に変わって、涙が一粒流れ落ちた。
「来たッ!」
恵魔はその姿を見て、心から狂喜した。身体に鳥肌が立つほど反応し、オーラで感じ取った。
最強の影が生まれ、一つ染まった。
「来たぞ、来たぞ! 俺を倒した時の力を待っていた! ふははは!!」
恵魔は馬鹿みたいに笑った。両手を広げて、空高く大声で笑った。
そして廉に挑発するように手招きをした。
「さぁ来いよ。復讐の時間だ!その状況のお前をぶちのめしてこその戦いだ!」
恵魔は爪を立てて、がむしゃらに廉へと爪を振り下ろした。
廉は小さく屈み、攻撃避けて恵魔の銅体へと真っ直ぐと蹴りを放った。
恵魔は攻撃していないもう片方の手で蹴りを受け止めた。そのまま足を軽々と持ち上げて力一杯投げ飛ばした。
廉は空中を体勢を整えて、片方の足で恵魔の顔を蹴って、手を強引に離させて綺麗に着地した。
お互いの顔は一切変わらず、にらみ合った。
「そうこなくっちゃ……な!」
恵魔は更に猛攻を続けた。
廉の目の前で跳躍しながら右、左、右と身体を宙で横に回転しながら連続蹴りを放った。
廉は平然とした顔で全ての攻撃を止めて、恵魔の四発目の左蹴りまでも受け止めた。
そして次に廉が拳を強く握りしめて、ノーモーションで恵魔の銅目掛けて拳を突いた。
咄嗟に手を交差をして、防御体勢に入った恵魔だが、その突きはまるで弾丸のような速さと重さがのしかかり、衝撃とともに後ろへと弾き飛ばされた。
先ほどまで座っていた鉄製のベンチをも破壊して、地面に爪を立てて速度を緩めた。
地面には爪の跡がつき、恵魔は血に濡れた手を見て、不気味に笑って、ペロリと手を舐めた。
「へへへ……あの時と、同じだ。手加減と言う事を知らないお前が気になってしょうがない」
「貴方みたいな人、私の記憶の中にないわ」
「そうだろうな。俺みたいな奴は記憶に残らないよなぁ、すぐに思い出させてやる!」
壊れた鉄製のベンチの尖った長い破片を両手に握りしめた。すると恵魔はベンチの破片を廉の目に目掛けて蹴り飛ばした。だが、右手で軽々と掴み止めた。
そちらに目が行き、一気に迫った恵魔が廉に破片で突き、廉の頰を擦った。空いている左手で恵魔の手首を突き、痛みで破片を離した。恵魔も負けじと左手で廉の首を絞めて地面に押し付けて、廉にのしかかった。そしてもう片方の破片を突き立てて顔面へと振り下ろしたが、廉は持っている破片を恵魔へと投げつけ、顔を擦り一瞬の隙が出来て、恵魔の腕に握った。
「んあ?
恵魔が押し込もうとする中、廉は押し上げて、徐々に恵魔の目へと近づいていった。破片が目に当たろうとした時、恵魔はニヤリと笑った。
落とされた破片を掴み、廉の横腹に刺した。
廉の恵魔を突き飛ばして、悲痛な表情をして横腹を抑えて痛みをこらえた。
「くっ……」
黒いブレザーから血が滲み出てき、抑えている手も血にまみれた。
廉の姿を見て、恵魔は狂ったように笑い出した。
「キャハハハ!! 良いぞ、良いぞ!! もっと出せ、血をもっと!!」
この騒ぎに周りの囚人は集まりだし、注目し始めた。そしてこの状況を楽しむように歓声が上がり始めた。
「さぁ立て! お客様方がお待ちかねだぜ」
腹を抑えている廉の腹を、集中的に蹴り始めた。痛みは増し、更に苦しみ、無抵抗に蹴りを喰らい続ける廉。
「お、おい……」
「今度はなんだよ」
後ろから聞こえてきた声。その正体は息が切れかけたボロボロ状態の聖燐だった。




