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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
最終章 二人の姉妹
45/66

45.厚鬼恵魔、降臨


 恵魔は自分の名を名乗ると、ゆっくりと廉が座っているベンチの周りを歩きながら、聞いてもいない自分の事を語り始めた。


「久しぶりだなぁ万丈廉。せっかく再会だぜぇ。昔話と洒落込もうやぁ。俺達の仲だろぅ?」


 言っている言葉の意味や呂律が回っていない喋り方に困惑する一同。そしてその顔を見て廉はやっと思い出した。


「貴方、まだここにいたの?」

「長かったぜぇ。三年以上もここにいるんだよぉ。さっきまで蠱独房に収監されてたんでねぇ」

「蠱独房?」


 初めて聞くワードに疑問を持つ廉。

 その言葉を燈が説明してくれた。


「蠱独房は学問学園内で守衛などに傷害事件を起こした者が入る地下の独房の事だ。便所より臭くてジメジメとしている独房に最低でも一ヶ月は収容されると聞く。鎖に繋がれて自由を奪われて、食事も1日に一度だけど言うまさに地獄のようだ場所だ」

「どうりでドブくさい訳だ」


 聖燐も鼻をつまんで距離を取るほどの匂いがした。

 恵魔は廉の隣に腰を下ろして肩を叩きながら話を続けた。


「ここでも幾度も大暴れして、その度に顔にも傷がつき、身も心もボロボロになった。でも、お前の事は一回でも忘れた事はない」

「自分の責任を人になすりつける貴方に、言う資格はないわ!」

「ふ〜ん……ならよぉ。これでもか?」


 突如恵魔は立ち上がり、目先にいた出っ歯の首を突然掴み上げた。


「ぐがっ!」

「!?」


 出っ歯は暴れるが、恵魔には意味がなかった。

 聖燐と廉はいきなりの出来事で、動揺して動けなかった。

 

「な、何をしやがる!!」


 燈が怒りを表して恵魔に突っかかる。

 だが、恵魔は不気味に笑いながら掴み上げている出っ歯を見せつけて、地面に叩きつけた。


「大丈夫か!?」

「ゲホッ!ゲホッ!大丈夫だよ。なんとか」


 聖燐は駆け寄り出っ歯を起こした。

 恵魔は次に燈を見つめて喋り出した。


「おやおや、どちら様かと思ったら廉に負けて、更に俺の部下にも負けた雑魚の燈様じゃないですか? いつからこんな女子会のようなグループを作ったんだい? お茶会でもするかぁ? あぁ?」

「何をほざく!」


 激昂した燈は恵魔に殴り込んだ。

 恵魔は真正面から攻撃を受けて腕で防御したが、軽い身体は思いっきり飛んでいき、ベンチを突き破って、壁に叩きつけられた。

 だが──


「ひゅ〜。少しは痛かったぜぇ。でも、俺を倒せるほどの火力はないね」

「何!?」


 あの大きな一撃を喰らいながらも普通に立ち上がった恵魔。

 恵魔は何度か小刻みなジャンプを繰り返すと、その場から瞬間的に姿を消し、燈の背後に回り込んだ。


「!?」

「ほらぁ!」


 背中を回し蹴りで蹴り飛ばし、怯んだ燈だが咄嗟に振り向いて拳を振るった。

 だが、攻撃を受け流すように手を弾いた。


「弱いねぇ」


 そして隙が出来た横脇から思いっきり拳を抉り込ませた。ドリルで削られたような痛みが襲いかかった。

 攻撃されて横腹を抑えて屈み込む燈。すると、恵魔は空高くジャンプして一回転し、そのまま真っ直ぐと燈の頭から、かかと落としを食らわせた。

 気絶した燈は地面に叩きつけられて、地面に大きなヒビが入った。


「なんて事を!」


 廉が立ち上がって、恵魔に言うとぬるりと立ち上がって顔を傾けて言った。


「あぁん? 雑魚い奴はこうやって地を這い蹲ってばいいんだよぉ。へへ」


 恵魔は倒れている燈の頭を踏み捻りながら、ワザとらしく廉に見せつけた。今度は聖燐が前に出て来た。

 拳をプラプラと震わせながら怒鳴りつけた。


「その足を退けろ!!  汚らしいクズが!」

「次はお前かぁ? 名を言ってみろ」

「あたしは紅羅輝聖燐! 恵魔、あたしを覚えているか!」


 聖燐がサッカーボールを片手に持ちながら言うと、恵魔はまた不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと聖燐に近づいてきた。


「こう見えて俺、記憶力わりぃのよ。済まんなどうでもいい奴は覚えねぇんでな」


 聖燐はイラついて今すぐにでも殴りかかりたいがグッと抑えて身構えたまま敵の動きを探った。

 恵魔の腕がいつでも攻撃出来るように、軽く開いているのを見て勘付いた。


「人の闘気はすぐにも放出される。貴様は俺を攻撃したいが、すぐに反撃されるのが怖いからだろぉ?おぉん?」

「あぁ、そうかもな。だがよぉ。覚えてないなら、アタシの戦い方も分かんないんだよな。ならば、アタシの戦略を見極めてみろや」

「そうさせてもらうよぉ」


 そして近づいてきた恵魔は、両手を獰猛な動物の爪のように立てて攻撃を仕掛けた。

 聖燐は瞬時に対応し、顔を後ろへと動かしてギリギリでかわした。

 髪に掠って少しだけ斬れた。そして聖燐は反撃に出て、隙が出来ている足元を狙って蹴り突いた。その足を届かなかった。

 素早く狙ったはずだが、恵魔に受け止められた。


「……そういえば、居たような気がするな。祐の奴に小判鮫のように引っ付く奴が」

「ちっ……うるせぇ!」


 更に恵魔は密着状態で爪を立てて、聖燐の目に目掛けて突いてきた。

 何かを貫く感触がした、だけどそれは聖燐の目ではなく、サッカーボールだった。

 恵魔の手で貫かれ、空気が抜けていき萎むボール。聖燐は受け止められた手から足を無理やり離して、一歩下がって叫んだ。


「サッカーボールの使い方は、こうするんだよ!!」


 足を蹴り上げて手に突き刺さったサッカーボールごと、恵魔の顔を蹴り上げた。

 鈍い音共に数歩下がって顔を両手で抑えた。

 その隙に更に胴体に蹴りを一撃加えて、地面に倒した。


「少しは効いたか、このやろう!」


 ガッツポーズをする聖燐。

 廉の心臓はドクドクと激しく恐怖の鼓動を続けていた。

 さっきのニヤリと笑っていた顔、まさに悪魔。まるで理性を失った時の自分のように。


「ふっ、ふふ」

「ちっ。簡単には倒れてくれんか」


 恵魔は顔を上げると、再びニヤニヤとした顔で、聖燐を覗いてきた。


「少しは効いたぜ。でもな、こんくらいじゃあ精々、蚊に刺された程度だなぁ」


 聖燐は先程破壊されたベンチの破片などを握りしめて、次なる攻勢に備える。

 恵魔が手を広げながら迫り、警戒する。

 先手は──聖燐が仕掛けた。

 手に握りしめていたベンチに使われていた釘を指で弾き、恵魔の顔面にぶっ飛ばした。

 恵魔は釘を手刀で粉砕し、前屈みになって聖燐へと接近した。


「効くわけないよな、やっぱし」


 接近してきた所に、聖燐は驚いてベンチの破片を手放した。

 破片が地面に落ちる瞬間、目を光らせて恵魔目掛けて蹴り飛ばした。

 

「オラっ!」


 破片は恵魔の頬を擦ったが、恵魔は止まる事なく眼前に迫り、爪を立てて手を振り翳した。

 その時、聖燐は口から小さな爪楊枝サイズの木の破片を吹き矢のように吹いた。

 破片が恵魔の目を掠り、少しだけ動きが鈍り、ワンステップ後退して攻撃を避け、逆に顎を蹴り上げた。

 そしてその場で飛び上がり、顔が仰け反った恵魔の顔面に両足を突き出して強烈な一撃を叩き込んで蹴り飛ばした。


「よし!」

「ふふ、ははは!!」


 地面に倒れた恵魔の額から血が流れている恵魔が突然笑い出した。


「訂正させてもらう。聖燐よ、お前の事を思い出した」

「やっと思い出したか?」


 そう言って立ち上がり、笑いを堪えながら言った。


「祐の自称ライバルだったよなぁ。やるじゃんかヨォ。想定以上の戦闘能力だぁ」

「アタシはパワーもスピードもタフさもない。だからこそ、自分の武器は洞察力と環境そのものを利用した戦闘技術だ」

「確かにパワーはないが、その観察力見事だ」

「お前の認識速度が早いからこそ、別の物に認識を寄せて攻撃をしたまでよ」

「戦闘美学に長けた考え、褒めようぞ。そんなあんたに少しだけ本気を見せちゃおうかなぁ」


 恵魔の雰囲気が突然変わり、ゆっくりと口角が上がり始め、目の色が変化した。

 その場にいる全員の全身から鳥肌が立ち、その気迫から動きたくても動けない。金縛りにでもあったような感覚だ。


「動きは規則的になる。昔、本で読んだ。いや読ませてもらったの間違いか。つまりは癖だよ。人は認識的には自分の考えで動いているが、咄嗟の判断というのは自分の意思ではなく、身体のそのものの意思が判断下している」

「何が言いたい」

「結局はその瞬間に危機だと感じたから、身体が防衛本能が働き、最善の動きを尽くそうとする。でも、もしその防衛本能が機能しなくなったらどうするよ」

「……どうゆう──」


 全員が恵魔から見えないはずなのに見えた。邪悪な赤黒いオーラが。

 再び爪を掻き立て、猛獣の如く突進し、大きく爪を振り下ろして、聖燐の背後へと降り立った。


千華峰甲(せんかほうこう)


 その瞬間、聖燐の身体の至る所に、爪に切り傷ができ、血が吹き出た。


「ぐはっ!」


 見えない。いや、動けなかった。

 身体が考える事を拒否していたのか?動くと言う考えそのものが頭の中になかった。

 身体が全ての思考を放棄した。


 

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