43.暗雲立ちこめる廉
廉が倒れて、夜が明けて朝になった。目が覚めるとまた、ベッドの上に戻されていた。
横では聖燐が半目でこちらを見ていた。
「また、私。やってしまったのね……」
また、自分の意思に反して、暴れまわっていた。どうやっても止める事が出来なかった。
自制心をどれだけ働かせても、まるで汚染されるように自分が何処かへと消えて行った。何かが起きたのか記憶は全くない。
でも、祐の事を考えると、少しだけ頭の中の汚染をギリギリで止められた。
「アンタのおかげで、ゴリ──いや、燈もあたしも大怪我を負わずに済んだんだ。気に病むことは無いぜ」
「でも、また何か自分がやらかしそうで怖い。今回は貴方達を守れたから良かったけど、次は分からない。それがとても怖くて自分が自分じゃなくなってしまうのよ」
聖燐自身も分かっていた。
あの異様な強さ。いったい何故、一体どこから出ているのか?
ひょっとこの行動も分からない。
だが、廉と祐のあの異様な強さになる瞬間、周りの空気含めて、黒いオーラのようなものを感じる。
それを解明するにはまだまだ自分の理解が及ばない。
「怖くなる気持ちも分かる。だが、それを胸に留めたままなのもダメじゃねぇのか」
「え?」
「アタシはずっと祐と戦い続けて、勝った試しなんてない。でもさ、勝てないと分かっていても、いつか勝てる日が来る。そう思って自分自身を奮い立たせていたんだよ」
「つまり、根性論?ってこと?」
「あぁ、まぁ、そゆことだけど、ちょいと違う。気持ちの持ち用でもあるが、その信念そのもの、そして努力が必要だ。勝ちたい、勝ちたい。でも、勝てない。ならばどうする?訓練だ、妄想だ、特訓だ!」
と声をあげて拳を何発か突くと壁を思いっきり殴ってしまい、手が赤く腫れ上がった。
「あいたたた!」
「結局は根性論じゃないの」
廉が落ち着いて言うと、聖燐は手を隠して笑いながら話を終えた。
「あ、はは。馬鹿なりに考えたけど、ダメかな?」
「ダメダメよ。でも、少しだけ元気をもらえたわ。ありがとうね」
聖燐の言葉や行動から少しだけ元気を貰えた。
それでも、自分自身のコントロールが効かない事には頭を悩ませる。
それに祐が今何をしているのか、やはり心配になっていた。
捕まってから数日間もここに居て、祐がどうなったのか、一切分からなかった。
親にも多分連絡がいっているだろう。祐が獄門学園へと行った事を知らされている。
でも昨日まであった寂しさは何処かに吹き飛んでいた。ここで仲間を作って、忘れてかけていた友達という感情が生まれた。
学校での仲間なんて、裏で悪口を言われている事を知り、友達なんて上っ面だけだと知った。
だがここでは、自分みたいな奴に優しくしてくれて、普通に接してくれて、自分と居て笑ってくれる人。上っ面だけじゃなく、本心と感じた。
昨日も久しぶりにスポーツをしたが楽しかった。キャッチボールだけど、とても楽しかった。
昔、祐と遊んでいる時と同じだった。楽しくて時間を忘れてしまうほどだった。あの頃はとても、よかった。
聖燐に勉強を教えるのも楽しかった。祐に教える時よりも物分かりがよく、分かった時の嬉しそうな顔、そして感謝された時の笑顔。
忘れられなかった、こんなにも嬉しい顔をされたのも久しぶりだ。
なんだか充実した日々を送っている気がする。本心で頼ってくれる人がいる。本心で喜んでくれる人がいる。
あの頃と同じずっとずっと誰かが後ろについてきてくれて、自分を大切な人と思って慕ってくれた。
そういえば今の祐は、私といて本当に楽しいと心から思っているのかな。
『廉姉の妹なんか辞めてやる!』
その言葉は私の心に刺さった。
このリボンも何もかもが必要じゃなくなった?私は何の為に生きてたの?
弁護士になりたかった?病院の先生になりたかった?女優になりたかった?どれも考えた事なんてなかった。
祐を導く為にずっとこの身を捧げてきた。
祐と姉妹じゃなくなったら私はただの囚人であり、囚われた烙印を押された姉失格の人間。
でも、ここには仲間がいる。私を慕ってくれる仲間が……もうこれでいいのか?いいんじゃないのか。
祐がいなくても……祐がいなくても……祐が……
「また、寝ちゃったか……大丈夫だよな。祐、廉」
廉は寝てしまった。
戦って疲れのもあるが、また心に一つ暗雲が立ち込めた。
聖燐も身体の傷を癒す為に、また眠りに入った。




