4.学校到着……からの
祐と廉は山の麓にある花凛女子学園の校門前へと到着した。緑豊かで、自然に囲まれた学園で、全生徒千名を超える町でも最大級の女子校である。二人が歩いていると色んな生徒が挨拶をしてくる。そこでは二人共別々のタイプの人々が挨拶をしてきた。
廉は自分と同じく、頭が良く、落ち着きがある清楚なお嬢様タイプの人がしっかりと頭を下げて挨拶をした。
「廉さんおはようございます」
「おはようございます南さん」
「廉さん今日も綺麗ですわよ」
「ありがとうございます京さん」
一方祐は、スポーツをしている生徒や多少やんちゃそうな生徒達が軽く挨拶をしてきた。
「祐おはよう! たまにはテニス部に遊びにおいでよ!」
「ういっす! 近々行ってやるよ!」
「おいっす祐! 今日ゲーセン行くか?」
「別の用事がすまねぇな! いつか予定空けとくか、そん時な」
お互いにある程度挨拶して校門に着き、祐は両足でジャンプして校門を渡った。
「到着っと!」
「到着予定ギリギリね。間に合ってよかったわ」
祐が学校の四階に設置されている大型時計を確認すると八時二十五分を指していた。
「二十五分なら充分いいじゃねえか」
「一分一秒の遅れが、人生を狂わすのよ」
「そんな時間に縛られた生活なんて面白くねぇよ。自由にしなくちゃ人間は」
「社会人になったら時間の大切さを知る事になるわよ」
「今は今、未来は未来って事で」
「全く……」
そうして歩いて行くと、祐はとある事を思い出した。
「あっ廉姉、後で小テストの問題の解き方を教えてくれよ」
「昨日、あんなに教えてあげたじゃない……」
祐は両手を合わせて深く頭を下げて、真剣な顔でお願いした。
「お願い、教えてくれ! 点数低かったら、放課後残る事になるんだよ! 子供たちとの約束を破る事になるんだよ!」
祐の言葉に先程の子供の笑顔が浮かんできた。祐の賢明なるお願いを受けて、廉は深く息を吐いた。
「はぁ……分かったわよ。教えてあげるわよ」
廉が承諾した瞬間、急に笑顔に戻り、廉の肩を何度も叩いた。
「サンキュー廉姉! 流石、話が通じるぜ!」
上機嫌になった祐は呑気に鼻歌を歌いながら、玄関へと向かった。なにせ廉は学校の中でも学力一位の実力を持っていた。その点、祐は勉強を全くせず、学力ワースト十位の実力だった。当の本人はこれといって気にする様子も見せずに、呑気に遊んでいた。だから、廉はもっと祐に現実を見てほしいと思っていたのだ。
玄関前に着くと、腰に木刀を掛け、一人の金色でポニーテールの髪型をした祐と同じくらいの背をした女子が腕を組んで待っていた。
「また、あいつかよ……」
「仲良いわね」
「んな訳ねぇよ」
祐はその顔を見るなり、足が止まり頭を抱えた。それは厄介者が現れ、面倒くさい事に巻き込まれるからだ。廉は反応を示さずに静かに祐を待っていた。
そして女子は木刀を構えて祐の目を睨みつけて、威嚇してきた。
「おい、万丈祐!! 今日こそ、覚悟しろ!」
「聖燐よぉ……お前も点数低いんだろ、勉強したらどうなんだよ」
木刀を構えているのは、中学の時から今日この日までずっと祐と喧嘩をしまくっている自称永遠のライバルの紅羅輝聖燐。昔から喧嘩していると言っても、別に勝ったことはない。そして聖燐もまた、祐に負けないほど頭が良いわけでなく、昔から数学の点数勝負をしていた。でも二人共体育だけは成績五であった。今回も、今祐に言われて小テストの存在に気づき、木刀を下ろして聞き返した。
「あれ? 今日テストだっけ?」
「そうだよ、点数低かったら放課後残しだってよ」
放課後残される事を聞き、少し悩み始めた。だが、聖燐的には放課後の残しなんてどうでもよかった。小テストの事は諦めて、再び木刀を祐に向けた。
「……そんな事どうでもいい! とにかく、お前を倒さなければ死んでも死に切れん!」
困り果てた祐を見て、廉は軽くほくそ笑んだ。
「人気者は大変ね」
「うるせぇやい!」
「私はこんな事に付き合うのはごめんよ……先に教室に行っているわ」
そう言って聖燐の真横を平然と通り過ぎて学校内へと入っていった。
「ちょっと廉姉待てよ!」
「早めに事を済ませてね」
祐が追いかけようとすると、聖燐が両手を広げて道を塞いだ。
「あたしを倒してから行くんだ!」
「本当にお前めんどくせぇ奴だな!」
「覚悟!」
無理やり行こうとすると木刀をめちゃくちゃに振り回してきた。祐は全て避けたが、正面から行くのは無理だと思って、木刀を蹴りで弾き飛ばして、玄関から一旦離れて、別の場所から迂回する事にした。
「おい待て!」
聖燐はすぐに木刀を拾い上げて、振り回しながら祐を追いかけて行った。テスト勉強がしたいのに出来ず、嫌々追いかけられる祐。その間、廉はゆっくりと教室へと向かって行った。