39.二人の長旅
一方、祐と望江は淡々と自転車を漕いで、獄門学園へと向かっていた。
朝からもう何時間漕いだかも分からず、気づいたら夕方になっていた。
今いる場所は何処か分からない山の中。勘と記憶を頼りに自転車を漕ぎ続けているが体力も有限。
「少し休む?」
「あぁ、漕ぎっぱなしで疲れた」
「そこのコンビニ寄ろう」
二人はとりあえず休む為に、山の中のコンビニへと寄っていた。
疲れ果てた祐は自転車から降りて、コンビニ入り口の段差に腰を下ろした。
天気が良かった事もあり、汗も大量に掻いて服をパタパタと引っ張っていた。
「ふぅ……疲れた……望江は疲れてないのか?」
「あたしは慣れているからね。特に自転車は。なんか飲み物買ってくるけど、何がいい?」
「お茶かな。種類は何でもいいよ」
「了解、行ってくる」
祐が言うと望江は背を向けて軽く手を上げながら、コンビニに行き、飲み物を買いに行った。
祐は一人ボケーッと口を開けて空を見上げた。
夕方のオレンジの世界と夜の暗い世界が融合しようとしている空を眺めていた。
涼しく、汗のせいで身体冷えるほど冷たい風。
何かこんな夕日は久しぶりな気がして、どこか懐かしい雰囲気に浸った。
「何か久しぶりだな、夕日をまともに見るのは……」
あの人と初めて会った日も夕日だった。
それと空を眺めて、もう一つ思った。廉姉は今頃何をしているのだろうと。廉は強く、それに聖燐も一緒にいる。
だから、簡単にへこたれないと信じている。安心は出来るが、麗花が言っていた恵魔の存在だけが、気がかりだった。
流石にもう獄門学園にはいないとは思うが、奴は廉姉を心底恨んでいるだろう。
そんな風に考えていると、ペットボトルのお茶二本を買った望江が戻ってきた。
お茶一本を下投げして、祐に渡した。
「オラよ、ご注文のお茶だよ」
「お! サンキュー」
キャッチした祐はポケットから財布を出して、お茶代を渡そうとした。
望江は手で止めた。
「いいよ、お金なんてあたしの奢りだよ」
「え? だって望江が払ったんだから、俺もその代金払わないと」
「ダチが奢ると言ってるんだ。素直に受け取ってくれよ」
奢ってもらう事が無かった祐は少し笑いながらお茶を飲んだ。
「ありがとう……こんなの初めてだから、分からないや」
「ないのか? ダチと一緒にいたら奢る事なんて一回や二回くらいあるだろ?」
望江もお茶を飲みながら、横に座ってきた。
「いや、お前が言うダチって心を許せて、相談しあえる仲だろ」
「まぁ、そうだな」
「俺も学園では話す相手はいっぱいいる。でも、心から許して話す相手は一人もいなかった。何かの役に立とうと、小学生の野球に付き合ってあげたり、テニスの助っ人に入ったり、色々と手伝って、友と呼べる奴は多くいたが、親友はまだいないな」
しょんぼりと顔を下げる祐に、望江は笑いながら頭をめちゃくちゃに髪が乱れるほど撫でた。
「な、何すんだよ」
「言ってくれたじゃねぇか今」
更に望江は祐に抱きつき、祐の頰に自分の頰を何回も擦りつけた。
「うわっ!?」
「お前が思っている事、今言ってくれたじゃん。それが友だ!!」
「え、そうゆうもんなのか?」
「そうゆうもんだよ。本当のダチに出会えるのは宝くじが当たるよりも低いさ。宝くじを買ってるのと一緒で、大量の友達に話しかけて、その一人と友達になれば当たり。でも、その中から信じあえる親友が出来れば大当たり。それこそ本当の運であり、運命なんだ」
「運命……」
「うん、何億ものお金なんかよりも、素晴らしい物を手に入れられるんだ。今回、お前と仲良くなれたも運が良かったからだ。素晴らしい出会いに乾杯!!」
頰を擦り付けられて満更でもならそうな顔をする祐。
「あんまり擦るなよ、気持ち悪いぜ」
「そんな事言うなよ!! あたしと祐の仲じゃないか!!」
「へへへ……ありがとな望江」
「これって運命だな!」
静かな山道の端にあるコンビニから、二人の高校生の笑い声が響いた。とても楽しそうな笑いだった。
心から信じあえる友が初めて出来た。
同じ境遇から育った二人。奇妙な運命、姉が学安に捕獲されて、暗い顔をしていた祐から出た久しぶりの本気の笑い。
「よっしゃ!行ったるぜ!」
「再度出発だ、学園とやらに!」
自分たちは本当の友として、また自転車を漕ぎ、獄門学園へと向かう。姉を救う為に。




