35.暗い光
私は祐がお姉さんに出会うより前にお姉さんに会っていた。
祐を探しに公園に行った時、お姉さんに会った。
「祐〜!どこ〜!」
「誰か探しているの?」
それがあのお姉さんだった。私はその人に祐の事を話した。
「君とそっくりな顔の女の子ね……」
「私の妹なんです! 人形を持っていて……」
「う〜ん……見てないわね……」
「そうですか……」
「なら、私も一緒に探してあげる」
お姉さんは私と共に祐を探すのを快く受け入れくれた。探しているの最中、お姉さんは優しく話しかけてくれた。
「君、名前は?」
「私は万丈廉、妹は祐です」
「祐ちゃんか……分かったわ。私も探すの手伝うわ!」
「いいんですか?」
お姉さんは優しく頷いた。
「もちろんよ。探してあげるわよ」
そう言うとお姉さんは大きく祐の名前を言って祐を探し始めた。
私もお姉さんに見習って大きな声で呼びかけた。その後も祐を探しながら、色々と話してくれた。
「廉ちゃんと祐ちゃんは仲が良いの?」
「うん! 私、祐大好き! でも、友達が少ないのが悩みなんだ。話そうとする緊張しちゃうみたいで。何とかしてあげたいんだけど……」
「友達が少ないかぁ……まず、普通におはようとか、次の授業何?って簡単に聞けばいいのよ。あまり考えずに話す必要はないのよ」
「なるほど、ありがとうございます! 妹に教えます!」
再び公園に戻って砂場に行くと、祐が一人で遊んでいるのを発見した。
私は嬉しそうに飛び跳ねてお姉さんに伝えた。
「あっ、いました! 妹の祐です!」
「あれが妹の祐ちゃん……か。本当にそっくりね」
お姉さんは祐を見つけた私を見て、心から安心した表情をしてくれた。
「良かった。じゃあ私はこれで帰るわね」
「あ、ありがとうございます!!」
私は頭を深く下げて祐の元に向かった。お姉さんは私を一度止めて、アドバイスをくれた。
「廉ちゃん……姉妹ってのはお互いに困難を乗り越えるものよ。いつしか衝突もあるかもしれない。でも、心を穏やかにして乗り越えるのよ」
「はい!!」
そう言って私は頭をもう一度深く下げて、祐の元へと向かった。
祐の言う通り、あの人の言葉はとても私達姉妹に影響を与えたのかもしれない。
だからこそ、私は──
*
廉が覚めて起きた。
身体中汗をかいて、疲れは全然取れていなかった。塔全体が暗くなっており、まだ就寝時間のようだ。リボンを確認すると、廉の真横に不器用ながら畳まれていた。
「やっと目を覚めたか……」
「……貴方。ずっと起きてたの?」
「あぁ」
聖燐はか細い声でベッドの上から胡座をかいて、眠らずにじっと廉を見つめていたのだ。
「あんなに強かったなんて驚いたぜ。まるで別人みたいだったぜ」
「別人……うっ!」
燈との戦いの事を思い出そうとしたが何かが突っかかり、無理やりにでも思い出そうとすると頭痛が襲いかかってきた。
聖燐がすぐにベッドから立ち上がって、心配そうに寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「えぇ……大丈夫よ。でも、何が起きたのか全然……」
「えっ?」
「ここにいた記憶はあったのに気づいたら、就寝時間になってしかも身体全体から見に覚えのない痛みと疲れが溜まっていたの……」
やはりあの時の戦いでは、別人のようだと思っていた聖燐。
廉はあんなに暴力的な人でもないのに、一方的な攻撃を繰り返していた。
やはり、あれは別人なのかと疑問に思っている聖燐。
「記憶がないだと!? あのゴリラを一方的に攻撃して、背負い投げで倒したんだぞ?」
「背負い投げで倒した……どうゆう事よ」
話されたってそんな事、見に覚えがなかった。
あの時、周りの聖燐を嘲笑う声が聞こえてきて、そこで途切れていた。
そして気づいたら、腕や足に痛みが残っており、寝ていたのであった。
「嘘だろ……本当に記憶がないだと?」
「……全く思い出せないわ……」
「こりゃあ困ったなぁ……」
廉ももっと聞きたい事があったが、眠たそうな顔をしている聖燐にこれ以上聞くのも悪いと思い、寝るように促した。
「私はもう大丈夫だから、貴方はもう寝なさい」
「そうさせてもらうよ……お前も朝の為にゆっくり休めよ」
「えぇ、ありがとう」
布団を被ると数秒で寝た聖燐。
そして廉は一人で何か思い出さないかを考えた。すると。
檻の外から人の鋭い視線を感じた。その人影に気づき、そっとベッドから立ち上がって、檻に触らないようにして檻の外の通路を確認した。
でも感じた。鋭く、狂犬のような殺意を感じさせる視線を感じたのだ。
気のせいだと思い、ベッドに戻ろうと振り返ったら、暗闇の中で制服を着た女性囚人がベッドの上に正座をして座っていた。簡単には入らないこの場所に入った事が気になったが、今大声を出すと問題になる。色々と考えたいことはあるが、廉は冷静に対応した。
「誰なの……貴方」
何も言わずに、威圧的な雰囲気を醸し出す囚人。
廉が少し警戒しながら近づくとその姿がうっすらと見えた。
その囚人の顔を見て、廉は驚いた。ひょっとこのお面を被っていた。その姿に廉は口が開いたままになっていた。
「どうやってこの部屋に……」
部屋の周りを一度見渡しどこから入ったのか確認して、再びベッドを見るとお面の女は姿を消していた。
「お前が燈を倒したのか?」
真後ろから聞こえてくる女の声は感情を読み取ることが出来ないほど、低く独特な声だった。
「……いつの間に後ろに……」
「もう一度聞く。お前が燈を倒したのか」
廉は冷や汗を掻いた。その背後から感じる殺気は、ここに来てから多くの囚人から殺気を感じてきたが初めて感じた。危険な雰囲気を感じ、あまり刺激しないように平然を装って答えた。
「私が倒したわ……と言っても私の記憶には無いんだけどね」
「ほぉ」
一瞬の沈黙が起きた後に、背後から感じた殺気は突如消えた。背後を恐る恐る振り向くと、お面の女はいなくなっていた。
再び見渡すが、やはり何処から侵入したかは分からなかった。
「誰なの……一体」
廉は嫌な予感がした。何かに巻き込まれるのだろうかと、不安を感じながら眠りについて朝を迎えた。




