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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
第三章 姉妹の亀裂
34/66

34.暗い就寝時間

 燈戦から何時間か経ち、時間は就寝時間へと変わって塔全体は暗くなっていた。

 廉は燈との戦いの後、気絶して聖燐と芽依がベッドに運んでくれた。

 だが、廉は未だに目を覚まさず、苦しそうに魘されていた。その最中、昔の夢を見ていた。

 それは四年前のあの日の、祐が憧れていたあの人が事故に遭った日だった。



 あの日の夕方、生まれて初めて私と祐は喧嘩をした。

 それはそっても些細な事だった。


「祐はなんでちゃんと話を聞かないのよ!」

「……廉お姉ちゃんより、公園のお姉ちゃんの方が優しいんだ!」

「なら、その人の妹になりなさいよ!」

 そう言うと祐の目から無数の涙の粒が流れ出した。

「……れ、廉お姉ちゃんなんて大っ嫌い!」

「祐! 待って!」


 祐は泣きながら家を出て行った。

 私は一時間もすれば帰ってくるだろうと、追いかけもせずに家で待っていた。だが一時間経っても帰ってくる様子もなく、日も暮れて外は激しい雨が降り始めた。

 中々帰ってこない祐にお母さんやお父さんも心配し始め、私は責任を持って何も言わずに二本の傘を持って家を出て行った。

 真っ先に浮かんだのはあの公園だった。いつも祐が行っている公園に向かった。

 そこになら必ずいる。絶対に。そう信じて、大急ぎで向かった。


「祐! 祐! いるなら返事して!」


 大雨が降り、小さな私の声が掻き消される中で必死に呼びかけをやめなかった。

 声が枯れるほど呼びかけて、公園の中を隅々探したが、全く見つかる様子はなかった。

「祐、一体どこに……きゃっ!」


 公園から出ようと走り出し、石に躓いて身体から思いっきり転んで、服が泥まみれになった。


「痛てて……」


 膝から軽く血が流れて痛みが足を襲うが、その時の私には祐を探す事が第一だった。

 だから痛みを抑えて、立ち上がって汚れを気にする事もせずに、再び歩き始めた。

 他にも学校の校庭や近くのデパートにも寄ったが、見つかる事は一切なかった。その後も、いろんな場所を探しながら祐を呼びかけたが全然見つからなかった。


「どこなの祐……どこ」


 足が痛み、身体は雨に濡れて体温が下がって、体力は徐々に失われた。

 だけど、疲れを見せる事もなく、ずっと町を走って居場所を見つけようと必死だった。

 こんな雨の日に小さな女の子が一人で傘も持たずに家出して何時間も戻らない。

 私の脳裏には最悪の事態が過っていた。

 もしかしたら──

 なんで喧嘩しちゃったんだろうと、私は後悔し始めた。頭の中には祐の事で一杯になって走っていた。そして信号に差し掛かった。

 その時、私は信号を確認するのを忘れており、信号が赤を記しているのに横断歩道を渡ってしまった。真ん中を歩いている時に、横から勢いよく車が走ってきた。

 私が気づいた時には、ほぼ目の前に車が迫っていた。雨が降っている日の夜は、視界が通常よりも悪くなる。

 運転手も気づいた時にはブレーキを掛けても、遅かった。

 この時、全てを悟った。自分は死ぬ。祐に謝る事も出来ず、こんなにあっさり死ぬのかと。恐怖を前に、廉は腰が抜けて足が動かなくなった。

 恐怖に涙が出て、諦めた。その時、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。

 それも私にも聞き覚えがある声だった。


「危ない!!」

「!?」


 誰が飛び出て来て、私を突き飛ばした。

 私は何が起きたのか分かる暇もなく、道の端に転がった。

 そして目の前では、車と誰かが衝突した。鈍く、生々しい何かが破壊される音がその場に響いた。


「う……何が起きたの……」


 私は怪我はしなかったが身体には痛みを感じた。我慢して起きると、そこは壮絶な現場になっていた。

 車が止まっており、車前方のボンネットと窓が傷ついていた。

 更にそのライトが照らす先に制服姿の女性が転がっていた。

 その女性を見て、私の頭によぎった。この人、見た事ある。それもとても身近な人だと。

 おぼつかない足取りで、その方向に向かった。そこには運転手の男性が必死に倒れている女性に呼びかけていた。


「大丈夫か!? おい! 返事をしろ!」

「お姉……さん」


 近づいた私はその倒れている女性を見て確信した。あのお姉さんであると。

 一年生の時に遭ったあのお姉さんだと。運転手の男性は、私の存在に気づき、すぐさま私の目を手で隠して、遠くへと離した。


「君は見ちゃダメだ! 離れてなさい!! 今から救急車を呼ぶから──」

「え……え」


 私はずぶ濡れになっていて、身体も傷がついていた。

 だが今、そんな事は関係なかった。祐の事はいつのまにか忘れていて、ただ呆然と傘をさして救急車が来るのを待っていた。

 救急車は到着してすぐにお姉さんを応急処置をしていた。私はそれをじっと見ていた。

 その間、何も考える事が出来なかった。


「お、お姉さん!」

「祐……」


 祐が救急車の音でここに来た。

 そしてあの人の無惨な姿を見て、駆け寄って救急隊員の人の制止を振り切って、あの人に声を掛けていた。


「どうしたの!?何でお姉さん!!ねぇ!!」


 私はずっと声を掛けている祐を見つめていた。

 自分がここにいる事も、祐を探していた事も何も言えずにずっとあの人に声を掛けている祐の背中を静かに見つめていた。

 その時に祐が憧れていた人だと分かった。

 それと同時に自分自身に罪悪感が湧いてきた。


「私のせいで……私のせいで……」


 私のせいでお姉さんが死んだ。

 その出来事が何年経っても頭から離れなかった。離そうと頑張ったが、いくら時間が経っても離れない。

 あの人の遺体が脳裏に残り続けている。

 祐はあの後に、心身喪失となってしまった。その時の記憶が一部喪失し、お姉さんが無くなったことは覚えていても、その前後の記憶が朧げになってしまっていた。

 私は自分にできる事を考えて、祐のサポートを徹した。あの人の事を忘れさせるように。


 でも、祐が家にいる時はいつもあのお姉さんの話ばかりをして、とっても羨ましかった。

 祐に頼られる自分がとっても自慢だった。

 だから私があの人より祐に頼られようと必死に勉強をした。

 そしていつしかお姉さんが憎き相手へと変わっていたのかもしれない。

 自分が祐に頼られないのが怖かった、自分を必要とされないのが怖かった。

 でもあのお姉さんは私の命を助けてくれた。自分の命を投げ出して。

 私は後悔した。自分がしてきた行いを。

 


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