33.清々しい出発
数分後、望江たちは、祐の自転車を持ってきてくれた。
何とか教頭も救出され、麗花は何度も何度も頭を深く下げて謝罪したが、教頭は笑顔を許していた。
「いいんじゃいいんじゃ。十分伝わったから」
「だが──」
「昨日と同じだ。更生したと伝わったから、許しているんだ。若いからまだ何とかなる」
「ありがとうございます!」
そう言って教頭は麗花を許したのだ。
そして望江の部下達が自転車を持ってきてくれた。
「祐、これお前の自転車だろ!!」
「俺の……じゃないけど、ありがとな!」
祐が自転車に乗ると、後ろから自転車に乗ったサングラスを付けた望江が華麗に現れた。
「どうしたんだ望江? 見送りか?」
「いや、あたしも一緒に行くぞ」
ここにいる全員が大声を上げて驚いた。麗花も驚きながら望江に聞いた。
「お、お前……獄門学園に行くのか!?」
「行きますよ。あたしなんかが言うのもあれですが、祐一人じゃ心配ですから。それに獄門学園の場所なんて知らないだろうし」
祐も驚きながら聞いた。
「知っているのか!? 政府には非公表なはずなのに」
「結構遠いが、昔麗花さんとドライブした時に何処かの山奥でヘリが海の向こうに飛んでいくのが見えてな」
「海の向こう側?」
「あぁ、獄門学園は海の孤島にある場所だ。だからこそ、誰もアソコからは逃げ出した事はない」
「そこに獄門学園があるのか?」
「その可能性が高いと思う」
海の向こうにある。
そう言われ、どうやって行けば良いんだと祐は悩んだ。
「海にあるのに、どうやって行くかだな」
「海の近くに給油地点のヘリポートがあると聞く。ヘリが飛んでいく方向を追っていけばいずれは着く」
「なるほど、そこでヘリにしがみつけば良いって訳か」
「あぁ、お互いに自転車だからかなり時間がかかるだろうけど、そこに行けば獄門学園に行ける方法があるってもんよ」
「でも望江、俺は獄門学園に行くと言っても、捕まるつもりで行くんだ。相当の覚悟が必要だけど、いいのか」
そう言うと望江は軽く微笑んで自分に親指を向けて答えた。
「この命一度は投げ捨てた身だ! 大切な物を守る為、どんな所で突っ込んでやるさ!! たとえ獄門学園だろうとな!!」
「覚悟はあるようだな……感謝するぜ」
「うん。俺は大丈夫だ。教頭とも出会ってお互いに話のケリもつけた。あぁ、信じてくれ。俺からも感じたんだ。教頭は変わったと。分かった。ありがとうございます!」
電話を切るとスマホを教頭に投げ返した。
「教頭!また学校に戻ってこいってだってよ!」
「え?学校に?」
「俺が校長と話を付けた。君の言葉を信用するから、またお願いしますだってよ!」
「校長と!?」
「車の弁償はしなくて良いって言われたけど、俺からの償いの一つだ!また頑張ってくれよ教頭!!」
教頭は学校には戻れないと思っていた。あんな事をしてしまい、学校をかき乱してしまったのに。
校長に許され、自分の心の中に昔のような学校をより良くする自分が芽生え始めていた。
そんな教頭の目には涙が流れていた。
「本当に君には感謝する……何もかもが。また、頑張れる。昔のように……」
「へへ、お礼を言うなら廉姉と共に帰ってきた時に行ってくれ」
「うむ。絶対に戻って来い。姉妹共々」
教頭が手を差し伸ばすの祐は手を握り、お互いに健闘を祈りあった。
「そっちは終わったな。なら、アタシも」
望江も自転車から降りて麗花の元へと寄った。そしてサングラスを外して、深く頭を下げた。
「麗花さん……行ってまいります」
「私も行きたい所だが、この学園や町の人々に謝ってくる。自分がしてきた行いを償ってくる。お前は私の最高の妹分だ。絶対に諦めるな、私たち全員が後ろにいる事忘れないでほしい。お前が戻ってくるまで、みんなここで待っててやる。安心して行ってこい!!」
「はい!!」
麗花は望江の肩を押した。
その押した中には他の部下たち全員の気持ちもこもっており、望江の身体に一気に叩きつけられた感覚になった。
全員の応援に対して、望江は涙を浮かべているが、笑顔を絶やさずに敬礼をした。
「みんな、行ってきます!!」
そして自転車に乗り、祐の横へと自転車をつけた。
「いいか、お別れは済んだか? それに本当にここを離れていいのか」
「ここで止まっていても、しょうがないさ。あたしは、新たな仲間と新たな世界へとガンを飛ばしに行く!自分の弱さを克服する意味も込めてな!」
「ふっ、なら行こう。獄門学園へと!!」
「おうよ!」
二人が拳と拳を軽くかわしあった。
そして望江は麗花たちに背を向けて自転車を走らせた。
麗花もこれ以上何も言わず、全員悲しそうな顔一つせずに見送った。何か一言でも言うと、また恋しくなってしまい、思い留まるかもしれない。振り向かずに学園を去って行った。
でも、心の中にはここにいる全員と出会った日の事を振り返った。
絶対にまたここに戻ってくる。そしてまた、皆んなと笑い合える日々が来る事を信じて。
「……」
教頭も教師としてこれ以上何も出来ないことに悔しさを感じる。
だが、教師としては生徒の成長を背中から押して、見守る事が今出来る最大限の応援だと思い、同じく祐を見送った。
祐が見たヘリが向かって行く方向へと自転車を漕いで、新たなる旅立ちが始まった。




