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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
第三章 姉妹の亀裂
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28.祐vs麗花


 祐は望江と教頭を見ていた。

 どちらが勝ってらどちらかが落ちる。どっちも落ちてほしくない。仲直りした教頭。ダチになった望江。どっちも見捨ててはいない存在。


「よそ見してんじゃねぇぞ!」


 一瞬の気の緩み、祐の視線が別へと向いた隙に麗花が目の前に迫り祐に殴りかかった。

 気づいた時には遅く、拳は祐の頰を深くめり込んで、殴り飛ばされた。だが祐は倒れる前に態勢を整えて綺麗に着地した。


「うちらの戦いは合図なんてないんでな」

「ってぇ。そうだな。俺のダチもおんなじタイプだね」


 着地した祐を追撃するように、更に攻撃を繰り広げた。

 祐は一発一発攻撃を手で弾きながら敵の攻撃を読み取った。

 麗花は何発か攻撃を加えた後、一旦ジャンプして後退した。そしてニヤリと笑っていた。


「中々の防御。だが防戦一方ではいつまでも勝てない」


 更に麗花が一気に迫り、攻撃を繰り広げた。攻撃するスピードが着々と上がり、祐もずっと攻撃の回避を続けた。

 望江には、その祐の意思が少しばかりだが伝わっていた。

 祐のこの戦いを苦しんでいる顔が何を伝えたいのかを。


「祐の奴……麗花さんとの戦いを避けているのか……」

「何!?」

「昨日戦った時も、アタシとの拳などでの喧嘩を避けようとしていた」

「な、何故なんだ?」


 今の戦いにはその言葉の迷いとまた我を忘れてしまう恐怖が自然と戦いに反映されている。

 祐は攻撃を避けて、自分の出来るを考えていた。


「おらっ! いつまで避けていやがる!」


 祐の手は自分の意思に反して防御に出てしまっていた。

 攻撃をしたい気持ちは心の何処かにある。だが、体は言う事を聞いてはくれなかった。

 何故だ、何故言う事を聞いてくれないんだお、何度聞いても答えは帰ってはこない。

 帰ってくるのは皆んなが自分を恐怖した顔だった。


「くっ!俺が一番自分を恐れているってのかよ!」

「おい祐! 少しは戦え! あたしに気にすんな!教頭を気にしろ!」


 三度攻撃を仕掛けてくる麗花。

 強引にでも戦おうと拳を構えた瞬間、また廉のあの言葉が脳裏に浮かんで来た。

『憧れのあの人が教えたのは、周りの人を脅かす事なの!』

 この言葉がまた祐の心に迷いを生み、無意識に拳を下ろしてしまった。

 そこに麗花の拳を腹に食らい、身体全身に痛みが走り、腹を抑えて何歩か後退した。


「へっ、早く戦う気を見せろ!」


 更に麗花は顔中心に攻撃を繰り広げてフェンスに追い詰められた。

 そして一撃飛び蹴りを食らわせ、フェンスに激突した。それでもなお、反撃する様子を一切見せなかった。


「早く戦うんだ! お前が負けたらあのジジイは落ちちまうぞ!」

「今の俺は……戦う気はない。それに俺は絶対に負けない。でも……」

「その意気込みはいつまで続ける気だぁ!オラっ!!」


 また豹変した自分になったら、麗花を倒せるかどうかよりも、もう今の自分に戻れなくなるかもしれない。

 そうなったら──

 頭の中での自問自答が続いていると、麗花の膝が腹に一撃加えた。

 攻撃は腹の中心を捉えて、祐の身体に激震が走り、口から少量の血が吐き出た。

 そして痛みに耐えきれずに、その場に跪坐いた。麗花は更に祐の頭を踏み潰して、地面に顔を叩きつけた。


「……ちっ、ちきしょう。何でだ、手が怯えて攻撃がしたくても、出来ないんだ。戦わないと二人が」


 廉と喧嘩した時、一瞬だけ我を忘れたあの瞬間。

 戦う事に身体が大きく反応して、周りのことも見えなくなる程に暴れ回った。

 あの光景が頭に浮かび上がり、拳を突く事に体が拒否感を示しており、身体が震えてしまっている。


「そんな事、敗北者が言う『逃げ道』って奴だ。自分に怯えているだけの臆病者なんだよ!」


 麗花が足を離すと、祐の腹をサッカーボールのように勢いよく蹴り飛ばして、再びフェンスに激突して、地面に転がり落ちた。

 すぐに望江と教頭が心配そうに大声を上げた。


「祐!」

「万丈祐!!」


麗花は次に望江の方を向いて、嘲笑いながら言う。


「望江……お前はどっちの味方だ? さっきからあいつを応援して。本当にお前はうちの弟子なんだろ?」

「……無抵抗の奴に痛めつける麗花さんなんて──」

「はっきりと言え! お前も突き落とすぞ」


 最後まで言えずに黙り込んだ望江に対して舌打ちをして、再び祐の元へと戻って行く。

 その背中は昔の優しさなんて一切感じなかった。


「本当に情け無いよなぁ……望江はこんな奴に負けたなんてよぉ。うちらの恥だな」


 言い返す事も出来ずに、望江は下を俯いた。そして倒れた祐を掴み起こすと、そのまま真ん中に投げ飛ばした。祐はそのまま投げ飛ばされて地面に転がり倒れた。


「さぁもう一度立て! ジワリジワリといたぶってやる!!」

「祐、戦うんだ! 戦って勝て!あたしに構うな!!」


 望江の言葉に祐はゆっくりと膝を立てながら立ち上がった。その姿に麗花は、見下すように望江を睨みつけた。


「やはりお前は、裏切り者だな」

「ち、違います!あたしは、昔の麗花さんに戻ってほしいだけで!」

「もう戻れないんだよ。あんな事が起きればな!」


 その言葉で麗花はヒートアップして、無抵抗の祐に猛攻を畳み掛けた。

 拳と蹴りのコンボを繰り広げて徹底的に祐をいたぶり始めた。顔や腹、足など身体全体を狙い、体力を余す事なく減らして行く。

 体力が無くなっていく生徒を見て、教頭はたまらず叫んだ。


「ワシを落とせ!!

「教頭?」

「若い者の命を失わせるなら、失うものがないワシを落として、この終わらせてくれ!!」


 教頭の言葉に麗花は手を止め、教頭へと問う。


「どうして何百人もの中の1人の生徒にそこまで出来るんだ?どうせ卒業してら、忘れられる存在なんだぜ。教頭なんて」

「ワシを忘れるなら自由すりゃあいい!!だがな、お前のような非行に走る者を一人でも減らし、正しき道に戻して未来を任せる存在に育てるのが教師だ!!」


 息切れを起こしながら言い放った教頭。

 その言葉に麗花は舌打ちをして、祐に尋ねた。


「だとよ。いい先生を持ったな。熱弁の感想はあるか?」

「教頭!!その心意気は……感謝する!あんたの気持ちは十分に伝わった!!だがな、誰も失わせたくはないんだ!」

「不良生徒で残念だったよ!!教頭先生よ!!」


 そう言って更に力を込めて攻撃を続けていった。

 次第に身体はボロボロになり、服も着々と汚れて行く。


「祐、何でだよ……祐!」

「俺は、戦うのを、恐れているんだ……ぐはっ! 」

「縛られているから……大切な人に言われた事が、自分自身を縛り付けているのか!」


 そうかもしれない。自分がまた自分じゃなくなるあの瞬間を恐れて、あの人が廉が言った言葉が楔を打っている。


「自分自身で動けよ!縛れていちゃ、誰だって動けない!分かるだろ!!祐!!」


 その言葉に祐の心の中の鎖が少しだけ緩み始めた。

 変貌する恐怖に縛られ、他人の言葉に縛られ、自分自身で決めずに勝手に身を狭めていた。

 ただ自分自身があの人と同じ性格や人になりたかった。


「縛れていたら、真似事しているだけだ。俺はそんなんじゃねぇ」


 ハッと何かに気づいた祐は麗花の拳を受け止めた。

 そして望江は更に、祐に力一杯の声で言い放った。


「自分の憧れに縛られている生き方が正しいのか。あたしは麗花さんという鎖に縛られた結果がこれだ! でも、あたしは麗花さんに弟子入りした事を後悔した事なんて一度もない。楽しかったし、多くの仲間も出来た。新しい自分を見つける事も出来た。それにお前にも出会った……麗花さんには感謝しきれないほどの恩がある! もちろん今もだ!」

「黙れ! 望江!」


 自分だって同じだ。あの人に助けられて、救われた。お陰で明るくいる今の自分がここにいる。

 だからこそ、あの人のようになりたかった。でも、自分ではなれない。

 それはあの人ではないから。違う人間なんだから、同じ道を辿っても到達できない。

 麗花はもう片方の拳で攻撃を加えた時、祐はまたも受け止めた。


「その憧れた人だって、祐を縛るために言った訳じゃない、知ってもらいたかったんだ!! 万丈祐と言う名のたった一人の自分、万丈祐と言う名の一通りだけしかない人生の道を! 自分の鎖から解き放たれろ! そして自分の考えを、自分が到達した答えを示して見ろ!!」


 自分はずっと憧れとは遠い存在だった。幼かったあの頃は、あの人のような人間になりたかった。人に優しく、人を導く立場に。

 でも、あの人が亡くなった日から自分自身の記憶から忘れようとした。それでも、忘れる事なく中途半端に反抗的になり、中途半端に優しい自分がいた。

 あの人も廉も暴力では解決は出来ないと言っていた。

 自分自身が答えを待っているんじゃなくて、その場に野放しにしているから、答えがあるのに捕まえられないんだ。


「誰かが犠牲になってから気づくんじゃ遅いんだよ。誰かがいなくなってから、気づいたんじゃダメなんだよ!拳は暴力の為だけじゃないんだ!」


 そうだ。縛られていたから、自分の何が正しいかが分からないんだ。自分一人で答えを見つけるんだ。

 違う道からなら、追いつける可能性は無限大だ!


「俺は暴力の拳じゃなくて、救いの手を差し伸ばすで手で正す!!」


 祐は鎖を自分の手で引きちぎり、まとわりついていた鎖を全て葬りさった。


「恐怖に、自分自身に勝て!!俺!」


 鎖を纏った自分自身に勝つ。その意志と共に麗花の拳を受け止めた拳の力が徐々に強まって行く。


「くっ……なんだ? 拳が……ぐっ!?」

「さっきから、全員よぉ。軽々しく命を捨てる発言してぇんじゃねぇぞ!」


 そして拳を握る力は更に強まり、今度はゆっくりと麗花を押し始めた。

 麗花は手を引くと、祐の顔は先ほどの迷いのある顔とは打って変わって、戦う表情になった、祐は言い放つ。


「この拳は人を脅かすものではない、人の守る為に使うんだ!!お前を正す!!」

「祐!!」

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