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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
第二章 獄門学園
26/66

26.廉vs燈

三階に着くと通路に芽依がいて、芽は廉の存在に気づいた。


「祐お姉ちゃんどうしたの? さっきまで檻にいたのに?」

「……」

「祐……お姉ちゃん?」


 芽依の言葉に反応する事もなく、歩いて行った。明らかに雰囲気が違っていた。


「何か別人の雰囲気に……気のせいかな?」


 厳しい目は変わってないが、虚ろな目に光が宿っていない目は、まるで洗脳されているようだった。

 芽衣も何かおかしい事に気づいていたが、内心面白い事が起きそうだと考えて手出しはしなかった。

 むしろ鳥肌が立つような恐怖さえも感じさせた。

 一階への階段を降りると、目の前に燈の部下の出っ歯が道を封じた。


「おい! 今は燈様とあの愚か者が決闘している最中だ! 邪魔はさせねぇぜ!」


 廉は出っ歯の胸ぐらを軽々と掴み上げた。

 そして軽く投げ飛ばした。出っ歯はそのまま鉄の檻へとぶつかり、周りの歓声を上げていた囚人の声は止んだ。その異常な力に燈も廉の存在に気づいた。


「祐、いや廉……なのか」


 聖燐も廉の存在に気づいた。先ほどの優しげな表情は消えて、別人のような顔に驚愕した。

 むしほリボンのせいで、一瞬だけ祐に見えるまでに似ていた。


「あたしがケリをつけると言ったはずだ……あんたの出る幕じゃ──」


 聖燐の無惨にやられた姿を見て、拳を強く握りしめて燈の元へとゆっくりと向かう。

 目の前に来た廉を燈は気にする様子もなく、馬鹿にするように廉の頭を撫で始めた。


「仲間を助けに来たか? 良い奴じゃないか、でもこれはあたしとあいつの問題だ。お前は手を出すんじゃねぇぞ」

「邪魔よ」


 その怒りが含まれた声に燈はニヤリと笑った。


「ふっ、お前みたいな綺麗な奴があたしは一番嫌いなんだよ!」


 廉の頭を掴み、逃れられなくした後、拳を廉の顔面へと殴りかかった。


「危ない!!」


 聖燐はあのパンチの威力を知っている。

 防御したって大ダメージは間逃れない。助けに行けない自分を悔やんでいた。

 だが、廉はパンチから逃げず、右手を出して自分の拳の何倍もあるパンチを受け止めた。


「!?」


 廉はぶっ飛ばされる事なく、その場に立ち尽くしていた。

 だが、パンチから繰り出された衝撃で、廉の髪は揺らいだ。

 そこから燈は廉の虚ろな目で睨みつけているのが確認された。その目に今までの喧嘩では味わった事のない程の威圧感。寒気まで覚えるほどに。


「その程度?なら、こちらも行くわ」


 そして今度は廉が、左手を握りしめて燈の筋鍛えられた筋肉の腹を真っ直ぐに突いた。

 その攻撃は腹の奥深くへ抉り込み、自然と頭を掴む手と殴りかかった手が離れて後ろに千鳥足で何歩か引いた。


「あんなパンチで、あのゴリラに……ダメージを」


 別に力を入れた訳じゃない。それに燈に不意打ちをした訳でもない。

 普通に殴っただけだった。いつもシャーペンを握り、いつも歯ブラシを握った綺麗で清楚な手が今、汚れた。


「がっ……」


 あの一撃に燈は片膝をつき、腹を必死に抑えていた。声も出せず、痛みに苦しんでいた。

 予想以上の痛みが襲いかかり、腹にはその拳の跡が赤く残っていた。

 廉は更に数歩近づき、腹を抑えている燈に大きく手を振りかぶって頬にビンタを喰らわせた。

 その巨体は簡単にぶっ飛ぶ、燈は尻餅を着いた。

 芽依もこの異常な事態に困惑していた。

 あの最強と思っていた燈が今日来たばっかりの囚人に押され気味になっている。こんなの初めての出来事であった。

 あの細い腕からあんな破壊力が何処にあるんだと。


「嘘でしょ? あんなゴリラを怯ませるほどの一撃を加えるなんて……」


 塔の囚人たちも、この予想もつかない状態に逆に盛り上がりが増した。

 すると燈が腹をまだ抑えながら立ち上がり、大声で叫んだ。


「黙れテメェら!!」


 その声に一気に声は引き、再び静まり返った。


「良いだろう……お前もあいつのように捻り潰してやる!」


 声が高ぶって来た燈は廉の攻撃に腹を立てて、一気に攻め立てた。

 パンチとキックを連続で繰り出すが、まるで風を操られているように自然と廉の身体が動き、燈の攻撃を軽々と避けていた。

 燈は更に攻撃を続けて、今度は腹に拳を突いた。当たる直前にその場から廉が消えた。


「何処を見ているの?」


 聞こえてきた声は後ろからだった。気配もなく、忍び寄られて燈の額からは無数の冷や汗が流れていた。美大との戦いで見せた燈のよりも早く、後ろに回られた事も感じなかった。


「遅すぎて退屈しちゃうわ」

「ぬぅ!!」


 裏拳を腹被りながら、後ろを振り向いた。

 だが、その瞬間に廉の素早い回し蹴りが炸裂し、燈の顔面に深く直撃した。

 その攻撃によって燈は鼻血を出しながら怯み、廉は更に服の裾を掴んで自分の何倍もある巨体を持ち上げて、そのまま地面に背負い投げを喰らわせた。

 塔全体が揺れるほど大きな地響きが鳴り、燈は背中から倒れた。

 聖燐は呆然としていた。あの力はどっから出てくるのか、全く理解が出来なかった。


「あいつにあんな力が……初めて見たぜ。やっぱり万丈祐の姉だけはあるな……」


 廉は燈の元に近づき、その様子を伺った。

 すると倒れている燈が倒れている状態で、聖燐が先ほど落とした鉄パイプを拾い上げて、立ち上がり、鉄パイプで殴りかかった。


「喰らえ!!」

「危ない!……ってあれ?」


 聖燐の叫び声を上げた時には、廉の拳は燈の腹に届いていた。

 鉄パイプが届くよりも早く攻撃を加えて、しかも先ほど攻撃した腹と同じ位置へと攻撃していた。


故鎚仙(こついせん)……」


 ボソッと呟き、何かを言い、拳を腹から抜いた。

 すると、いきなり燈が真っ直ぐとぶっ飛んでいき壁に激しく叩きつけられた。叩きつけられた衝撃は凄まじく、一本の亀裂が上の階まで入り、三階まで届いた。

 全員が静り返った。

 燈は立ち上がらず、誰一人動かず、一分ほどの沈黙が続いた。


「……倒したのかよ……あのゴリラを」


 沈黙を解いたのは聖燐であった。

 体力も少しだけ回復して腰を抑えながらゆっくりと立ち上がった。

 あのゴリラを倒した廉へと、苦笑いをしながら近づいて話しかけた。


「お、おい、大丈夫か……こんな奴倒すなんてお前、本当にすごいな……」


 廉に話しかけても何も答える様子はなく、ずっと倒れた燈を瞬きもせずに、フランス人形のように無の感情で眺めていた。

 拳をずっと固く握りしめていた。そんな事にはあまり気にせずに、聖燐は痛みを我慢して身体をピンと立てて威張って言う。


「本当にすまない。だけど、あたし一人でも倒せたけどな……ん? 話聞いてるか?」


 肩を軽く叩くと、廉は涙を一粒流して崩れ去るように膝を突いてその場に倒れた。

 芽依は三階通路から一階に飛び降りて、何回転して綺麗に着地した。そして真っ先に廉の元へと寄ってきた。廉の様子を見て、焦り顔で聖燐に聞いた。


「祐お姉ちゃん大丈夫!? 何が起きたのよ!」

「あたしが聞きてぇよ! このゴリラを倒して、話しかけたら急に……さっきから様子がちょっとだけおかしかった気がするし」


 芽依はすぐに廉の手を触った。

 だが、普通のプニプニしている柔らかい手だった。更に頰を軽く叩くが反応はなかった。

 そして胸元に耳を当てて確認した。正常な心臓の鼓動を感じた。


「ちゃんと心臓は動いているわね……とにかく部屋に戻しましょう」

「でも誰かに伝えた方が」

「いや、今は部屋で休ませよう。事を大きくしたら、ここから出られるのが遅れるわよ。本当にやばそうなら、呼べばいいから」

「……そうだな。とにかく運ぼう」


 そう言って二人で廉を持ち、十八階まで運んだ。聖燐は足の痛みを我慢した。その間、練の人間は何も言わずに、運ばれていく廉を見つめていた。

 それは怪我人としてでも、勝利者でもなく、恐怖の象徴のように捉えていた。

 今は、助けてくれた廉を運ぶので精一杯だった。


「あ、燈さん!」


 燈は出っ歯含む、部下たちが心配そうに運んで、部屋に戻された。


「しっかし、何だあの目、あの戦い。武術に精通しているじゃ罷り通らなねぇぞ」

「何かしらの原因で、潜在能力が解放されたかもね」

「んな、漫画のような事が起きるわけねぇ」

「だといいけどね」


 あの時の無の顔が、聖燐の脳に焼き付いていた。

 いつも見ていた訳でなく、ここや学校ではいつも厳しめの顔をしているイメージだけがあったが、あんな怖い顔をしたのは初めて見た。

 そしてあのパワー、力強く、そして素早い。下手したら祐よりも力強いかもしれない。


「廉お姉ちゃん。眼の神を宿しているみたい」

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