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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
第二章 獄門学園
25/66

25.聖燐vs燈3


 燈を倒し、空を見上げて叫んでいる聖燐。

 騒めく塔全体だったが、それは一気に歓声へと変わった。


「何だ……一体」


 何か気になり、後ろを振り返帰った。

 聖燐が見たものは、燈が頭を軽く抑えながら立ち上がったのだ。

 歓声の正体が分かり、一気に身体が震え上がった。あんなに殴り込んで、あんなにも攻撃を繰り出した。顎に集中的に攻撃して、脳震盪を起こして意識なんて飛んでいるはず。何故だ。

 

「何!? まだ、立てるだと!?」

「今のは少しは効いたぜ、ちょっと脳が揺らいじまった」

「あそこまで攻撃を当てたのに……」


 考えている暇はない。今はまたノックアウトさせるだけだ。

 聖燐は動揺しているが、すぐに戦闘態勢に戻って拳を構えた。

 後ろに下がり距離を保ち、敵の行動を伺う聖燐。聖燐の腕は今もヒリヒリして、拳もさっきの攻撃でダメージを受けている。


「本当に頑丈だね、あのゴリラさん」


 芽衣の言葉に廉はこの状況を一人説明していた。


「脳には一度起きた衝撃を無意識に覚えて、次に同じ状況に落ちた時に、脳防衛と呼ばれる動きを起こすのよ」

「なにそれ?」

「脳が防衛状態に入ると、それ以降に発生する脳へのダメージを軽減させるべく脳が振動を減らす動きをする。ウセリンと呼ばれる脳内分泌を出し、脳内へのダメージを一時的に軽減させる」

「だから、あんなにダメージ喰らって立ってられるってコト?」

「今回の場合、あの子が執拗に顎に攻撃を仕掛けて脳にダメージを与えようとした。一見有効に見えるあの攻撃。でも、今回は相手最初の一撃で大ダメージを与えたとしても、それからの攻撃は最初の一撃の半分以下のダメージしか与えられない。その代わり、長期戦になれば、ウセリンの効果は消えていき、脳のダメージが徐々に蓄積されていく。アドレナリンに近いものね」

「つまり、聖燐姉ちゃんは早く倒さないと」

「えぇ、今が一番不利ね」


 燈は拳を構えて動き始めた。距離を詰めて攻撃を繰り出してきた。

 聖燐は攻撃を紙一重に避けながらゆっくりと下がっていく。次第に攻撃を避けていくと、壁に追い詰められて行った。


「さぁ追い詰めたぞ。まだ逃げるつもりか?」

「あぁ逃げるつもりさ。作戦通りだけどな!」


 追い詰められた聖燐は燈の拳を避けて、一度横に周った。そして先ほど弾き飛ばされ、壁に刺さった、くの字に曲がった鉄パイプを抜き、そのまま背中に思いっきり振りかぶって頭にヒットした。

 直撃した曲がった鉄パイプは殴った事により、再び細長い棒に戻った。

 だが、燈は一切ダメージを受けた様子もなく、肩を震わせて笑っていた。


「はは、鉄の棒なんて効かん。お前の顎への攻撃だってそうさ。この鋼の肉体がお前のへなちょこパンチで気絶する訳ない。少し意識は飛びかけたがな」

「くっ!」


 そしてもう一度背中へと殴りかかろうと、鉄パイプを振りかぶった瞬間、突如足の痛みが襲いかかって、足を捻って転びかけた。

 その隙に、燈が前を向き、聖燐の手を燈に掴まれた。


「これも、作戦通りか? あの豚よりはやるようだな。だが、戦いは頭じゃない!力だ!」


 燈は太い腕を思いっきり振り払い、聖燐の腹に深く直撃して振り飛ばした。聖燐の防御はギリギリ間に合い、鉄パイプを盾にしたが、太い腕から繰り広げられた攻撃はもろに食らった。

 体全体にバチバチと激しい痛みが襲いかかり、壁に叩きつけられた。

 口から血を吐き、腕も赤く腫れ上がっていた。


「ぐがっ!!」


 ぶつけられた瞬間、頭によぎった。

 今度の攻撃は先ほどの攻撃に上書きされるように上半身へと多大なるダメージを与えられたんだ。

 昔、ムカつくと言う理由で嫌な先輩に腹を殴られた時よりも違う。あんなの今思うとやっぱりヘナチョコパンチだった。そんなのとは次元が違う。

 味わった事はないが、車に思いっきりぶつかった時の痛みはこのくらいだろうなと感じた。立とうにも立てない。口の中は血の味でいっぱい。こんな味だっけ血って。

 骨が折れてはいないが、身体が動くのを拒んでいる。悲鳴を上げている。誰かに助けを求めているように。

 死んだようにの垂れている聖燐に燈は見下しながら言い放った。


「もう終わりかい? 散々威張っていた割に、張り合いのねぇ奴だ」


 手を上げようにも上がらず、声を出そうにも出ない。こっちは拒んでいない、出来ないのだ。


「なんか言えよ!」


 そう言いながら燈は垂れている聖燐の頭を足で何度も何度も踏み始めた。


「オラオラ! 抵抗しないと、身体潰しちまうぞ!」


 抵抗する力もない聖燐はただされるがままに踏まれ続けた。

 だが、突然聖燐はその足を掴んで、無理矢理押し返した。


「ほぉ」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 声を荒げて強引に足を押し戻した聖燐は身体の痛みを押し切って、立ち上がった。

 手をブラリと下げて、攻撃をする構えではない。それに目は半分しか開いておらず、何処か虚な眼になっていた。


「アタシはよぉ。馬鹿だから痛みなんて感じないねぇ!」


 身体の限界なんて、もうどうだって良い。

 先程気絶仕掛けた間近に、祐の姿があった。アイツと勝負をつけるまで誰にも負けないと決めていた。

 こんな奴に負けてちゃ、一生祐には勝てないかもしれない。

 聖燐は拳を壊れてもいい覚悟で、その拳を燈へと突いた。

 全身全霊をこめて、このゴリラを──


「倒──」


 自分の拳が届く前に、目の前に飛んできたのは燈の拳。

 拳は顔面に直撃し、鼻血を撒き散らして壁に叩き付けられた。意識が朦朧としており、前を向くことさえ出来なかった。

 やはり、自分は弱い……その事が頭によぎった。


「残念、クリーンヒットだったな」


 燈は笑いながらまた、聖燐の頭を踏み始めた。

 周りの囚人の声は歓声から笑いへと変わった。全員があんなにイキっていた聖燐を馬鹿にするように笑っていた。

 観戦している芽依はこの戦いの勝敗は決まったと確信した。


「やっぱり勝てないよね。聖燐お姉ちゃんも病院行きかな」


 廉にも囚人たちの笑いが、嫌でも聞こえてきた。聞きたくもない笑い声、聞こえてくる悪口。

 思わず耳を塞いだ。何かが頭の中に侵入してくる。何か存在しない何かが。


「……嫌だ」


 その声は学校での自分を連想するものであった。学校で自分が陰口を叩かれているのは知っていた。全部耳に入っていた。

 妬まれていても、全然平気。むしろ、それが余計にやる気を沸かせてくれる。

 頭が良いから何がダメ?綺麗だから何がダメ?でも自分は祐に清く正しい姿を見せたいが為に、廉という自分を演じていた。

 でもやっぱり辛いわよ。こんな事が続いたら、苦しいわよ。

 一番辛いのは、祐に嫌われる事……でも今の自分には、嫌われる理由しかないのだろう。そんな事を考えていると頭が痛くなってくる。

 ずっとこの嫌な笑いを聞いていると、何かに押し潰されそうになる。

 自分の中の負の感情がどんどん膨れ上がっていく。

 厳しい自分が、ダメな自分が、祐を変えれなかった。

 あの人の死から、何も変えられなかった……

 やっぱりダメな姉ね………


『なら俺はお前との姉妹を辞めてやる!』


 祐に言われたこの言葉が廉の中で何を割った。

 廉は立ち上がって祐のリボンを髪に括った。

 そして檻から出て一階へと向かった。今は何かを抱え込むのを忘れたい。怒りをぶつけたい。その為にも、このうるさい原因を作る者を倒す。


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