20.謝罪と受け入れる気持ち
周りの生徒も教頭も全員が困惑する中、祐は両手を地面につけて頭を地面にぶつけて土下座をした。
「すまなかった。俺のせいで、あんたの……いや、教頭の車を破壊した事を謝らせてくれ。車の値段なんて分かんねえ。でも、絶対に俺の金で弁償する!どんだけ時間かかっても!」
「……ど、一体どうゆう風の吹き回しだ?」
いきなりの土下座と謝罪に教頭は驚きを隠せず、謝られている事すら理解できずに土下座をしている祐を見つめていた。
「俺は周りの事なんて二の次にしか考えられなかった!教頭の車も廉姉の事も、何もかもだ!廉姉が連れてかれて分かったんだ!自分の行動で周りが不幸になる!それに今まで気づかなかった自分がとても恥ずかしいんだ!!」
教頭自身、許す事が出来ないほどの事をされた。大事な車を無惨にも破壊されて、謝罪もろくに無かった。
それに学校の風紀を乱し、評判を落としている張本人。
だが、長年教師をやっていて多くの生徒を見てきたから分かる。適当に謝る生徒なんて何十人、いや何百人と見てきた。力のない謝罪。いい加減に下げる頭。そうゆう者こそ再犯を犯してしまい、被害者がまた涙を流す立場となり、負の連鎖は終わりが見えないのだ。
だから、自分は厳しく不良生徒を許さない自分が生まれてしまった。
怒ってもいつでもヘラヘラしている祐が心底気に入らなかった。だからこそ、怒りが頂点に立ってしまったから奴を獄門学園送りにした。
だが、目の前にいる憎しき生徒は本心で謝罪をしている。
体勢、声、感情、全てを伝えてきている。
許せない。でも、自分が求めていたのはこれだったのか?生徒に土下座させる事が教師なのか。
今、許すか許さないかの二択に迫られた教頭。
教頭は立ち上がり、祐の肩に触れた。
「確かにお前の謝罪は受け取った。車の弁償なんてものはいらん」
「でもよ……」
「あんな車、また買えばいい」
「そんな簡単に許されても俺の気持ちが──」
教頭は窓際に移動して背中を向けて語り出した。
「昔は生徒を叱っても、その後の事を話して更生しようと奮闘して、若き芽を育てる為に頑張った教師人生だった。だが、時代と共に生徒達の態度や行動も変わり、自分の中での教師としての価値観が変わってしまい、悪い生徒を憎んでしまう今の老害な自分が生まれた」
「だが、それは俺のような悪い奴が原因だろ!あんたが悪い訳じゃないだろ」
「いや、ワシはお前を救う気が無かった。もう手を遅れ、更生しても無駄。そう決めつけて、諦めていた。だが、君はこんな短時間で自身の力で善悪を見極める事が出来た。もう少しワシが寄り添える人間であれば、君の心の中にある優しさに気づけたのかもしれない」
自身の教師としての誇りを忘れていた。未来に送る子供をいつしか憎しみの対象にしてしまい、自分にも非があると言う教頭。
「俺も意地にならなければ、こんな事にはならなかった。正直な人間だったら……だから、俺自身の責任でもあるんだ」
すると教頭は土下座をやめない祐に言う。
「話す時は互いに同じ目線で話すものだ。立つんだ」
「……はい」
祐が立ち上がると、教頭は片手を差し伸ばした。
「一教師の一人として言える事は万丈祐、お前の謝罪を受け取る。更生の余地ありと見なして一切の処罰をなしとする」
「ありがとう……ございます。教頭先生」
祐は深々と頭を下げて、二人は握手を交わした。
「校長からよく話を聞いた。小さな子供達とよく遊んでいると。学校にはお礼の電話がよく来ている。輪に入られない子も自然と周りに馴染めるように遊んでくれてると」
「あはは、それはちょっとは恥ずかしい話を……」
「それがいい生徒の模範だ。もっと胸を張れば良い」
二人の間にあった蟠りが無くなり、微笑ましく笑っていた。
そこに望江が間に入った。
「どうやら、お互いの話は決着ついたようだな」
「すまないな。見苦しいとこ見せちまって」
「良いんだよ。溝が無くなったのはいい事だ」
望江は次に教頭へと目を向けて、周りの生徒全員が一斉に頭を下げた。
「教頭、拘束して悪かったな。全員で謝る。すまなかった」
「いや、もういい事だ」
「もう帰っていいぞ。なんなら、あたしらが街まで送るぞ」
すると教頭はそっぽを向いて答えた。
「いいや!ワシは大人として、教師の一人としてその者に一喝してやりたい!」
「そんな事麗花さんに言ったら、何されるか分からんぞ!どうなっても私らは知らんぞ。ってかなんで知ってんだよ!」
「さっき叫んでいたから全て丸聞こえじゃ!」
望江の警告に対して、教頭は動く気を見せなかった。
「車を壊され、身勝手な行動を起こして教師の一人としても失格な私には怖いものはない!」
「無敵の人って奴ね……好きにすればいいけど、どうなっても本当に知らんぞ」
「あぁ!上等だ!万丈祐よりも破天荒な奴はそういないはずだ!」
「どうするよ祐?」
祐へと助けを求めるが、祐は笑って答えた。
「まぁ、教頭の好きにさせよう。教頭も俺らと飯食おうぜ。コイツらが作った和菓子ばっかりで教頭にはキツイかもだけど」
「あぁ、心配ない。是非とも頂こう。ワシは味にはうるさいぞ。教頭だから、伊達に菓子を食ってきた人生だ」
「へへ、なら食おうぜ。腹減って仕方ねぇ」
そうなると望江はある案が浮かんだ。
「なら、仲直り記念としてアタシがもっと良いもん作ってやるよ。家庭科室に移動するぞ!」
そして教頭と祐は家庭科室へと連れてかれた。
学校はボロボロなのに、家庭科室だけはとても綺麗に整備してあった。
そのギャップに二人は唖然とした。
「すんげえ綺麗になっているな」
「我が高校よりも整っている……」
二人の表情に全員自慢げに鼻をたてて調理が始まる。
ヤンキーの特攻服やスケバンな格好からパティシエの服に着替えてヤンキー感0な生徒らが揃った。
「さぁて客人を為に、仲直りの記念に大パーティーを始めるぞ!野郎ども!!」
「「「おう!!」」」
望江主導の元に全員でお菓子作りが始まった。
教頭も祐も困惑しながら調理工程を眺めていた。
「本当に彼女は不良生徒なのか?」
「さ、さぁ……俺にも分からんが、もてなす気は満々だな」
「明日とんでもない事が起こると申していたはずだが?」
「さ、さぁ……」
そして時間が経ち、二人が寝かかっている所に和菓子が揃った。
羊羹にどら焼き、苺大福に桜餅。飲み物には抹茶ミルクなど、和のお菓子がこれでもかと並んでいた。どれもかしこも店に並んでいるかのような美味しそうな出来前であった。
「さぁさぁ、明日の為に元気を出そう!食べ物は元気の源。お菓子はもっといい源を持つ!幸せの源だ」
「おいおい、俺達今日会ったばかりなのに、こんなに豪勢なもん食っていいのかよ」
「いいんだよ。今を楽しむのが一番。皆んなで食べようや。教頭先生もさ、一口食ってみな」
祐たちは楽しそうに色々な話をしながら一夜を明かした。




