19.最悪の再会
寝ころんでいた祐は望江の元に行き、近くで草むらを掻き分け始めた。
「お前……」
「そんなに大事なもんなんだろ。そのサングラス」
背を向けて言う祐に、望江も自身の本心を語った。
「あぁ。馬鹿な言い方だけど、命よりも大事な物なんだ。あのサングラスは」
「……俺と同じだな。何かに憧れて生きてきたんだな」
「お前も?」
祐は何処か優しげな雰囲気を醸し出しながら話した。
「俺も、昔とあるお姉さんとよく話していた。仲良くなって、毎日が楽しかった。でも、そのお姉さんは数年後に突然事故で死んでしまったんだ」
「それは……大変だったな」
「名前も知る事も出来ずに、お姉さんと別れた。それに比べて、お前はまだいい方じゃねぇか。まだ目の前にいるだから」
そう言うと望江は首を横に振った。
「いや……麗花さんは変わった。理由も分からないし、何が起きたんだが、急に凶暴化したように性格が変わった。まるで狂犬のようになった。そしてチームの人たちはそんな麗花さんを見て、多くのメンバーが抜けていった。でもここにいるあたしらだけは信じている……何かあったんだって」
「そいつは今はどこに?」
「結構前にバイクで何処かに旅に出てると聞いたが──」
その時、部下の誰かが立ち上がって草むらの中よりサングラスを振り上げた。
「見つけました!!サングラス!!」
「そ、それだ!!それだよ!やった!!」
望江はおもちゃを貰った子供のような顔で飛び起き、真っ先にサングラスを取りに行き、サングラスを見ると涙を流しながら周りの仲間と共に喜びを分かち合った。
「やったぁ!!これがないとダメなんだよぉ」
「よかったですね!!望江さん!!」
「サンキューなみんな!!一緒に探してくれて!」
仲間達に囲まれて喜んでいる望江を前に祐も同じくようにに喜びを分かち合った。
「良かったな宝物見つかって」
「あぁ!お前も探してかれてありがとうな!」
「いいってもんよ。本当に良かった」
「これで、グッスリと眠れるよ」
大事な物を見つけた嬉しさは自分の分かる。宝物とはそうゆう物だと祐自身も理解していた為、この状況に喜びを感じていた。
みんなが和気あいあいとしている中、上の階の窓が突如開き、部下の一人が大声で叫んだ。
「望江さん、大変です!! 麗花さんが来るって言っています!! 今日のことを知り、明日の朝には到着すると」
その事を聞き、今度は全員の表情が一変して慌てふためき始めた。祐には何がなんだか分からなかった。
恐怖に慄く他の部下達に祐は聞いた。
「そんなに……怖いのか?」
「あ、当たり前だ!! 麗花さんは強い! お前を返せない理由が出来たな……」
「はぁ?なんで俺まで?」
「とにかくだ!ここに居てもらうぞ!」
それを聞き、ヒヤッとする祐であるが、ホッと安心もする祐であった。
「まっ、とにかく今日はここで泊まる理由が出来たな」
呑気な祐に呆気を取られる部下たちと望江であった。
祐は望江に問う。
「にしても、何でこんな荒々しい事ばっかしてんだ?俺を引きずったりして?」
「これも麗花さんの指示なんだ。この学校を戻ってくるまで守り抜けって。来る者を始末しろってさ」
「めちゃくちゃな奴だな。だから、お前らは俺を倒そうとこんなことを?」
「そうだ……本当に申し訳ない」
望江が頭を下げて謝ると、他の生徒らも頭を下げて謝罪をした。
「いいんだよ。事情が分かれば」
「でも、みんないつかはあの時の優しい麗花さんに戻ってくれる事を祈っているんだ」
「……」
黙っている祐。すると、祐のお腹が大きくグランドに鳴り響いた。
「いい話の時にすまない。ここに大福ある?腹減ってしょうがねぇんだよ」
「あ……あぁ。和菓子ならいっぱいあるけど」
*
祐は玄楼学園で一夜を明かす事となった。祐は泊まる宿や金もなかったので助かった。
望江に連れられて四階教室へと連れて行かれた。ぐちゃぐちゃに積まれた椅子と机。そして黒板には『死』文字が半分消されて、『歓迎』の文字が大きく描かれていた。
そこで祐や望江たちの部下は宴会のように騒がしく楽しんでいた。
望江の命令で、みんなサングラスを外した。
「がははは!! さぁ、みんな、食べて飲んで楽しもう!!」
祐と肩を組んでいる望江の号令で全員が小さなグラスで乾杯をした。
中に入っているのはお茶である。
それに皿に入っているのはお茶に合いそうな和菓子がいっぱい入っていた。大福や羊羹などが多くある。
「今日は最高な気分だ! 最高の出会いに乾杯!!」
「祐! あんたとは話が合いそうだ!!」
二人も笑いながら話しており、どんどん仲が良くなった。
明日、麗花が来る事も忘れているかのように。
「いやぁ、こんなにも話が通じる奴がいるなんて、思わなかったよ」
「俺もだよ、はっはっ!! そこの大福取ってくれ!」
大福を美味しそうに頬張る祐は周りのサングラスを外した部下たちの顔を見て、とある共通点があった。
「一つ思ったが、何かみんな可愛い顔つきだな」
「そりゃそうさ! みんな、同じ境遇からここに集まって来たんだ! なぁ、みんな!」
「はい!!」
全員先程まで怖い顔をしていたのに、今は笑顔で可愛らしい顔で飲み食いをしていた。
すると、一人の生徒が麗花に言った。
「麗花さん!今日もう一人ジジイを捕まえたんですが、解放しますか?」
「もういいさ。今日は気分がいい!」
「自分は次期校長とか抜かして、学安に連絡出来るってほざいてましたけど?」
「学安が怖くて、大暴れできるかよ!はっはぁー!」
その会話に祐の顔つきが変わり、その生徒の肩を掴んで問い詰めた。
「そいつ、どんな奴だ!?」
「確か、今日学安に二人葬ったって自慢していたような」
「そいつの元に連れてけ!」
麗花らに連れられて理科室へと向かった。
鍵を開けてその中に祐が真っ先に突入した。
電気をつけて確認すると、そこにいたのは──
「お前は……教頭!!」
「万丈祐!!なぜ、こんな所に!!」
そこにはいたのは廉と聖燐を獄門学園へと送り込んだ張本人である教頭だった。メガネの片方が割れており、両手両足縛られて椅子に座らされていた。
祐は拳を震わせ、怒りの表情で教頭の元に近づき、胸ぐらを掴み上げた。
「おい祐。落ち着けよ」
望江や周りの生徒らが止めに入ろうとするが、祐は背を向けたまま全員に言う。
「お前らには言ってなかったな。俺の姉が俺に代わって獄門学園に送られた」
「な……獄門学園に?あの獄門学園にか!?」
獄門学園の名を聞きその場にいる生徒らがザワつき始めた。
望江だけはすぐに殴りかかろうとする祐の手を押さえ込んだ。
「とにかく落ち着けよ!祐!」
「落ち着いていられるかよ!こいつのせいで、廉姉が!俺のかわりに!」
「だからって、殴って済む話じゃないだろ!!」
他の生徒らも望江に続いて、暴れる祐の手足を掴んで教頭から強引に離した。
暴れて今にも殴りかかりそうな祐を目の前にしても、教頭は口調を変えずに言い放った。
「お前の素行の問題がある!!ワシの車を!!」
「車壊れたぐらいでゴタゴタ言うんじゃねぇよ!!」
祐もキレ散らかしながら怒りをぶつけるも、教頭は更に怒鳴った。
「宝物を壊されて怒らない奴なんぞ、何処にいると思っている!」
「そんな事で──」
と言った瞬間、祐は思い出した。
望江がサングラスを命よりも大事にし、必死に探していた事。リボンを投げ捨てた時に廉が思いっきりビンタして来た事。
そして教頭が車を壊した事に怒り、学安に連絡してこんなことになってしまった事。
そしてお姉さんの事を侮辱されたと思って廉に怒りをぶつけた事──
全てその人物にとって大事な何かだから、壊されて怒り、無くなって必死に探した。
大事だから壊されたり、無くしたくないんだ。
祐の頭の中に激しく、感情が巡り合っていた。
「……そうだ。俺が悪いんだ……そうだよな。だから、あんたはブチギレちまったんだ。そっか、そうか。俺が一番悪かったんだな」
元はと言えば自分の馬鹿騒ぎでこんな事になった。
全ては自分が悪かったんだと、この事は教頭の責任だけなんかじゃない。
自分の愚かさに少しずつ苛立ちを感じると共に、全てに申し訳なくなって来た。
祐は前に出て、教頭の前に膝をついた。
「な、なんだ?」