18.憧れは同じ
中学一年生の頃の望江は優しい性格もあり、可愛い顔と言われて、みんなのマスコット的キャラでいた。
でも本人はその事を気にしていた。本当はマスコットではなく、怖い不良キャラになりたかった。
可愛いと言われる事自体、嫌な気持ちならならない。
だから、みんなを怖がらせる為に、恐喝しようと決めた。ネットで調べ、どんな格好がみんな怖がるのか調べて、背中に龍の絵が描かれたスカジャンとショートジーンズにした。
誰かを恐喝しようとして、街中に出て手始めに公園でお菓子を食べている小学生を選んだ。
「おい、そこのガキ」
「ん?」
望江は精一杯の睨みを利かせて、少年に言った。
「金を寄越せ!」
その顔を見て少年は大声で笑い始めた。
本人は誰もが怖がる不良の睨み顔だが、少年から見ればただの可愛らしい女の子が変な顔をしているとしか思わなかった。
「な、何で笑う!」
望江には何故笑っているのか、分からなかった。少年は、袋入り飴を渡してきた。
「お金はないけど、これなら上げるよ。ごめんね」
「あ、飴。ありがとう」
少年は公園の時計を見て、望江に手を振りながら笑顔で帰っていった。
「じゃあね!」
「あぁ……またね」
まるで望江を不良としてみていないようだった。
そんな少年に望江は無意識に手を振りかえしていた。
立ち去った後、望江は一人俯きながら、ため息を吐いて帰路に着いた。
街中を歩くも誰も自分をスケバンのようには見てる様子ではなく、むしろコスプレではないかと言う視線を感じる。
怖く強い子になりたいが、こんなんじゃあ全然だめだなぁと声が漏れた。
「はぁ……全然ダメだな」
「痛っ」
下を向いて歩いていると、男とぶつかってしまい、軽い望江は倒れてしまった。
「え?」
顔を見上げると、サングラスを掛けたゴツい顔の中年男が此方を睨みつけていた。
その姿は金髪に染め上げた髪。まさに望江がなりたかった本物の不良だった。
望江は体を震わせてすぐさま謝った。
「す、すいません……」
「いってぇな。腕痛めちまったじゃねぇか。こりゃあ骨折れたかもなぁ」
わざとらしく手をぶら下げて、主張してくる男。
周りの通行人は気づいている筈だが、誰も気に止める事なかった。
「ヤンキー?いや、こんな根性なしにはなれないか。ん?」
男は望江の顔を凝視した。望江は目を逸らすが、男が顔を掴んで、無理やり顔を見続けた。
そして男はいやらしく笑った。
「ほぉ……結構かわいいじゃん。ちょっと来い!」
「やめて!!」
男は力強く望江を引っ張った。
か弱い望江の力では対抗できず、引っ張られるがまま、路地裏に連れて行かれそうになった。
必死に叫ぶもの、男の厳つい姿に誰も寄り付かなかった。
段々路地裏の中へと引きずりこまれて、もうダメだと諦め掛けた。
「おいそこの男!」
「あぁん?」
路地裏の外からドスの効いた声で現れたのが、望江が憧れていた麗花だった。
黒いサラサラな長髪であり、望江と同じスカジャンにショートジーンズ。
だがスカジャンは絵など一切描いてなかった。そして何より、美しい顔だった。
「その子が謝ってるだろ! 離してやれ。それともあんたはそんな中坊にしか手を出せない臆病なロリコンって訳か」
「なんて言った、今」
強気に言う麗花に少しばかりイラついた男。
男は麗花を睨みつけた。
「ロリコンだって言ってんだよ! このド変態が」
「何だとぉぉぉ!」
男は逆上して、懐からナイフを出して麗花に特攻して来た。
麗花は動じず、ポケットに突っ込んだ状態で男が接近するまで、その場に突っ立っていた。
「はぁ!」
男がナイフで突いてきたが、軽々とかわして腹部にに膝で強烈な一撃を加えた。
男は前のめりになり、麗花が膝を離すと、ナイフを落として、数歩後退してその場に倒れこんだ。
そして麗花は望江の元にゆっくりと迫って、頭を優しく撫でてきた。
「怖かったか?」
「はい……でも、ありがとうございます!」
麗花はニコッと笑って、その場から去ろうとした。
モジモジしている望江は、勇気を振り絞って麗花に言い放った。
「わ、私を強い不良にして下さい!! お願いします!」
「……」
数秒の間が開くなり、唐突に笑顔が消えた麗花。スマホを取り出して何処かへと連絡した。
電話し終えると麗花は鋭い眼差しで、望江を睨みつけた。
その鋭い目に思わず目を逸らしてしまった。
「その気が本当にあるなら、こっちに来い」
「え?」
そして望江を荒く手を引っ張られて、バイクに乗せられて、とある所に連れて行かれた。
何も言わずに連れて行かれたのは何処か汚い廃工場だった。
そこに連れて行かれるまでも麗花は何も言わずに、段々怖くなってきた。
廃工場の中に入れられた望江はやっと手を離された。
「おら、見ろこれを」
そこには多くの女ヤンキーたちが集まっていた。
木刀を持ち、タバコを吸い、スプレーで至る所に落書きが書かれていた。
そして何より、全員が殺意を見せながら望江を睨みつけていた。更に廃工場のドアも閉められて、全員が無言で望江を囲んだ。
麗花は瓦礫の山に登って、望江の様子を伺っていた。
涙が浮かんできた。だけど、ここで泣いたらさっきみたいに弱々しい自分を見せる事となる。必死に涙を堪えた。
そして、拳を強く握りしめて、身体から全ての力を発射するように声を出した。
「私は佐江月望江です!! 麗花さんの元で不良になろうと思い、皆さんにご了承をお願いしに参りました!! どうかよろしくお願いします!!」
全員がその声に無の反応を見せた。望江はやられると思い、目を瞑って覚悟した。
すると、麗花が一人で拍手をしていた。
「よし、よく泣かなかった!! その度胸を認めて、うちらのチームに入る許可をする」
その事を聞き、周りの麗花の部下たちは表情を柔らかくして普通に話し始めた。
「いいんですか麗花さん?中学生を私らのチームに入れて」
「こいつの親とかが……」
全員が望江の心配をして、ギャップを感じて色々と思考が困惑している中、麗花だけは考えを一貫していた。
「お前は両親はいるか?」
「はい!仲も良いです!」
「それでも、入るんだな望江!親泣かせる覚悟はあんのか!」
「は……はい!!」
メンバー全員が肩透かしを食らっている中、麗花は続けて言う。
「でもまぁ、危険に晒す事はあまりしないようにはするさ。流石に親御さんには迷惑掛ける訳にゃあいかん」
「え?」
「当たり前。アタシらと違って、仲のいい両親がいるならその絆を崩すような事はアタシらはしない。後はお前の考え次第で決めろ」
「わかりました!」
そうして望江は麗花のチームの一員となった。
そこで喧嘩の仕方や不良としての生き方などを教えてもらった。