17.番長登場!?
捕まって、何時間も経っていた。
引きずられている内に、日が沈み始めて来た。
「いつまでこの状況が続くんだよ!!死んじまう!!」
「もうそろそろ着く!ここがお前の墓場だ!」
祐は何処かの学園へと連れて行かれた。
名は玄楼女子学園と書かれているが、銅像は落書きされており、首は転げ落ちていた。
更には学校中のガラスが割れていた。
祐は学園内にある校庭へと連れて行かれた。女子高生が自転車から降りると、学園の校舎の方に向かって誰かを呼ぶように叫んだ。
「おい、みんな! こいつがこの学園に挑戦しに来たぞ!!」
「いつそんな事言ったんだよ!」
祐はもちろんそんなつもりはない。だが、その女子高生が叫ぶと、割れた窓を開けて、大量のサングラスを掛けた部下たちがぞろぞろと出てきて、校庭へと祐と連れてきたリーダー格の女を囲むように集まった。
「俺はあんたらの学校に喧嘩売っているつもりはないんだよ! この鞭を解けよ!」
そう言うと、リーダー格の女は見下すように祐の首を掴みながら言う。
「あぁん!? 人様の領地に足踏みいれて何を言っとるんだ?」
「足踏み入れたって……この町にたまたま通りかかっただけだぞ俺は!」
「あたしらには、それが侵略行為になっているんだよ。さぁ、あたしらと遊ぼうぜ」
まともに話を聞く耳を持たずに、話を続けて周りの部下たちが鞭を解き、解放した。
「あたしらに勝ったら、ここから返してやる」
祐を囲んでいる部下たちはざっと五十名程いる。簡単な事だが、今の祐は暴力を振るうのに躊躇している。また廉の言葉が浮かんできて、手が上がらない状態に陥っている。
「さぁみんな、やるんだ!」
号令をかけると、部下たち全員が隠し持っていた釘バットを出して、一斉に祐に飛びかかった。
「くっ! こうなったら!」
約十秒間の出来事だった。襲いかかってきた敵の攻撃を全て見切って避けた。
そして避けながら、相手の手の甲を叩き、バットを地面に落とした。あまりの速さに全員、祐の姿を捉える事は出来なかった。
更に全員自分のバットを叩かれた事も分からなかった。
祐はなるべく相手が怪我しないように工夫した結果、相手の武器を落として戦意をなくす作戦にしたのだ。
「み、見えなかった!」
「武器だけを的確に破壊しやがった!」
この速さにはリーダー格の女もギリギリ目で追うのでやっとだった。
「さぁ、部下たち全員倒したも同然だ」
「かなりのやり手のようだね」
すると、リーダー格の女は自分に親指を立てて、威張りながら勝手に自己紹介を始めた。
「あたしの名前は佐江月望江! お前の名は!」
「俺は万丈祐! お前らと戦うつもりはない。これ以上の被害を減らしたいなら降参しろ!」
「降参だと? する気はないな。だって、お前はあたしが倒すからだ!!」
望江は自転車のカゴから鞭を二つ取り出して、地面に何度も鞭を叩き鳴らした。鋭く叩きつける音が鳴り、猛獣使いの調教のように激しかった。
そして自信満々の表情でに祐を睨みつけた。
「覚悟しろよ!あたしの蝶峰鞭を!」
「蝶峰鞭?」
蝶峰鞭とは──
鞭と言うとゲームや漫画では武器として扱われているが、本来は人への刑罰。または動物に対しての調教に使用されている。
だが、一部に歴史においては武器としても使用されている供述が存在する。
それが、平安時代末期に起きていた源平合戦においてかの有名な源義経に仕え、その配下達の馬の調教師をしていた新谷熊典。
彼は多少の武芸の心得はあるものの、武士としての戦闘技術は少なかった。
そんな中で源頼朝の命により、藤原泰衡の軍が義経を攻め入った。その時、馬屋にいた熊典にも兵の手が周り、何十人もの兵士に囲まれた。
その時、2メートルは伸びる調教用の鞭のみを所持しており、このままでは殺されると察した熊典はこの鞭にて応戦することにした。
馬の調教で慣れた手つきは、敵が攻撃する前に見えない速度で鞭を振り、一度に数人の目に鞭の先端を当てて、失明される程の威力と精度を誇っていた。
最初の一撃で敵の戦意を失わせることに成功して、その隙に更に数人の目に鞭を当てて、敵が怯んでいる内に馬に乗って逃げる事に成功し、その後の生死は不明となった。
逸話によるとその際に複数の弓矢の攻撃を受けたものの、鞭で全て弾いたとされていた。
「これが蝶峰鞭!」
「なんか分かんないけど、やってみろ!」
警戒している祐だが、望江は鞭を真っ直ぐと祐に向かって伸ばした。
素早い動きで、動きを感じ取れる事は出来ず、祐の右手にキツく巻きついた。
「それ、もう一丁!!」
祐が手で解こうとすると、望江が腕を振り上げて引っ張りあげて、そのまま振り下ろして地面に勢いよく叩きつけた。
「くっ……こんなもんで!」
祐は立ち上がろうとするが再び引っ張られ、望江は力強く身体を回転させて徐々に祐の身体が宙に浮き始めた。
ジャイアントスイングの如く身体が宙で回転し、遠心力で手も足も身体も動けない祐。
「そらぁ!」
足に括り付けられた鞭が外れ、祐は真っ直ぐと吹っ飛んで行き、ゴールポストの柱に激突した。
ゴールポストは激しく揺れ、祐がぶつかった場所は凹んでしまう程な衝撃であった。
「痛ぇ……何て腕力だ」
立ち上がるが、その瞬間に手足全てに鞭が絡んできた。
望江が一つの手で2本の鞭を操り、両腕で四本を操って押さえ込んでいたのだ。
「なッ!」
「さぁさぁ、どうする万丈祐!!この奥義華四練手を抜けた者はいない!」
祐は必死に足を釘のように地面に刺して踏ん張ったが、更に強まっていく望江の力を前に、なす術もなく引っ張られていく。
だが、祐は考えた。どすればこの状況を潜り抜けるのかと。
「無理無理! この鞭から逃げられるものか!」
調子に乗り始めた望江。その瞬間、祐はニヤリと笑った。
「ふっ。それはどうかな?」
祐は突如縄を噛み始めた。
「ば、馬鹿か!」
望江は負けじと必死に引っ張るも、祐の顎力は凄まじいものであった。
祐は更に口の力を入れて、咥えている鞭を引っ張りあげた。望江の手から一つ離れ、祐の手に渡り、左手を解放させた。
「む、鞭が……くっ!」
鞭を取られ、他の鞭を引っ張ろうとしたが、それよりも早く祐が鞭を伸ばした。
鞭で手の甲を叩いて、両手の鞭をはたき落とした。
「しまった!」
「鞭ってのはな……こう使うんだ!」
鞭の使い心地を確かめようと軽く地面を叩きつけた。
初めてなのに雷が落ちたように激しい音が鳴り響いた。
「うっ、何て音だ……」
「ならば、行かせてもらう!」
鞭を構えて、呆然としている望江へと打ち放った。
初めて使ったとは思えないスピードとテクニックで望江のサングラスを弾き飛ばした。
メガネは何処かの茂みへと飛んで行き、望江は自分の顔を隠してしゃがみ込んだ。
「俺はあまり攻撃をしたくはない。その顔に攻撃を加えたくはない、だから──ってあれ?」
望江は泣いていた。何故か知らないが、泣いていた。予想以上に痛かったのか、それとも別の理由があるのか、祐には理解が追いつかなかった。
「どうしたんだ?」
望江の泣いている姿を見て、部下たちが一斉に望江に寄って、慰め始めた。
「大丈夫ですか望江さん!」
「そのくらいの傷大丈夫ですよ!!」
そして、別の部下たちは祐に怒り始めた。
「てめぇ! よくも望江さんのサングラスを!」
「へ?」
望江は顔を上げた。その顔に祐は驚きのあまり、唖然として鞭を落としてしまった。予想とは裏腹に、可愛らしいアイドルのような目をしているが、泣きじゃくって顔を台無しにするほどの鼻水を垂れ流していた。
「あたしの、あたしの……サングラス」
流石の祐もこれには参った。気が進まなくなって胡座をかいて校庭に寝転んだ。
「はぁ、やってられないぜ」
数分後、望江はやっと泣き止んだが、新しい問題が生まれた。
「あたしのサングラスは……どこなの?」
「サングラス?」
「大事なものなんだよ……あれは大事なサングラスなんだよ。昔、麗花さんから貰った」
「麗花?」