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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
第二章 獄門学園
15/66

15.洗礼を浴びる

 あの時の思い出が蘇り、怒りを覚えていた


「あの野郎、あの日の出来事を思い出さないなんて野郎だ! あんなお嬢様みたいな口調で──ってあれ?」


 何か気づいた。

 あの冷たく鋭い目、お嬢様みたいな丁寧語。条件が当てはまるのがそこに一人いる事を。


「まさか、お前なのか!?」

「……え?」


 よく分かっていない廉に聖燐は近づいて問い詰めた。


「お前かと、聞いているんだよ! 昔あたしに変な不良って言ったのは!」

「知らないわよ、私はどうでもいい事は忘れるタイプなの」


 しらばっくれる廉に聖燐は確信した。この女だ──この女があたしを馬鹿にして長年悩ませた張本人だと。

 睨みつけるも、そもそも廉はこちらを向かずに素っ気なく檻の外を眺めていた。


「あー!くっそ!」


 聖燐は頭を掻きむしった。自分が何のために祐へと喧嘩を吹っかけたのか。考えると馬鹿らしくなってきて、一気に身体の力が抜けた。


「ちきしょう……あたしは数年間も、憧れだった祐に逆恨みをしていたのかよ。アホらしくなって来たぜ」


 廉は顔を向けなかったが、目だけは聖燐の方を見ていた。


「本当はお前をぶん殴りたいが、殴る気力もねぇよ。馬鹿らしいぜ、本当に……」


 聖燐が呆れていると、一階からドアが開く音が聞こえた。

 無気力から一転──真っ先に聖燐が鉄格子の前に立ち頑張って下を見ようと頑張るが、全然見えない。

 ぞろぞろと囚人たちが入って来て、一気に塔は活気に満ちた街のように騒がしくなった。聖燐も内心ドキドキしているが、ワクワクもしていた。どのような奴らがここにいるのかと。


「どんな奴がいるんだ?」


 そして多くの囚人が、廉たちがいるのを知っているように檻の前に集まり始めた。お世辞にも綺麗とは言えない顔ばかりで、ゴツい顔や微妙な顔つきな囚人ばかりがいた。二人は凝視されて、まるで動物園にいる檻の中の動物の気分になっていた。


「ぞろぞろ集まって来たな……」


 囚人たちは廉を見るなり、驚いた顔つきで大声をあげた。


「お、おい! 綺麗な顔の奴が来たぞ!!」


 その声を聞き、更に廉の顔を拝みに囚人たちが集まりだした。そして廉の綺麗で整ったスタイルを凝視した。だが、その姿に全員が良い顔をする事はなく、逆に怒りを表していた。すると、後ろから小物臭がする声が聞こえて来た。


「オラオラ、どけどけ! 燈様のお通りだい!!」


 道を割いて現れたらチビで出っ歯な少女だった。現れるなり、聖燐に指をさした。


「お前か、綺麗な顔な奴は!」


 どうやら廉と勘違いされて、綺麗な奴と間違われた聖燐は思わず照れた。


「いやぁ、あたしの美貌に気づく奴がいるとは、お目が高いなぁ」

「あっ、間違えた。そっちのお前だ!」

「あたしじゃないのかよ!」


 大勢いる囚人の背後から巨大な影が迫り、全員がその場から退いた。

 そこに現れたのは筋肉が膨張したタンクトップ姿。海外の軍隊が履いている迷彩ズボン。特徴的なドレッドヘア。そしてゴリラのような力強い顔。筋肉の塊のような巨体が現れた。

 燈──それが彼女の名前である。女とは思えない風貌に聖燐は唖然としていた。燈は廉たちの檻の中を見渡すと、廉を睨みつけた。


「おい、お前の名は」


 廉本人は檻の外を見る事はなく、ずっと目を瞑り下を俯いていた。だが、燈に声をかけられてやっと燈を見た。


「私は万丈れ……いや祐よ」

「あたしは紅羅輝聖燐だ!!」


 淡白な紹介をした廉と、自信満々に言う聖燐だが、燈は聖燐に無視して、廉に話しかけた。


「万丈祐か……お前、食事後の自由時間にちょっと付き合えよ」

「断るわ」


 燈の申し立てに廉は即答で拒否した。

 燈は少し眉毛がピクッとしたが、それに気づいた出っ歯が慌てて前に出て怒り始めた。


「燈様の丁重なお誘いを無視するなんて何て不届きもんだ!! あたしが死刑にしてやる!」

「落ち着け、みっともないぞ」

「は、はい!」


 燈は出っ歯の怒りを鎮め、後ろに下がった。そして再び話を戻した。


「何故、断るんだ。理由を聞こう」

「私は貴方達みたいな人たちと付き合うつもりはないのよ。だから断るの」

「なるほど……あたしはお前みたいな綺麗な顔な奴が大っ嫌いだ」

「理由は?」

「お前が断ったなら、あたしも断る」

「なら、聞かないわ。こんな事しているだけ時間の無駄よ」


 燈がイラつき始めて、拳を握る手が徐々に強まっていくと、聖燐が廉の前に現れて廉を指差して自信満々に言った。


「あたしならいつでも付き合ってやるぜ!! こんな奴よりはマシだと思うよ! 強いし、優しいし、トランプも得意だし!」

「お前みたいな奴は幾らでもいる。お前なんぞに興味はない。消えろ、ゴミクズが。帰るぞ」


 自分を無視された聖燐は、後ろを振り向き、帰ろうとする燈にして激昂して、今度は燈に指差して叫んだ。


「何がゴミクズだよ? こっちから願い下げだ! 誰がお前と付き合うかゴリラ野郎!」


『ゴリラ』この単語を聞いた途端、その場にいる燈以外の全員が凍りついて、聖燐に注目した。もちろん出っ歯も、冷や汗を搔き自慢の出っ歯を大きく見せながら唖然としていた。


「あわわわ……なんて事を……」


 そしてシワが寄っている状態で不気味に笑っている燈がこちらを振り向いた。


「お前、今何て言った」


 聖燐は喧嘩腰で言い放った。


「もう一度言ってやらぁ! お前みたい筋肉ゴリラに誰が付き合うかよ! クソッタレ!!」

「へぇ……いい度胸だな。あたしにそれを言った奴がどうなったか分かるか?」


 燈は拳を振り上げた。聖燐は少しだけ嫌な予感がして、冷や汗をかき、数歩後ろに下がった。そして燈は檻に向かって大きく拳を振り下ろした。

「うぉぉぉら!!」


 拳を高圧電流が流れている檻へと殴ったのだ。殴った瞬間、その場が閃光に包まれ、何が焼ける音と電流が流れる音が大きく鳴り響いた。燈の髪は逆立って、身体中の血管が浮き出て、煙が出てきた。かなり苦しいはずだが、聖燐から目を離す事なく、鬼の形相で睨みつけた。

 聖燐は燈の顔を見て、腰を抜かしてその場に尻餅をついてしまった。燈は拳を外すと身体中が少しだけ黒く焦げていた。そして平気な顔をして笑った。


「自由時間の後……ボコボコにするから、楽しみにしているぞ」


 そう言って燈は平然と歩いてその場を立ち去った。燈がいなくなると、余興が終わったように人が離れて行った。

「どうしよう……あたし、ボコボコにされちゃう!あんな化け物に殺される!!」

「自業自得よ。観念して戦うか謝りなさい」


 すると、廉が何かの気配を察して、檻の外を覗いた。


「あれ? バレちゃったか」


 檻の角から出てきたのは小さな小綺麗な女の子だった。笑顔を作っている彼女は可愛い顔をして二人に話しかけた。


「あたしは芽依、よろしくね。それにしても、あいつにゴリラって言っちゃって大変だね、聖燐お姉ちゃん! 廉お姉ちゃん、あんな態度をとっちゃダメだよ!」


 愛想よく言う芽依に少しは近親感が湧いた聖燐は、燈について聞くことにした。


「あ、あのゴリラってどんだけ強いんだ!?」

「元々どっかの学校に喧嘩に行って、三十人以上の暴走族を全滅させたって話があるよ。もちろん無傷でね。学安が来ても暴れまくって捕獲するのに二・三時間以上掛かったらしいよ」

「嘘だろ……」

「まぁ、二人ならあのゴリラを倒せそうだから、ここの生活を教えてあげるから、これからは仲良くしようね! 二人ともじゃあね!!」


 元気よさそうに手を振って立ち去った芽依。

 廉は不思議そうに見ていたが、それよりも聖燐に落ち着きがないのか、慌ただしく狭い檻の中を行ったり来たりを繰り返していた。


「な、なぁ! 助けてくれよ! お前強いんだろ!」

「私は自分を守る事以外には、あまり手を汚したくないのよ。自分で頑張りなさい」

「うっ……て、お前が原因作ったんだろうが!」


 頭を抱える聖燐。だが、廉は見向きもせずに黙り込んだ。そして聖燐は落ち着いたようにため息を吐き、決心した。


「はぁ、しょうがない。あたしがゴリラって言ったのが原因だ。あたしがけじめをつけてやる。あのゴリラを倒してここの最強を名乗ってやるさ」


 そう言って聖燐は布団の中に潜り込んだ。その声にあまり元気には感じられなかった。

 廉も今日の疲れが溜まっているのか、静かに汚いベッドに寝転がった。祐が今何しているのか、考えているうちに静かに眠りについた。


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