月が二つ
眼を開くと太陽が一つ、烈しく照り輝いている。
周りには樹木や巌岩。
葉擦れの音や鳥の声が耳をくすぐる。
何故、自分はこんな所で寝ているのだろう。
身体を起こそうとすると、足に激痛が走り、思わず呻き声を上げる。
骨折しているのだろうか。
途端に崖から滑落した事を思い出す。
助けを呼ぼうと携帯電話を探し出すが、見付からない。
" 遭難 ? "
頭が真っ白になる。
まさか自分が滑落するとは思っておらず、入山届けの提出を怠った事を今更ながら後悔する。
周りを今一度 確認してみても、山道は見当たらず死角になっているようだ。
片足で這い上がろうにも傾斜がキツく、何度も崩れ落ちてしまう。
救助を待つ他ないのだろうか。
涙が出る.....
泣いても仕方ない事は重々承知だが、泣かずにはいられなかった。
それから長い、とても長い一日が幾度も過ぎ、みるみる衰弱していった。
色々な人の顔を思い浮かべるが、すぐ霧散してしまう。
このまま死んでしまうのだろうか。
そう思うようになり、半ば”生きる”ことを諦めるようになっていった。
ふと眼を開くと、月が二つ、朧気に輝いてる。
それは獣の瞳だった。
黒く大きな獣が此方を視ている。
” 熊 ? 狼... ? "
”死”を連想し、血の気が引いていくのを感じる。
獣は悠然と瞬きをするだけで微動だにしなかった。
息を引き取るのを待っているのだろうか。。。
” 死神 ? ”
いや、もう何でもいい。
いっそ、早く”殺”してくれ。
もうこの苦しみから開放してくれ。
暫く獣と見つめ合っていたが、
眠るように眼を閉じた。
ゆっくりと、此方へ近付いてくるのを感じる。
漸く終わる。。。
漸く................
” マダダヨ ”
...........................ぼんやりと意識が戻ってくる。
”青”と”緑”と”黒”を感じる。
月が二つ、輝いている。