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第五話 見つめ直す二人

 そうして数日が過ぎた頃、不意にアルナから尋ねられる。

 その顔は悲しみを帯びていて、今まで見た事が無い表情だった。


「聡一郎さん、最近お笑いになっていませんよね……?」

「!?」


 僕は思わず目を見開いてアルナの方を向く。

 

「そ、そうかな。いつもと変わらないと思うけど」

「いいえ。今の聡一郎さんの笑顔は違うと思います」

「……」


 アルナに罪は無い。全ては自分の中の問題だ。と、表情や態度に出さないよう気をつけていた、はずなのに全て見抜かれていたのだろうか。


「私はずっと、ずっと聡一郎さんの笑顔を見て4年間過ごしました。ですから今の笑顔が本物じゃない事くらい、すぐわかりますよ……」


 最後ら辺になると、声も少し震えているように聞こえた。

 前のアルナが見せなかった表情、声が僕の心を締め付ける。


 アルナは変わった、しかし変わっていない。

 

 2人のアルナが一つの身体に入ってる感覚があるが、それでも実際は一人だ。

 なら、僕がすべき事は全てを知る事。そしてどう動くかを決める事。

 そうしなければ何も始まらない。


 このままではいけない。僕達は新しい一歩を踏む出すんだ。


「聡一郎さんに一体何が、いえ、私に何があったのでしょうか……」

「……いや。アルナはアルナだ。それは間違いないんだ」


「でも……」

「ごめん。若返ったアルナにちょっとだけ驚いてるんだよ」

「……」

「少しだけ、時間をくれないか。そうしたら大丈夫だから」


 今の僕はそう答える事しか出来ない。

 

「……はい。聡一郎さんがそうおっしゃるのでしたら」


 アルナは力なく笑った。


……

………


 * * *


 それから、今のアルナを客観的に理解する為に、前以上に接するようになった。

 ”前の”という縛りを外した事による”解像度”の上昇により気づく事も多く、新鮮な気持ちになれた。


 また、それと同時に今のアルナを、心の奥底で拒絶していた事が良くわかり、とても申し訳なくなった。


 一方、アルナも僕の顔を見る回数が、前より増えている事に気づいた。

 これは4年前にも見た事がある、AI学習型アンドロイド特有の初期行動だ。

 マスターのその時の表情を重要な情報として、何が好きで何が嫌いかというデータを、蓄積させていく大事なプロセスだ。


 そして、その行動はマスター追加データが、一部欠けてしまったという証拠でもある。


 アルナは自分の変化を僕の反応で何となく気づいてはいるものの、実感は出来てはいない。脳の変化を自覚するのは人間でも難しい。


 それでもアルナは今、僕を一生懸命に知ろうとしている。

 コアデータに基づく行動だろうとは思うが、もしかしたらそれだけではないのかもしれない。

 彼女の真摯な瞳を見ていると、そう思わずにはいられないんだ。


……

………


 それから数日後。いつもの晩御飯の光景。


「あはは。そうだね。それが正解だと思う」

「やっぱりそうですよね。私もそう思います…… ふふっ」


 アルナは会話の途中で不意に笑った。


「ん? いきなりどうしたの?」

「良かった。聡一郎さん少しずつ自然に笑うようになってます」

「そっか。きっとそれはアルナのおかげだよ。ありがとう」

「はい。こちらこそありがとうございます」


 あの日から少しずつ穏やかな空気が流れ始めたが、不意に僕の身体に異変が起こる。


「あ、あれ? これは…… やばっ!」

「聡一郎さん?」


 僕は急に目が回り出して段々酷くなり、ついには椅子に座っていられなくなる。


「聡一郎さん!?」



 そして、僕はそのまま床に座り込んでしまった

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