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第二話 結果


 翌日の朝、僕達はアルナを製造・販売しているアンドロイドメーカー『スズリィ』の専用工場に到着した。

 

 受付の方に行くとガレージ内に案内されて、少しすると技術者が来てアルナを別室の方に案内する。


「……それじゃ、聡一郎さん。行ってきますねっ」

「うん。いってらっしゃい。楽しみにしてる」


 そう言いながら僕は左手を差し出すと、少し驚いたような顔を見せた後、アルナは両手を出して僕の左手を包むように優しく握ってくれた。


「はいっ!」


 そして、アルナは笑顔を見せ、大きく手を振りながらドアの向こうに行ってしまった。

 それと同時に僕の周りが急に静かになり、一人になった事実を実感させられる。



「……やはり、少し寂しいもんだな」



 しかし、それを選んだのは僕自身だ。それに、これはこれからの事を考えてやった事。受け入れなければならない。


「さて、僕の方もやる事をやらないとな」


 そう言って、各種手続きを進める為に担当者の方へ向かう。


『それでは、今から作業を進めていきますので、こちらの同意書にサインをお願いします』


 そう言いながら担当者は、今回の作業仕様書と同意書を僕に提示する。

 今までのアンドロイド購入の時よりも厚みがある書類が、今回の特殊さを物語っているだろう。


 書類が厚くなった原因は、当然データの移行関係だ。

 通常なら移行するのはアンドロイドコアデータ、モデルデータ、マスター基本データ、生活データだけだが、今回は更にオプションとしてAI学習データ、性格因子、マスター詳細データ、通常データ、日常データ等を追加した。


 流石に一時保存のキャッシュメモリは無理だと断られたが、それ以外のデータは全て依頼した形となる。


 更に今回は眼球等の外せるパーツは全て外してもらい、性能に大きく響く物を除いて全て移植してもらう事になっている。



――つまり、僕が望んだのは完全な移行。

  今のままのアルナが若返って戻ってくれる事――



 それにより通常のモデル下取りは出来ず、特殊作業まで追加したので、最終的に新型と大差ない料金になってしまう。


 普通に考えたら2年前から発売している新型アルナ「AIAL-37V」を購入すべきなんだろう。

 しかしそれでは移行出来るデータが限られてしまうし、そもそもAIAL-36Sでないと意味が無い。


 とにかく今出来る事は全てやった。

 あとは目の前の同意書にサインをしていくだけだが、同意書の中の一文が僕の心をざわつかせる。



【・なお、データが破損・消失した場合の損害につきましては、当社は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。】



 今まで数え切れない程見せられた文章なのに、今回ばかりは命を委ねる手術の同意書かと思うぐらい重みが違う。しかし、サインするしかないのだ。


 そして、手続きを終えた僕はスズリィ社員に見送りされながら、一人で車に乗り込んだ。


……

………


 * * *


 それから3週間が経過した。


 2週間くらいで作業が完了する予定だったから、正直困っている部分もあるし、正直体調にも影響出始めている。

 こんな事になるなら、代用アンドロイドを借りた方が良かったかもしれないが、安くないからと断ってしまった。

 それでも、事前に準備していた事もあり、何とか通常通りの生活が過ごせている。

 

 今回の件で生活サポートとしてのアンドロイドの重要性が、改めてわかった。

 そして、同時にパートナーとしてのアルナの存在も痛感させられていた。


「アルナは今、何を考えているのだろうか……」


 僕は1日でも早くアルナが戻ってくるのを願っていた。


……

………


 その数日後、工場より作業完了の連絡が来て、その後の段取りを進めるがこちらから伺う事にする。

 家までアルナを送ってもらうのも可能だったが、一日でも早く会いたかったからだ。


 そして、予定された時刻より少し早めに工場に到着している。

 駐車場で少し時間を潰す事も出来たが、ソワソワして落ち着かなくなるのは自分が一番よく知っている。


「少し早いけど、行くか!」


 はやる気持ちを抑えられず、僕はサービスセンターに入り受付の方に向かう。

 その後、前と同じガレージの前で待たされる事になるが、僕に見せるデータの準備に時間がかかっているらしい。

 それから少しして、受付の女性が僕に話しかける。


『先に彼女にお会いしますか?』

「……はい。お願いします」


 いよいよ会える。


『かしこまりました。連れてきますのでお待ちください』


 もうすぐあのドアからアルナがやってくる。


――ガチャッ


 ドアが開く音と共に、一人の女性型アンドロイドが入ってきた。


 工場に預けた時と同じ、白のレースブラウスと青のプリーツスカート。

 黒色が少し強くなったものの同じダークブラウンのレイヤーボブ。

 肌の色もほぼ同じで、深い青の瞳は前からの移植。


 つまり、前とほぼ一緒の姿だ。


 アルナはオーダーメードになるため、同じ外見モデルは存在しない。

 その分喜びもひとしおだ。


「……良かった、アルナだ」


 僕は思わず声を漏らす。

 中古ながらも稼働時間が短い最終型、そしてアルナと外見が限りなく近いモデルを、全国中から探した半年間の努力の成果がここにあった。


 目の前のアルナは一歩も動かず、優しい顔で僕を見つめている。


「おかえり、アルナ」


 僕は気持ちを込めてアルナに声をかけると、アルナも嬉しそうにその声に答える。

 しかし、その一言は僕の望んでないものだった。



「はい。ただいま戻りました。聡一郎様」



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