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帰りたい男の話  作者: はるゆめ
8/10

記憶と望郷

思えば物心ついた時から周りのものは全て色褪せていて、どこか現実感に乏しく、夢を見ているような気分だった。


景色も人もその存在感はどこかしら希薄で、湧き上がる感情も淡々としたもの。

そんな毎日を送っていた俺。


そんな俺をスズユフミは何かと構ってきてたように思う。

彼女とは気が合ったので、女子おなごとつるんでる変なやつ扱いされてても、俺はスズユフミと行動をともにした。



「目が覚めたかぁい?」

俺は担がれている、女に。

目の前に尻尾。

その向こうには地面。


景色がくるっと変わる。

地面にそっと降ろされた。


狼女がいた。

モフモフだ。

狼のコスプレをしたお姉さんにしか見えないが、ナハライズミとりあってた姿が本来のものなんだろう。


周りに同じような狼女が二人。

俺を感情のない瞳で見つめてる。


「落ち着いてるぅね。なぁら話は早いね」

「殺すつもりなら、あの場でそうしただろう?」

「お前様はねぇ大事なお客様だよぅ。イムラで一番偉い人のところへ連れて行くからぁ」

間延びした喋り方。

彼女らの種族、ケモノビトの特徴だな。


「俺の連れは無事なのか?」

「お前様を攫った後のことは知らないよぅ。お前様にしか用はないからぁ」


「俺はどうなるんだ?」

「さぁねぇ。お前様を連れてこいって命令だけぇ」


着いてからわかるだろうが、人の命が軽いから安心は出来ない。


狼女は俺の首へと腕を回し、鼻を近づけ何やらしきりに匂いを嗅いでいる。

「お前様は不思議だねぇ。全く怖がってない」

「驚いたけど怖くはないな。それにあんたらから殺気のようなものは感じないし」

すると何がおかしいのか狼女達は笑い出した。


「あたしらぁを見て怖がらないってのは面白いねぇ、お前様」

「ん?そりゃ狼なら怖いけど、あんたらは言葉が通じるじゃねぇか」

「そういうもんかねぇ」

「そういうもんだ」


どうせ逃げられやしない。

ナハライズミ達が俺を救出するために追ってきてるだろうが、この狼女達もそうはさせまいと必死だろう。

なら腹を括るしかない。


「喉が渇いたんだが」

狼女がおもむろに近くにあった太い蔦を爪で切って俺に差し出す。

すげぇ切れ味だ。

ナイフ並みだな。

ただの切り口からは透明な汁が滴ってる。

飲む。

ほんのり青臭いが水だ。


「急ぎたいけどぉ、お前様はあたしらぁより丈夫じゃないからぁ、ここで寝ていくよ」


空に浮かぶ月を見上げつつ、狼女に抱かれるようにして眠りにつくことにした。

毛皮付き抱き枕だな。


夢を見た。

いつも見る夢だ。


「※※※は俺のこと好きか?」

俺は目の前の女に訊いている。


単刀直入に。

早鳴りの心臓。

顔が熱くなるのがわかる。


「……うん」

その女は目を伏せてそう言った。


世界が一気に色付いて見える。



俺が妻にプロポーズした時の記憶だ。

だがその女の顔が思い出せない。

次の場面もいつも通り。


突然俺は独りになる。

妻がいない。

そして妻を探す。

あてどなく探しに行くのだ。


「どこに行ったんだ!どこにいるんだ!」

力の限り叫ぶ。

焦りと寂しさに。

それなのに顔がはっきり思い出せない。


目覚めると夜明けだった。

この夢を見た後はいつも憂鬱な気分になる。


「うなされてたねぇ。悪い夢を見たのかい?」

狼女が覗き込んでくる。

鼻と鼻が触れそうな距離。

パーソナルスペースが僅かなんだろう。

人口も少なく人は身を寄せ合って暮らしてるから、当然かもな。


「良い夢見ることはないんだ、昔からな」




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