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帰りたい男の話  作者: はるゆめ
6/10

山を行く

これからは山歩きとなる。

次第に傾斜がきつくなり、大木を避け、沢を渡り、熊笹みたいな植物をかき分けて進む。

狩人について山に入ったこともあるが、流石に速すぎる。


「なぁナハライズミ、もう少しゆっくり頼む」

「わかった。少し休むとしよう」

そう言うと彼女はカモシカのように崖を降りて沢の方へ水を汲みに行った。

テレビの障害物競争の極め付けみたいな番組に出たら簡単に優勝しそうだなぁと見送る。


鳥の囀り、遠くで獣の声。時折り飛んでいくトンボっぽい虫。

深い山だ。

この山脈が他国からの侵攻に対する防壁となっている。


「ねえ、今のうちに神様にお祈りしよう」

スズユフミが袋からお供えとして木の実を取り出しながら言う。

「そうだな」

大きなウロがある木を見つけ、そこへ木の実を投げ込み、旅の無事を祈る。

宗教らしきものはない。

強いて言えば巫女さまを崇めている宗教だ。

巫女さまは神様の声を聴き、政をする。



隣国イムラの追手。あいつらの目的は俺を殺すことか、それとも拉致することか。

俺は非力だ。

ムラでの役割は巫女様の雑用係とスズの助手。

畑の作物の出来高を計算したり、薬草の管理をしたり、荒事とは無縁もいいところ。

狩の手伝いをしたこともあったが、野営の段取りとかだったし。

狩るのは狩人達の仕事。


いざという時自分を守れる自信はまるでない。

武に関して素人と玄人の差は絶望的な隔たりがあるのを知ってるから。



「お祈りか」

ナハライズミが水の入った皮袋を下げて戻ってきた。

「飲んでおけ。まだ先は長い」とそれを俺たちの方へ投げてよこす。冷たくて美味い。


「俺とスズユフミは非力だからな。神様に皆の無事を祈ったんだよ」

「そうか。安心しろ。主達は守り抜く」

そう言って笑うナハライズミ。なんだか可愛く見える。

おっとこういうのは筒抜けだ、自重しよう。



その夜。

ナハライズミの『守り抜く』と言う言葉は果たされることがなかった。



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