ラブコメは見る側に限る
不意に背中に寒気。
感じた途端、ナハライズミは俺を庇うように伏せる。
風切音がしたと思ったら、直後爆ぜる地面。
銃撃?
いやあれは石飛礫か?
「主は私の背後へ。スズユフミ!お前はいざとなれば主の盾となれ」
「言われなくても!」
スズユフミに抱きしめられる。
少女に守られるという、少し情けない状況だが、圧倒的に女社会なのだ、ここは。
周りは森、原生林ってやつだ。
また寒気。
空気を切り裂く音を立てて飛んでくる石飛礫が地面を次々と抉る。
狙いはナハライズミか?
その彼女は短い槍を投擲する。
全身がバネのようにしなる。
凄まじい勢いで飛んでいった槍は、森の中へ吸い込まれていき、車と車が衝突したような音を立てる。
対物ライフルかよっ!
そうやって次々と敵を倒していき、辺りは静かになる。
残りは撤退したようだ。
「イムラの奴らだ」
敵の死体を検分し、戻ってきたナハライズミは言う。
木製と思しき簡素な鎧を纏った男たち。
頭には偽装のためだろうか、緑と茶、そして藍色とまだら模様に染められた布を巻いている。
胸には大きな穴が開いている。
あの威力とんでもないな。
即死だろう。
イムラ。
俺たちが住むヤリナの隣国。
常に小競り合いを繰り返している敵国だ。
国境なんて曖昧。
関所があるわけでもない。
国境警備兵もいない。
ムラから一歩出たらそこはもう戦場と変わりはないのを実感する。
「ナハライズミ、お前だけで大丈夫なのか?」
「私の他に三人ついてる」
姿を見せない護衛か。
剥き出しの暴力を目の当たりにして俺は自分の命が薄皮一枚の上にあることを実感する。
ここで人の命は軽い。
非力なのを嫌というほど思い知る俺。
ムラを発つ時に渡された石で出来た小刀を使うことがないよう祈るしかない。
「敵に攫われるようなことになれば自決しろ」
ムラの巫女さまはそう言って俺に小刀を渡したのだ。
「安心しろ。主は必ず大巫女さまのもとへ無傷で連れて行く」
不意にナハライズミに抱きしめられる。
デカい。
当たる。
俺の頭頂部に乗っかる何か。
まるで母親と子ども。
「私も守るから!」
後ろからスズユフミも抱きついてきた。
「ナハライズミ、そんなにくっつかなくていい」
刺々しいスズユフミなんて初めて見た。
「主の身体を冷やしてはだめだ。私の方が温かいからな」
確かに夜はかなり冷え込む。
植生を見るに日本と同じような温帯気候にある地域なんだろうけど、季節は初春だろうか。
イズミは筋肉質なので体温は高い。
デカい抱き枕だ。
そのまま俺たちは抱き合ったまま天幕の中で眠りについた。