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新しい生活

クラウディオ視点から始まります。

***からソニア視点です。

 クラウディオはツンと遠慮がちに引かれる服の袖を見て、溢れ出る笑みを抑えきれず空いた手で隠した。

 乱れた髪の隙間から、赤く染まる耳が見える。


(…かわいい)


 ソファまで来ると、ソニアは落ち着きを取り戻してしまったが、隣に座り一緒にお茶を飲む事を許してくれた。

 真っ直ぐな色の薄い金の髪も、赤くなると薄く見えるそばかすも、細くて華奢なその肩も愛らしい。

 お茶を嚥下する首は細く、白目の少ないつぶらな瞳は小動物の様で庇護欲を誘う。


「どこまで知ってるっスか?あたしの事」

「どこまでだと思う?」


 質問に質問で返すと、ソニアは鼻の上に皺を刻みじとりと睨んでくる。

 警戒するリスにどんぐりを渡す様に、その唇に軽くドラジェを当てると、彼女は警戒無くパクりと口に入れた。


(不審に思っている相手から差し出されたものを、どうして口に入れちゃうかな)


 口を閉じる瞬間、ソニアの唇がクラウディオの指先を掠める。癖になってしまいそうなその感触に、クラウディオはもうひとつドラジェを差し出す。

 ソニアは再びパクりと口に入れて、カリコリと食べる。


「おいひぃ」

「良かった。はい、もうひとつ」


 ソニアは幸せそうにパクりパクりと次々頬張る。その度に指先を食まれ徐々に昂るクラウディオと違い、ソニアは眠そうに目を擦り出した。


「眠い?寝る?」

「もう一緒には寝ないっスよ…」


 ソニアは頭を掻くとふらりと立ち上がった。


「あーもう、エーリズにいる時はこんなに油断してなかったのになぁ…」


 そう呟きベッドにぼすりと横になった。


 リラックスしてもらえてる事に喜ぶべきか。油断され過ぎている事に悲しむべきか。

 逡巡している間にも寝息が聞こえて来てしまった。


「え、もう寝た?」


 ベッドに近寄り、その顔にかかる髪を除ける。

 指先でつついても動かないその寝顔に、少しだけとその頬を撫でる。滑らかな感触を堪能していると、ふにゅりとその寝顔が緩んだ。


「このにおい…しゅき」


 そして手の甲に鼻が擦り寄せられる。

 すり、と甘えた仕草にクラウディオはピシリと固まった。


 “この匂い好き。”


(僕の匂いが好きだと、そう言った?)


 波立つ欲望に任せて揺り起こしたい衝動に駆られる。

 だが起こしたとして、その後自制が利くのか。

 自問自答し、クラウディオは部屋から出る事を選んだ。

 ソニアの客間の扉を閉めると、熱く重いため息が溢れた。


 落ちていく。それはこんな感覚なのかもしれない。


「ああもう、警戒してくれよ…」


 でもそういえば警戒心が薄いのは最初からだったな、と始めの頃を思い出す。




 最初道端で見かけた時は、見間違いかと思って三度見した。宮廷聖女が路上治療してるなんて。


 次の可能性として、制服を自作して「自称宮廷聖女」の詐欺師かと思った。しかし先を急ぐ今、中級以上の聖女は居ると助かるのも事実だった。


 テノラスでは聖女の能力に合わせて下級、中級、上級にランク分けしている。下級は骨折程度なら直ぐに治せて、中級は切断、上級は欠損を補えるという基準だ。

 上級以上はエーリズに管理されていて、他国に譲渡されることはまずない。だが中級の聖女はエーリズに居れば結構ゴロゴロ見かける。


 道端で営業して自活出来るレベルなら中級か?と思って声をかけた。

 声をかけて、力が抜けた。あんまりにも礼儀作法がなってなくて。言葉は雑だし、食べ物を口ぱんぱんに詰め込むし。聖女は下級といえどある程度の礼儀作法を国から教育されているはずだ。


 声をかけると直ぐ様来てくれる事になり、やっぱり自称聖女のたかりかな、とクラウディオの期待値は下がった。


 しかし道中、馬四頭に一気に治癒魔法をかけるという離れ技を披露した。

 上級の聖女でも治癒魔法を使う時は対象に手を触れていないと使えないと聞いていたのに。


(まさか、本物の宮廷聖女!?)


 宮廷聖女は上級の中でも、更に広範囲魔法が使えるほど魔力が高いらしい。外交で宮廷を訪れても滅多にお目にかかれない代物だ。


 初日、ソニアが馬車の中で眠りについてから、クラウディオは魔導具で間者に指令を出した。「宮廷聖女ソニア」について調べて来い、と。




 次の日もソニアは相変わらずの体で、無遠慮な喋り方もクラウディオの方が慣れて来てしまった。これで態度も無遠慮だったなら、多少の苛立ちを伴ったかもしれないが、その態度は寄り添いつつも一定以上は踏み込んで来ないと一貫していた。

 「ジャーキーが好き」なんて相手に合わせた隙を見せても、態度が変わらなかった。


(おかしいな。大体の女性は意外な一面とか見せると「自分は彼にとって特別かも」とか自惚れだしてペラペラ喋ってくれるんだけどな)


 更に驚いた事に、馬四頭にプラスしてクラウディオや馬車の中にいたロハンにまで治癒魔法は届いていた。


 彼女がどこにも所属していないのなら、是非自国に連れ帰りたい。そう思うのに時間はかからなかった。




 そんな打算の上で優しくしたが、クリーン魔法だけは本当に申し訳なかったと思う。便利なのに普段女性が使わない理由がよくわかった。

 ソニアの細い脚と、うっかり下着まで目に入ってしまったのだから。

 だがソニアは全く動揺しなかった。犬にパンツ見られた女性だってもうちょっと恥じらうと思う。


 女性からされる犬以下の対応に、クラウディオは生まれて初めての衝撃を覚えたのである。




 3日目になり、クラウディオはソニアの一挙手一投足が気になり始めていた。

 初めてエンカウントする生物に対しての興味だと思うが、こちらから距離を詰めても詰めても縮まった気がしない。


 だけどクラウディオはソニアに対して好感を抱く事が増えていった。


 魔導燈の事もそのひとつだ。

 実は魔導燈を国中に普及させたのはクラウディオだった。有用性や火災の減少、夜間の事故や人攫いの不安解消など、色んな角度から検証し、予算をもぎ取ったのだ。8年前に初めて担当した大きい案件だった。


 その事に気づいてもらえたのが殊の外嬉しく、上機嫌になってしまった。


 だが、ホテルでソニアがバスルームを使っている間に来た報告で、流石のクラウディオもフリーズする程驚いた。


「本物の、筆頭聖女?」


 表向きの筆頭聖女は侯爵家出身のフィリスという女だった。美人だが高飛車で、図々しい事を当然の様に要求するいけすかない令嬢だった。

 外交の席で唯一顔を出す上級聖女で、クラウディオも夜会で何度かダンスの相手をさせられた事がある。


 侯爵家だけの権力で筆頭面は出来ない。その背後を考えなければいけないのに、すぐ出てきたのは「嘘だろう?何故?」そんな気持ちだった。


(もしかして、エーリズに帰さなければいけない?)


 「嫌だ」と思い、そう思った自分に驚く。それほどまでに彼女を気に入ってしまったのかと。


 そうなってくると、口ぱんぱんに食べ物を詰め込むのもリスのようで可愛く思えてくる。


 手放したくない。そんな想いで迫ってみたけど、ソニアは真っ赤になるだけで、決して落ちて来てくれない。


 馬車に乗った時もそうだったけど、列車に乗ってもソニアは窓の外遠くを見つめるばかりで、用がなければクラウディオを見る事はなかった。

 一体何を考えているのか、やっぱり本当は帰りたいのか、クラウディオはひとりやきもきしながら書類に目を通していた。


 午後になり、窓際でソニアが寝てしまったタイミングで、間者から追加の情報がもたらされた。




 どうやらソニアを追い出したのは、王命のようだった。

 エーリズ先王が長いこと臥せっているのは周辺国の知るところだが、どうやらその状態は相当悪い。いや生きているのが不思議な程らしい。

 その状態で我儘を聞きながら生きながらえさせているのは予算の無駄だ、と現王は言ったそうだ。


 本当は前筆頭聖女が亡くなった時点で先王を処分する筈だったのだが、前筆頭聖女が次期筆頭聖女としてソニアに治療法を教え、引き継ぎしてしまった。

 その治療法というのが、魔力のみならず自身の生命力を相手に移すという信じられない方法だった。


(そんな方法を15歳の少女に強要するなんて、前筆頭聖女と先王は害悪だな。ソニアをエーリズに帰す気は微塵もなくなった。ソニアを追い出してくれた現王にはお礼を言いたいくらいだ。…着の身着のままでなければ、だけどな)


 多分そうして追い出して、間を置いてから拾い上げるつもりだったのだろう。恩を売り、後ろ暗い仕事をさせるのは権力者の常套手段だ。


 その目的の過程で現王のお眼鏡により選ばれた建前筆頭聖女がフィリスというわけだ。宮廷聖女の輩出により力をつけ始めた侯爵は利権に目が眩み御し易く、娘も頭がいい様には見えない。


(利用も切り捨てもしやすい者を選んだか。エーリズ現王は相当強欲だな。聖女を駒のように扱い過ぎる)


 クラウディオがソニアを気に入っていることはいずれエーリズにも伝わるだろう。

 その時、絶対返さなくていいよう先手を打たねば。


 全ての情報を先に王宮に報せておき、ソニアの事も許可を取る。


 クラウディオは一通りの作業を終えると、列車が揺れる度に「んごっ」「んごっ」と言いながら寝続けるソニアに目元を綻ばせた。




 城に着くとソニアは態度を改めてしまい、クラウディオは密かに驚き、そして距離がますます開いてしまったことで落ち込んだ。


 道中もそうだった。聖女としてのソニアはとても美しい。へらへらしているのが嘘みたいに、静謐で厳かで惹きつけられる。

 何時もなら魔法を使い終えると、その空気も霧散するのだが、城ではそんな事もない。


 ソニアは治療に対して非常に誠実だった。


 それをなんだか遠い存在の様に感じてしまったのは勝手なことだと理解はしていた。だけど寂しい気持ちは仕方がない。


 気持ちを割り切って、ソニアに少しエーリズの話をしておこうかと部屋に呼んでおいた。

 だがクラウディオが部屋に戻ると爆睡していた。

 可愛い寝顔で己のベッドを占領し、あまつさえクラウディオの枕を抱きしめて頬擦りしているのを見てしまったら。


(ま、待って待って、ヤバい!かわいい!かわいすぎるんだけど!)


 先ほど少し遠くに感じてしまった事も相まって、ときめくなと言うのは無理がある。

 爆発しそうになる気持ちを誤魔化すあまり、小さくて可愛い靴を隠すという意地悪をしてしまった。

 その後ガチ悲鳴をいただいて、ソニアが思う百倍はショックを受けた事は言うまでも無い。




 次の日、朝食の席で先王崩御の知らせが届いた。

 ソニアの治療が受けられなくなってから、意外と粘ったと思う。

 これでソニアも気掛かりが無くなってスッキリするんじゃないかと思っていたが、それは汚れ仕事をこなし過ぎたクラウディオの感覚だった。


 ソニアは部屋へ戻るなりエーリズの聖女服に身を包み、風が吹きつけるバルコニーで長い事祈り始めた。

 髪やスカートがはためくなか、その細い肩は微動だにしない。

 小さく頼りないのにブレないその姿勢はソニアのひたむきな心そのものの様で、クラウディオの胸はぎゅっと苦しくなった。


(ソニアは傷ついていたのか。治しても治しても終わらぬ治療に、意義を見出せず放り出す事もできず。…地獄の様であったのだろう)


 辞めた事を誰も責めはしないというのに。


 彼女は神を信じないと言う。

 それはそうだ。彼女の前では誰も神に助けを求めない。それでも彼女は助けてと伸ばされた手を払えないのだ。

 そうしてソニアは相手に莫大な魔力をふるうのだ。寿命すら捻じ曲げる程のその治癒力を。


(ソニアが出来ないならば、僕が代わりに打ち払おう。彼女に伸ばされる不条理を)




 それからクラウディオはエーリズに対してソニアを保護した旨を敢えて伝えた。先手を取る為だ。

 エーリズは当然の様に返還を要求してきたが、ソニア本人が望んでない事、既にテノラス皇帝が後ろ盾になった事を理由に、要求を突っぱねた。

 その上で幾つかの魔導具の要求に応えることで、この件は一区切りつけた。これ以上何か言ってきた時はこちらも考えがあると。

 強引で一方的ではあったが、聖女を対価に使うエーリズには妥当な取引だったと思う。後は他国から上級聖女を囲った事についてのアレコレがあるかも知らないが、それは追々対策しよう。


(まずはゆっくり時間をかけてソニアを口説きたい)


 クラウディオはとてもソニアに見せられない悪い笑顔を浮かべるのだった。





***




 先帝の治療開始から1週間。病巣は全て消えた。落ちてしまった体重は魔法で戻せないので、後は食事療法で元気にするしかない。

 ソニアの城での役目は終わったのだ。


 最後の治癒魔法をかけて、先帝の前を辞する時、初めて声をかけられた。


「此度の事、大義で、あった」


 声を出すのはしばらくぶりなのだろう。しゃがれ、掠れた声だった。側では皇太后が目元をハンカチでそっと押さえている。


「勿体ないお言葉でございます」


 無難に答え、お辞儀をした。

 もうちょっと気の利いた事も言いたかったが、いかんせん語彙力が低い。

 だけど起き上がり、話す事が出来るようになった患者を見て、口の端がうにっと上がるのを感じた。

 嬉しい。それはソニアの心の深い所をちょっと癒した。


「何か、褒美を、取らせよう」


 もう十分返してもらった気分だが、遠慮することは不敬になる。ソニアは少し考えて、ではと続けた。


「城下町に住んでもいいですか?」




 ソニアが借りている部屋へ戻ると、ローテーブルの上に畳んだ白い服が並んでいた。一枚広げてみると、それは白いシスター服。つまり聖女の制服だった。

 エーリズ宮廷の制服より肌触りの良い生地で作られていて、襟掛の端とスカートの裾、それと袖周りに紫色の花の刺繍が入っている。葉と枝の部分は銀糸で、角度を変えるときらりと光る。

 そんな上等な聖女服が五着もあった。


 部屋に来たメイドに服の委細を聞くと、この度の治療のお礼の一環だと説明された。


 今までのそっけない制服と比べるべくもなく可愛い。

 ソニアは気に入り、直ぐに着替えた。

 脱いだ制服を見返すと、所々黄ばみや旅の途中についたのだろう、落ちきらない泥汚れの跡がある。

 綺麗に畳んでから、一度ぎゅっと抱きしめた。


「今までありがと。バイバイ」


 草臥れたエーリズ宮廷の制服は処分する事にした。




 城下町暮らしの準備を、先帝は最速で手配してくれたらしい。次の日には鍵と住所を渡された。

 城で貰った新しい聖女服たち、用意してくれた普段用ワンピース、下着とここまでの旅の道中で馬に使った治癒魔法の報酬をトランクに詰めて、ソニアは渡された住所へひとりでやってきた。


「ここ?え?ここ?」


 メモと目の前に立つ家とを視線で5往復くらいする。

 ちょっと稼ぎのいい平民が家族で住む様な、庭付きの一軒家だった。

 ひとりで住むにはデカくないか?と先に貰った鍵を差し込むとガチャリと開いた。合っているらしい。


「おじゃまするッス〜…」


 好きに使っていい、と渡された家なのだが、家を持つなど初めてでドキドキわくわくしながら玄関を開けた。

 中は綺麗に掃除されていて、家具やカーテンも付いて直ぐ住める様になっている。入って直ぐ横はキッチンになっていて、ダイニング、リビング、サンルーム、庭と続く。冷蔵箱、洗濯箱なる魔導具が完備してあり、ひとりで生活するのにも困らなそうだ。すごい。

 寝室は2階か、と階段のある玄関先に戻ってきた時、ガチャッと玄関扉が開いて驚きに飛び上がった。


「わっ…!?」

「ソニア、家に入ったら鍵を閉めなきゃだめだよ」

「なっ、なっ、なんで…!?」


 当然のようにクラウディオが入ってきて、玄関に鍵をかけた。手にはソニアが持つ物より2回りくらい大きなトランクを引いている。


「ソニアに護衛を付けなければいけないんだが、何処の馬の骨ともわからぬ男を住み込ませるわけにはいかないからね。僕がソニアの護衛になるよ」

「はあ!?護衛なんていらないっス!!」

「…ソニア、何度も言うけどね。エーリズ以外では聖女は珍しく貴重な存在なんだ。特に元筆頭聖女なんて攫ってでも欲しい国は沢山あるんだよ。護衛の同居が嫌なら城へ連れ帰るよ」


 クラウディオの紫の瞳が心配そうに細められて、ソニアは言葉に詰まった。


「選んで。城で暮らすか、ここで僕と2人暮らしするか」

「言い方!」


 ソニアは脱力して、2階へ上がった。拒否されなかった事に機嫌をよくしたクラウディオが一緒に2階へ上がってくる。

 2階は廊下を挟んで左に大きい主寝室、右に寝室ふた部屋、突き当たりに小さい書斎の様な部屋があった。

 主寝室を開けた時にクラウディオから「一緒に使う?」と聞かれたので「ひとりでどーぞ」と返した。

 クラウディオはそのまま入っていったから、本当にひとりで使う気らしい。


 ソニアは階段寄りの寝室を使う事にした。作り付けの棚やクローゼットが備え付けてあり、ベッドは小さいながらもふかふかで申し分ない。

 荷物は少なく、1時間もせずに片付けは終わった。

 キッチンへ降り、足りないものはないかと確認するが、カトラリー一式、皿も鍋も一通りある。


「食べ物くらいか…」


 特にやることはないなら町へ行きたい。そう思うと、タイミングよくクラウディオが2階から降りてきた。


「ソニアこれ、渡しておくよ」

「?なんスか?」


 手渡された封書を広げると、“露店営業許可証”とあった。


「営業する時は必ず持参してね」

「ありがとっス!!」


 嬉しさ全開でお礼を言うと、クラウディオは眉尻を下げてソニアの頭をぽんぽん撫でた。


「…なんスか」

「可愛いなぁと思って」


 ソニアはくっ、とうめき声を上げて後ろを向く。

 背後からクラウディオがクスリと笑う声がして、ソニアは照れを紛らわせて玄関に向かった。


「何処か行くの?」

「パン買いに行くっス。ついでに折角だから簡易治療所したくて」

「わかった。一緒に行くから少しだけ待ってて。書類をちょっと持っていくよ」

「ひとりでもいっスよ」

「ひとりなら行かせないけど?」


 その完璧な笑みにソニアは黙った。口答えするととてもまずい気がする。コレはそういう笑顔だとソニアは学んだ。




 ソニアは人通りの多いストリートを物色していく。

 春の日差しは暖かく、通りを行く人は笑顔が多い。

 道沿いの家には花壇が多く、ふわりと甘い香りがそっちこっちから匂ってくる。その芳香を放つ紫色の花が、聖女服に刺繍されている花だと気がついた。


「クラウディオさん。あの花なんて名前なんスか?植えている家多いスね。あ、道端の花壇にもある。大きく育つと木みたい」

「ん?ああ、ジュスティラか。あれはテノラスの国花だよ。初代国王が品種改良して妃に捧げたと言われている。紫色のジャスミンさ」

「へー、良い匂い。ジャスミン程甘くなくて爽やかで……あ」


 チラリとクラウディオを見上げる。


(どっかで嗅いだ事あるなぁと思ったけど、これクラウディオさんの香水の匂いに似てるんだわ)


 急に言葉を切った事でクラウディオは首を傾げた。


「何?」

「…なんでもねっス」


 好きな匂いだと言うのは、なんとなく気恥ずかしかった。




 そのまま町の中心地へ行き、ソニアは以前の様に文字を書いた木箱を看板代わりに構えた。

 その直ぐ横のカフェのオープンスペース、一番ソニアに近いテーブルにクラウディオは陣取った。

 書類を広げつつも視界の端にソニアを捉える。


 ソニアは通りを歩きゆく人々を見回してから声を上げた。


「簡易治療所、一回1000シェル!聖女の治療はいかがっスか〜!」

 

 街角にソニアの明るい声が響いた。




 

ありがとうございました!


読み返してみたら、この2人ちゅーすらしていない事に気がつきましたΣ(・□・;)

ひとまず完結といたしますが、ちゅーぐらいしたく思います。

続きが書き溜まりましたらまたよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖女の軽いノリのおかげでサクサク読めました。面白かったです。 先帝に祈りを捧げてたり、城内ではちゃんと言葉をつかえたり、滅茶苦茶有能なのもギャップを感じれてよかったです。 幸せに生きていっ…
[一言] 2回目読んだんですけど〜 やっぱり面白いねぇ〜
[一言] えっこれは… 凄く、続き、読みたい、です!!!!!!!!!!
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