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街角聖女はじめました  作者: たろんぱす


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15/20

ソニア、お勉強はじめました

いつもありがとうございます!

「そうして神々がその御力により創り給いしこの地上に、最初に誕生した人々は魔法使いだったと言われています。その莫大な力を振るい、生まれたばかりの世界を魔力で満たしたのです。その後誕生した人々もその恩恵を得て魔法を使えるようになります。ですが時代と共に魔力は廃れ……」


 今日もペキュラは天気がいい。窓辺の席は光が燦々と降り注ぎ、肌寒い外気を遮断した室内は今にも瞼が下りそうだ。


「ですが今でもごく稀に、最初に降り立った魔法使いのように魔力の強い子が時々生まれるのです。その子達を『原初の子』と呼び……」


 喋っている時は早口で、時折声は裏返り、笑い声は甲高い。そんなイデオンだが、授業の口調は穏やかに一定のリズムで喋る。意外過ぎる心地よい語り口調により、もう限界である。

 首ががっくんと垂直降下した。


「はわぁっ!?」

「ソニア様、大丈夫ですか?」

「は、はいぃ……」


 そもそも何でこんなガチ授業を受けなければいけなくなったのか。それは数日前に遡る。




 その日は聖女の仕事を手伝いつつ大魔導士の息子からの返事を待っていた。だが結局来ず、息子の元へ直接会いに行ったが、不在だった。

 ソニアは肩透かしをくらい、再び城の庭を訪れていた。

 今日は特に予定がなく、時間はあるので早足で庭の端まで行ってみようと思う。


(えーと、治癒魔法を循環させると体力が回復するんだっけ)


 折角だから試してみよう、と魔力を体内でぐるぐる回して歩き出した。


(怪我とか体調不良の時にやってたから、この状態で歩き回るのは初めてかも)


 さくさくと歩き進め、全く息切れせずに庭の端まで到着した。端っこは人工的に作ったのだろう、浅い小川が流れていて、その向こう側に立ち入りを禁ずるロープが張ってあった。ここまでくると人気はなく、ぽつんとガゼボがあるだけだ。使われていないのだろう、苔むしている。

 ソニアは小川のほとりに立つと、魔力を止めて息をついた。


「や、これお腹空くなぁ」


 かなり歩いたのに身体的疲労感はない。確かに凄いが、お腹がぐうっと鳴った。ランチボックスを持ってくればよかった。

 だがこんなこともあろうかとクッキーを常備している。ポケットから包みを出して広げ「ふっふっ」とひとり笑っていると、背後の低木がガサガサと音を立てた。


「お前! どけ!!」

「え? っぐぼっ!?」


 確認する間もなく背中に衝撃が走り、ソニアは小川に突っ込んだ。盛大な水飛沫が立ち頭に降り注ぐ。


「いっだだだ、なんスかもー……あ! クッキーは」


 顔を上げると、水に浮かんだクッキーは小川の流れに乗って既に手の届かない場所へと運ばれていた。悲しい。


「あ、あ、あ……」

「お前、どけと言っただろう。全く鈍臭い」

「さすがに無理っス! って、シル様?」


 四つん這いで、未練がましくクッキーに手を伸ばしていると反対側から声がした。振り向けば、そこにはシルが寝ていた。うつ伏せで。顔は横を向けて、なんとか鼻は免れているが下半分は水に浸かっていて、さらさらと流れる川に乗って前髪がそよいでいる。


「何してんスか」

「どうでもいいから早く助けろ、ブス」


 どっこいしょお、とシルを持ち上げてほとりへ運ぶ。あの立派な椅子も小川に転がっていたのでそれも拾う。座面が濡れていて暫く座れそうにない。

 ブスッとした顔で下生えに足を伸ばして座るシルの横に置いた。その両脚には前と同じ、魔術の文字が書かれた布を巻いている。


「はあ、びちょびちょ」


 人が居ないのをいいことに、ソニアはショートブーツを脱いでひっくり返す。スカートもたくし上げて寄せ集めて絞る。どちらからもじゃばーと水が出て少し身軽になった。さすがにしないが、出来ることなら長靴下も脱いで絞ってしまいたい。


「な、ちょ、お前! 足を出すな! 靴を履けっ」

「へ?」


 だが横にいたシルは真っ赤な顔を両手で隠して叫んだ。


「ふ、婦女子が足を出すなんて破廉恥だ!」

「な、なんと……!」


 なんと新鮮な反応。短パンで家の中をウロついてもクラウディオもハンナも何も言わないから、そんな痴女扱いを受けるなんて予想外である。靴下だって履いてるし。


「女性の脚は絶対絶対見ちゃダメだと母上は言っていたんだ! ブスとて例外ではない」


 母上の教育の賜物だった。きっと貞淑な女性なのだろう。ソニアはささっとスカートを戻して靴を履いた。


「すまんっス、戻したっスよ」

「全くお前は意識が低いな」

「返す言葉もないっ……ぶえっくしゅっ!!」


 寒い。冬の始まりのひんやりした風が吹いて、たまらずくしゃみが出た。シルを見ると顔色が白くなっている。ソニアはシルを肩に担ぎ上げて立ち上がった。そろそろこの重さにも慣れてきた。


「な、なにする」

「このままじゃ風邪ひくから、ひとまずあたしの部屋へ行くっスよ。椅子は後で回収してもらって欲しいっス」

「くっ……」


 薄々わかっていたがシルは歩けない。担いで文句のひとつも言わないのがいい証拠だ。ソニアは魔力を巡らせて小走りで部屋まで戻った。




「ソニア様、一体何が?」


 部屋に入ると、ずぶ濡れな上に子供を担いだソニアを、ハンナが困惑気味で出迎えてくれた。だがそれどころではない。

 ソニアは力が抜けてガクリと膝をついた。


「すぐにお風呂の準備を」

「いや、ご飯を頼むっスー……」


 お腹空いた。




 出来る侍女ハンナはお風呂の準備をする傍ら、素早く温かいスープとサンドイッチを用意してくれた。ソニアはそれを三分とかからず平らげ、シルがスープを飲んで落ち着くのを待ってから、再び担ぎ上げた。


「なんだ!?」

「さ、風呂行くっスよ〜」

「はあ!?」


 部屋と続きの浴室に行き、肩に担いだままシルのズボンを下げた。


「ぎゃー!?」


 シルが叫ぶ中、ズボンをポイッと投げる。十歳にも紳士の矜持があると思うのでパンツは穿いたままでいいだろう。脚の魔術の布はわからないので、こちらも着けたままで浴槽の中にそっと下ろし、上のシャツは剥ぎ取った。


「あたしが変態みたいだから叫ばないで欲しいっス。普段メイドさんとかに手伝ってもらって慣れてるんしょ? 同じっス」

「それはそれ! これはこれだ!」


 ソニアは手桶でお湯を汲み頭から被る。先程女性の振る舞いを注意されたばかりで、服を脱ぎ捨てるわけにもいくまい。これだけでも濡れた服にお湯が染み込んで温かい。


「えー? でもシル様独りじゃお風呂難しいっスよね?」

「そ、それは……。だが屈辱だ! 責任を取るべきだ」

「責任、スか。まーあたしに出来ることなら? ほら、シル様。縁に頭乗せるっス」


 石鹸を手にとり、バスタブの縁をトントン叩くと、シルは渋々と頭を乗せた。手桶でそっと髪を濡らし、泡立てた石鹸を付ける。


「お前は変だ」

「んー、貴族じゃないからっスかねぇ?」

「服は勝手に脱がすのに、治療には許可を取るところだ」

「いや、それは全然違うっしょ。傷はほら、思い出の勲章〜とか言って残したい人とかいるっスよ。治したらなくなっちゃうけど、服は乾かして返せるっス」

「……お前の基準、わかんねー。けど……」


 髪をもみもみすると、川で付いた藻がぺろんと出て来た。結構汚れたみたいなので念入りに洗ってから、顔にかからないように優しく流す。

 真っ白だったシルの顔には赤みが差し、だいぶ温まったようだ。


「シル様、終わったっスよ」

「んー……」


 温まったら眠くなったんだろうか。薄く開いた目はぼんやりとしてて、すぐに閉じてしまいそうだ。抱き上げたシルに手早くバスタオルを巻いて、外で待機していたハンナに後の世話をお願いして、ソニアもささっと風呂を済ませた。




「ふぃー、さっぱりしたっス〜」


 新しい聖女服に着替えて部屋に戻ると、シルはすっかりソファで寝入っていた。髪はハンナが乾かしてくれたようだ。服もこの短時間に新しい物を調達してくれたみたいで、風邪を引かなくて良かった。


「ソニア様、この子は……?」

「あー、なんか庭で知り合った子っス。シルって名乗ってて〜、後はよく知らないっスねぇ」


 ソニアがそう答えると、一瞬ハンナの口の端がぴくっと動いた。どうしたんだろう、そう思ってからハッとする。


「も、もしかしてコレ誘拐になるっス? ちが、違うっス! そんなつもりじゃ……!」

「いえ、何処に連絡差し上げればよろしいのかな、と」

「あ、あー、そっスね。起きたらきいてみるっスか」


 そこへ、トントンと部屋をノックする音がして、「ソニア様〜!」と大声で呼ぶ声が聞こえた。

 ハンナの眉間がぎゅっと寄って渋い表情になる。いつもクールなのに珍しい。イデオンが苦手なのだろうかと、ソニアは自分が扉へと向かった。


「はいはーい、教授サンどしたっスか?」

「ソニア様! もしご予定がなければ小生と治療棟巡りはいかがでしょうか? いひひ、実は先程生きのいいサンプ……んんっ、患者が入ってきたと連絡がありまして、ひひひ」


 サンプルと言いかけたイデオンの背後には、既にカートに載った測定機が異様な存在感を放っている。持ち歩いているのだろうか。そして生きのいい怪我人とはなんぞや。


「治療は全然行くっスけど、今子供が居るっス。何処の子かわかんなくて……あ! 教授さんわかるっスか?」

「上位階級持ちの人の子でしたら、程々には。どの子供でしょう?」


 ソニアは部屋の中に招き入れて、ソファの上を指さすと、イデオンは「おや」と声を上げた。


「シルベスト様ではありませんか」

「おー! 知ってるっスか! 何処の子? 連絡しないと」

「大魔導士様のご子息のグレゴリー・シルベスト・ストロバトス様ですよ」

「え? あの依頼を受けた? えーーーーと……え? 大人、じゃない?」

「大人です。大人だったんですが」


 そこへハンナがテーブルへお茶のセットを用意し始めた。


「ソニア様、立ち話もなんですからどうぞお掛けになってお話しください」

「あ、そっスね。すまんっス、教授サン。どうぞ」

「いひ、いただきます」


 シルが寝ているので、イデオンは一人がけのソファへと案内し、ソニアはシルの対面のソファへと腰を下ろした。お茶を口にすると、イデオンは、静かに喋り出した。


「シルベスト様は反転換ベクトルへの干渉についての研究をしております」


(待って。もうわかんない)


 ゆっくりと首が傾いていくソニアを見て、イデオンは少し思案してから続けた。


「そうですね、攻撃魔術を反転……跳ね返す魔術があるのですが、その、跳ね返された魔術にさらに魔術で干渉して別の魔術に変えてしまおう、というものです」


(おお、わかる)


 ソニアがコクコクと小刻みに頷くとイデオンは話を先に進めた。


「その日は重力魔法への作用の実験を行っておりましたが、反作用のベクトルが作用を打ち消し、暴走したと伺っております」


(あ、え、まっ……)


「渦を巻いた重力エネルギーが凝縮され、シルベスト様の両脚にあたったのです。エネルギーは血液を逆流させ、肉体を分解させようと働いたのですが、咄嗟の判断でご自身の脚を起点に指定空間を停滞させる魔術を施されました。しかしそれが暴走した反作用ベクトルと反応して、急激な肉体の逆成長を起こしてしまったのです」

「…………」


 思考と共に体の動きまで固まっていたソニアだが、イデオンが言葉を切って五秒程の沈黙で話が終わったっぽいと理解した。


「へーー(棒)」


 相槌、それがソニアの精一杯である。イデオンはにこりと微笑んで言い直してくれた。


「魔術暴走で、幼児化されたのです」

「! なるほどぉ!」


 とってもよくわかった! とソニアは拳を握って頷いた。イデオンは変な人だが説明が上手かもしれない。


「脚に巻いてある魔術布は暴走した魔術を固定化させるものです。そうしないと逆成長が止まらず消えてしまうところでしたので」


 布を取らなかった判断は正解らしい。


「魔術の影響は大きく、自身の魔力コントロールの突破的暴走や起きていられる時間が短い事、何より記憶の混濁が起きておりまして、本人は自身を十歳と思ってらっしゃいます。ひひ、十歳の頃は一番反抗期が強くいらっしゃって。懐かしい反面、皆手を焼いているのです」

「あたし、テノラスから来たと言ったら治療を断られたっス。実はクラウディオさんからあまり仲が良くないと聞いてたんだけど、そのせいっスか?」

「いひひひ、そうです。シルベスト様が十歳の時にクラウディオ殿下が短期留学にいらしたんです。それまで大魔導士様の子である事に誇りを持ち、周りもシルベスト様を認めてたんです。ですがクラウディオ殿下が凄いと聞きつけ、勝負を仕掛けてコテンパンにやられました。それから毎日付き纏っては返り討ちにあって。殿下が留学を終え帰国された後も暫く荒れておりましたね。その記憶があるのでしょう、まだ」


 「まだ」の言葉でイデオンは射抜くようにソニアと目を合わせた。


「シルベスト様の魔力はクラウディオ殿下程ではないが十分大きいのです。魔術布の効果はジリジリと押され、ゆっくりと逆成長が進んでいます」

「治療を急いだほうがいいということっスね」

「ええ。この治療には他の魔導士と力を合わせていただくことになります。暴走した反作用ベクトルに作用の効果を戻し、正常化した後の魔術解除、そして飛散する脚の治療の同時進行です。すべて飛散してしまったら、出血多量で即死でしょう。時間にして一秒以下。レレ様は『自分には不可能だ』と申されました。ソニア様、貴女にこの治療が出来ますか?」


 失敗したら死ぬ。だけどこのままやらなければ彼は必ず消える。だったら。


「もちろん、出来」

「タイミングを合わせるために、シルベスト様が研究されていた反転換ベクトルの知識も必要になりますが」

「るぇん…………?」


(いや無理いぃーー!!)


 心の叫びが口から飛び出すその前に、イデオンに謎のスイッチが入ってしまった。


「いーひひひひっ、いえいえ愚問でした。ソニア様がこの程度出来ないわけがございませんよね。小生とした事が、ソニア様を見くびるような発言、どうぞお許し下さい。先日の治療の様子も見事でございましたし、是非シルベスト様の治療の際の立ち合いに小生をご指名いただきたく! いひひ、それにもし魔術の解説がご必要でしたら、僭越ながら小生に務めさせて下さいませ! これでも生徒からはそれなりに評判が良く」


 先程まで懐古に切なく細まっていた目が、これ以上ない程見開き、ギラギラと獲物を前にした猛禽類のように光っている。長く喋ってるからか、息もはぁはぁと短くなり、その様子で両手を握られソニアから「ひぃ」と悲鳴が出てしまった。


「ですのでこのイデオン・クスフェ、イデオン・クスフェに是非治療立ち合いのチャンスを!! いひひひひひひ」

「わかったわかったわかったっスから〜〜!」


 部屋の隅でハンナが小さくガッツポーズしたことは誰も気が付かなかった。





 そうしてソニアは初期の初期、魔法の始まりからがっつり勉強する事になってしまったのだった。教師役はゴリ押し自薦でイデオンに決定。

 聖女としての淑女授業や思想教育全てを寝るかサボるかしていたが、今回は人命がかかっているので死ぬ気で起きている。

 そんな授業を数日受けて、なんとか勉強にも慣れてきた。


(でもテノラスには暫く帰れそうにないっスね)


 ソニアは就寝前のルーティンとなった、ペンダントに魔力を通した。


「あっ!」


 ペンダントから伸びる細い線が、いつもは窓へ真っ直ぐ向いていたのに、若干右方向へ傾いている。


(移動してる! もうエーリズへ向かったんだ)


 出発前に会えなかった。とても残念だ。

 どうか無事に帰ってきて欲しい。


「そうか。こうゆう時に皆、神に祈るんだ」


 誰かの無事を願うのは初めてかもしれない。





***




「ふっ、ふふっ」


 揺れの少ない馬車の中で、ハンナからの報告書を読んだクラウディオが笑い声を上げた。

 対面に座っていたニコラが顔を上げる。


「そんなに愉快な内容でしたか?」

「ああ。ハンナが随分手こずっているみたいだ」


 クラウディオから手渡された報告書に目を通してニコラも苦笑した。


「仕事は完璧でいつもクールな彼女が意外ですね〜」


 今回のソニアのペキュラ行きにあたって、その身の安全は勿論だが、一番にと命じた任務は『ソニアをペキュラに留めること』。

 婚約発表後の他国の人々の出入りが激しい期間は、誘拐の可能性が高い。純粋に聖女としてのソニアの能力もさることながら、国内の年頃の令嬢がいる家門が誘拐に協力する可能性があったからだ。

 またエーリズの間者が帝国内に残っている可能性もある。ランドリックの呪いについての報告を受けて、かなりの高確率で潜んでいると確信している。

 以上の事から、クラウディオが帝国に戻る予定の日まで決してソニアが帝国に帰って来ることがないよう、ハンナには頼んでおいた。ハンナだけでは大変なこともあるかとランドリックにも念押しして頼んでおいたのだが、こちらは相変わらず魔導具開発以外では大した成果がない。

 ソニアは優秀なので、シルベストに会ったら簡単に怪我を治してしまうだろう。なので、そもそも会うこと自体を邪魔するようにハンナは動いていたようなのだが。


(散歩先であっさり出会ってしまうなんてね。さすがのハンナも予測できなかっただろう。シルベストがすぐに治せない状態で助かったと言うべきか)


「それにしても、僕に会う為に早く仕事を終わらせようとしていたなんて、可愛過ぎないか?」

「そうなってたら困る事を口にするなんて、どうかと思いま〜す」


 大丈夫、同意は求めていない。可愛いの一択だ。


(しかも夜一人の時にペンダントで僕の場所を探してくれているだって? 僕への意識がちょっとずつ育ってくれてて嬉しい)


 とても癒されたが、この癒しの報告書とはしばしのお別れだ。


 車窓の外ではエーリズ王城が徐々に大きく見えてくる。半年ぶりだ。前回は父親危篤の報せにロハンと隠密だけ連れて慌てて退城したのだった。

 一緒に連れて行ったニコラをはじめとした助手や侍従、騎士達は残った荷物を纏めたり、茶会や訪問のキャンセルの手紙を出して次の日に退城したときく。慌ただしかったのは確かだが、その裏で聖女が追い出された、なんて騒ぎが起きた事は全然耳に入ってこなかった。それ程簡単に済まされてしまった事なのだろう。


(そう、あれからまだ半年だ。エーリズ前王が身罷られてから、喪が明けていない)


 それなのに王太子の婚約発表パーティというのは、随分急いている気がする。聖女を多く輩出する国なのに薄情ささえ感じる。

 更にはソニアに関する取引も無かった事にされそうな今、クラウディオに手加減という文字はない。

 城門が目の前まで来て、御者が入城の手続きを始める。

 クラウディオは手で口元を押さえて、ゆったりと優雅に見える微笑みを作った。


「さあ、暴いてみようか。エーリズの秘密を」




***




「アウロ」


 その呼び声に、シスターは振り返った。

 人目につかない町の裏通りを足早に移動する。


「セリム、どうでしたか?」

「大丈夫、今姉貴が看てる」

「ではエニより弱い聖女だったんですね。王太子の婚約パーティが終わるまで人員の補充はないでしょうから、急げば間に合いますね」


 二人は手入れをされてない古い教会の扉から中に滑り込んだ。扉の木は朽ちボロボロで、鍵はない。迷いない足取りで懺悔室へと向かう。


「そっちはどうだった?」

「大丈夫、テノラスの皇弟はおひとりでした。“ソニア”は来てません」

「っしゃ! 王様だって“ソニア”がいなけりゃ、もう穴を補えないだろ。宮廷聖女全員注ぎ込まない限り」


 懺悔室の床板を外すと出てきた鍵穴に、アウロは十字架に模した鍵を差し回した。板を戻して鍵穴を隠してから大きく床を持ち上げる。その下には地下へ続く階段が続いていた。


「セリム……父はいましたか?」

「居なかった。間違いなく王様のところだって。メリッサばーちゃんいなくなっちゃったから」


 アウロは眉間に力を入れて、溢れそうになる涙を我慢した。地下へ降りると、続いたセリムが慎重に床を閉めた。


「急いで“要”を破壊しましょう。もうこの国から不幸な聖女が産まれないように」


イデオン、聖女オタクモードオン!

・いひひ笑いが加速します。

・早口ではぁはぁします。

・隈の浮いた目がギラギラします。



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― 新着の感想 ―
要と穴 穴塞ぐ為の、聖女が必要 聖女の数が居るので、要が生まれた。 流れ的のは、こうかな。 穴の危険性と要の意味は? 表と裏で、動きが激しいいいね。
> この国から不幸な聖女が産まれてないように 次回聖女が多く産まれる謎が明らかに…?>< 不穏な感じがするよー!クラウディオ大丈夫かな…。゜(`ω´)゜。 ソニア、ショタ(仮の姿)の責任とらされる…
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