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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
9/53

みゆき②

 西暦2129年(デスゲーム開始から99年) 賢者の虹里


 このゲームの最難関エリアと呼ばれている場所がある。

 一歩立ち入ったのならレベル500のモンスターが絶え間なく襲ってきて、何体ものボスモンスターも生息している場所だ。


 そんな場所の中に、1つの街がある。

 賢者の虹里。

 他の街では見られない高級アイテムが販売してあったり、ラスボスへ繋がる情報をくれるNPCがいたりする重要な街。

 しかし、現在その街にNPCは存在していない。

 久遠の光によって占拠されているからだ。


 みゆきは日課のモンスター狩りを終え、その街に帰ってきた。

 NPCがいなくなって随分と経つせいか、街は寂れてボロボロだ。

 だがしかし、暑さ寒さを感じないプレイヤーにとっては、多少街がボロかろうとどうでもいいことであった。


 みゆきが普段から住み着いている家に向かうと、その前には2人の人間がいた。

 1人はみゆきの見知った顔で、プレイヤーネームは〈餅麦小町〉。

 トップクラスの鍛治職人が集まる生産系ギルド『餅麦組』を束ねる女性だ。

 餅麦組は五大ギルドの1つであり、そして【脱出派】だ。

 そのため、久遠とは協力関係にある。


「やあ、みゆき。武器の調子はどうさね」

「特に問題はねえよ。それより、そっちの奴は誰だ?」


 小町の連れている少年はみゆきの知らない人物だった。


「前に話しただろう?()()()()を任せる新入りさ」

「みゆきさん、初めまして!!宜しくお願いします!」


 少年は大きな声で挨拶をすると、腰を折って深々と頭を下げる。


「……で、なんでオレのところに来させたんだ?」

「アンタのファンらしくてね。会いたかったらしい。いいじゃないか。どうせ暇だろう?」

「帰れ」


 小町はみゆきに一歩近づくと、少年に聞こえないように小声で話す。


「……信頼のできる子ではあるけど、一応アンタの目で直接見てもらった方が良いと思ってね」

「……」

「アンタがあの作戦に乗り気じゃないのは分かってるけどさ、それでもやることやってもらわないと困っちまうよ。アンタはアタシらの大将なんだから」

「……ああ、分かってる」


 話が終わると、小町は2人を残して自分の工房へと帰っていった。

 少年は意を決した様にみゆきに話しかける。


「あ、あの! 自分、昔から『夜明けの探索者(ドーンシーカー)』のファンで、ずっと憧れてたんです! 良ければお話を聞かせてもらえませんか!?」

「……ついて来い。ただし、自分の身は自分で守れよ」

「はい!!」



 #



 みゆきと少年が最難関エリアを走ること数十分。

 道中の敵はほとんどみゆきが一撃で倒してしまうので、少年に危険が及ぶことは一切なかった。

 そして、2人が止まった所はこのゲームにおいて非常に有名な場所だった。


「ここって……」

「ラストダンジョン『バベルの塔』。オレ達の最終目標だ」


 天を突くほどの高い塔。

 これが、すべてのプレイヤーの目指す頂。

 少年も直接目にするのは初めてだが、ゲーム内SNS等で何度も見たことのある塔だった。


「……あの、聞いても良いですか?ここで、何があったのか」

「そんなもん、プレイヤーなら誰でも知ってる事だろ?今更何を聞くんだよ」

「それでも、あなたの口から聞きたいんです」


 真摯な目で見つめる少年に、みゆきは応えることにした。


「――30年前、オレ達はこのダンジョンの攻略に挑んだ。当時のオレ達の平均レベルは720、世界中のトッププレイヤーが集まって、このゲームをクリアしちまうつもりだった」


 みゆきは話し始める。

 それは少年にとっては伝説に等しい話だった。


「オレ達はマップの端から端まで見て回って、たとえボスモンスターでもレベル700を超えないことは確認してた。だからラスボスはせいぜいレベル750、高くても800は超えないだろうと思ってた」


 過去を話すみゆきの表情に感情の色は見えない。

 もう何年も前の話だからだろうか。

 それとも隠しているだけなのだろうか。


「このダンジョンはいやらしくてな、第一歩目が転移トラップなんだよ。それも、当時のトッププレイヤーがこぞって見逃すような高度なやつだ。それで、オレ達はバラバラに分断された。転移先にいたのは〈天使〉って名前のモンスターの群れだ。そのレベルは850。群れって言っても、10や20じゃねえ。100匹か、1000匹か、それとも無限湧きかもな」


 天使はほとんど人間と同じような見た目をしていながら、背中に生えた翼で縦横無尽に空を飛ぶ非常に厄介な敵だ。

 遠距離攻撃を持っていないのが唯一の救いだが、そもそもこのゲームで遠距離攻撃は武器を投げるか弓を撃つかくらいしかない。

 ゆえに、空を飛ぶ敵を倒すのはかなり難しく、天使も攻撃のために降下してきた時を狙うしかなかった。


「塔の頂上から入り口まで、格上の猛攻を凌ぎながら迷路みてえなダンジョンを進まなくちゃならねえ。それでもなんとか走り抜けて、入り口まで戻った。けど、そこにいたのはラスボスだった。名前は〈ベヒモス〉。レベルは999。見たことねえくらいにデカい怪物が、入り口の前に陣取ってやがる。あん時は流石のオレも絶望したよ」


 ベヒモス。

 それはこのゲームのラスボス。

 象のような体型の超巨大なモンスターである。


 速度はそう速くないが、特筆すべきはその圧倒的な防御力(DEF)

 当時から随一の攻撃力(STR)を誇っていたみゆきでさえまったくHPを削れないほどであった。

 そして、そんな耐久力のあるベヒモスと戦いながら、同時に無数の天使の相手もしなければならない。

 それが、このラストダンジョン『バベルの塔』の恐ろしさであった。


「……この塔に挑んだ120人の内、生き残ったのはたった5人だけだった」

「5人、ですか?4人ではなくて?」

「ああ5人だ。夜明けの探索者の中でも初期メンバーの5人。その内の1人は行方不明だ」

「行方不明……ハートさんのことですか?けどハートさんは……」

「オレ達も慰霊碑を見るまでは死んだと思ってたよ」

「慰霊碑ですか。確かにここ数十年は詳しく確認してないですね」

「見づれえからな、アレ」


 戦死者の慰霊碑にはすべてのプレイヤーの名前が載っている。

 そして、ハートの名前には斜線が引かれていない。

 フレンド欄からも消えていなければ、SNSも死亡凍結されていない。

 すべてのゲームシステムがハートの生存を肯定している。

 だが、この30年間誰1人としてハートの姿を見た者はいない。


「……オレは、システムの誤作動なんじゃねえかって思ってるけどな」

「誤作動って、そんなことあり得るんですか?」

「さあな。だが、もしまだ生きてるんだったら姿を見せない理由がねえ。だから、もう死んでんだよ。アイツは」

「そう、ですか」


 ならばなぜ、4人ではなく5人と言ったのだろうか。

 本当は心のどこかでハートが生きていると思っているから、生き残りは5人と言ったのではないだろうか?


 少年がそんなことを考えていると、みゆきの雰囲気が少し変わる。

 肉食動物を思い起こさせる、鋭い雰囲気だ。


「――なあお前、元の世界に帰りたいか?」

「……いえ、特にそういう気持ちは無いです。もう100年も昔のことなんて覚えてないですしね」


 突然、みゆきは大斧を取り出し、少年に刃を向ける。


「――っ!」

「なら、なんでお前はこのギルドに入った?返答次第じゃ、ここで切る」


 少しでも力加減を誤れば首が切れる位置に斧がある。

 みゆきの意志一つで簡単に切り伏せられるこの状況。

 しかし、少年はそんな状況にも関わらず冷静だった。


「……自分、昔から何もないんですよね」

「あ?」

「真剣に何かに打ち込んだこともなく、大きな事を成し遂げたわけでもない。自分の本質は、“ただ生きているだけ”の中立派の連中と何も変わらない。どんどんプレイヤーが減っていって、緩やかに滅びに向かっているこの世界を見て、思ったんです。自分も、『なにか』を成し遂げたいって。あなたみたいに、輝きたいんです」


 少年は自分の人生に価値など感じていない。

 ゆえにここで切られても惜しくはない。

 だが、せめて最後に何者かになりたかった。

 彼の憧れた探索者たちのように。


「……1ヶ月後、お前は生きていない。それでも良いのか?」

「死んだように生きるよりは、よっぽどマシです」

「……そうか」


 少年の決意は固い。

 そう感じたみゆきは少年にあの作戦を任せることを決め、斧を下ろした。


「これは、お前にしかできない大事な仕事だ。だがそれは、お前が100年間積み重ねてきたモノがあったからだ。だから、お前は空っぽなんかじゃねえよ」

「……ありがとうございます」


 自分が無意味だと思っていたこの一世紀が、自分の“憧れ”の役に立つのなら本望だった。


「なあ、お前の名前を教えてくれ」

「え?ステータス見れば分かるんじゃ――」

「いいから! お前の口から聞きたいんだよ」


 少年はそんなみゆきの(こだわ)りを少しだけ面白く思いつつも、改めて自己紹介をした。


「自分、〈昇離〉って言います!短い間ですが、宜しくお願いします!!」

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