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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
7/53

ハート④

 犯罪ギルドと夜明けの探索者(ドーンシーカー)との戦闘が始まる。


「くっそ、こいつらヤル気か!?この人数差相手に正気かよ!?」


 他のプレイヤーは中立を保つだろうとたかを括っていた犯罪ギルドのメンバーたちは、狼狽えながらもみゆきたちを迎え撃つ。


「あ、あの人たちは『探索者』の人たちじゃないか!?」

「それにあの女の子……サブリーダーの『小さな暴牛』じゃないか?やっぱちっちゃくて可愛いな」


 野次馬に来ていた周りのプレイヤーたちも、夜明けの探索者(ドーンシーカー)の登場に盛り上がりを見せる。


「小さい小さいうるせえな!オレはでけえ女だ!『牙獣の雄叫び』」

「ミユキ、派手に暴れて良いよ。『急所殺し』」


 自身の全ステータスを一時的に上昇させるみゆきのスキル『牙獣の雄叫び』、味方全体のクリティカル判定を大きく狭めるNのスキル『急所殺し』。

 2種のスキルのサポートを受けたみゆきが、敵の集団のど真ん中に突っ込む。

 未だ戦闘態勢に移りきれていない相手が陣形を整える前にかき乱そうという考えだ。


 Nは敵に会話を聞かれないため『念話』を起動する。

 念話とは、フレンド間で使える言葉を発さずとも相手に思念を伝えることのできる機能である。


『ジュジュ、右側のモヒカンと中央寄りの青い鎧がサポート役だ。優先的に狙ってくれ。エイ、キミは中央寄りのサポート役に1発かましたら、後はジュジュを守ってくれ。ミユキのHP次第で防御陣形に切り替える』

『……』

『了解しました!』


 ジュジュは念話においても喋らないが、代わりに頷くことで返事をする。

 2人はNの指示通りに敵に攻撃していく。


『レイジングアタック』


 ジュジュはみゆきに気を取られている相手のサポート役に、『レイジングアタック』を放ち『怒り』状態を付与する。

『怒り』状態になると、相手は補助スキルが使えなくなり、攻撃しかできなくなってしまう。

 ジュジュはその勢いのまま手槍によってダメージを重ねていく。

 もう1人のサポート役にはエイが肉薄する。


「『叫ぶ』『盾殴り』!」


 相手1人を『怒り』状態にし、モンスターであれば自身に注意を向けさせることのできるスキル『叫ぶ』、ステータス次第では相手を吹っ飛ばすことのできるスキル『盾殴り』。


「くっ! なんで私のスキルだけこんな名前なんですか!?」

「盾系の宿命だ! 諦めろ!」


 みゆきは次々と敵を薙ぎ払っていく。

 犯罪ギルドたちは想定したよりも連携が取れておらず、みゆきの猛攻にまるで対処しきれていない。

 そんな中、何人かが立て直しを図ろうと動き出すが――


「『影縫い』」


 弓で射った相手の動きを数秒止めるNのスキル『影縫い』によって動きを止められてしまう。

 その隙に、ジュジュらに接近されなす術もなくやられていく。


 Nが指示を出し、みゆきが暴れ、他がそれをサポートする。

 これが、夜明けの探索者(ドーンシーカー)の基本形だった。


 そんな一方的とも言える戦場の中、1人飄々(ひょうひょう)と立っているだけの男がいた。

 その男は、先ほどNの言っていた〈不死ナル邪竜王〉という名の男であった。

 男は街中で戦闘することによって自身も犯罪者になることを嫌ってか、戦闘には参加していない。


「ちょっと邪竜王さん!こいつらヤベーっすよ!見てないで助けて下さい!」

「……まあ、契約だしな。しゃあねえか」


 邪竜王はダルそうにしながらも、長剣を抜く。

 辺りをぐるりと見渡し、ある方向で視線を止める。


「なんだ、弱っちいのもいるじゃねえの」


 邪竜王はジュジュに狙いを定めると、一息で距離を詰める。

 ジュジュは他のプレイヤーの対処にかかりきりであり、邪竜王の動きに気付いていない。

 邪竜王は剣を振り上げ、袈裟懸(けさが)けに振るう。


「――っと。ジュジュ、危ねえぞ」


 邪竜王とジュジュの間に、みゆきが割り込んで右腕で防ぐ。

 剣は軽鎧に当たり、大したダメージにはならない。


「これで、1発だな」


 みゆきが大斧ではなく腕で受けたのは、邪竜王を犯罪者にし、こちらから攻撃することを可能にするためだ。


「あーあー、ついに俺もこいつらの仲間入りかよ。大監獄は嫌なんだけどな」


 大監獄、それは犯罪を犯したプレイヤーがガーディアンに捕らえられた時に送られる収容所だ。

 そこでは死ぬことすら禁止され、罪に応じて数年間“何も無い場所”で監禁される。

 監獄に1年以上滞在した者のほとんどは廃人状態となり、やがて自殺したという。


 邪竜王、みゆき、ジュジュがそれぞれ武器を構え、向かい合う。


「おい、探索者の嬢ちゃんよぉ。こっちはあんたらとコトを構える気はねえんだぜ?そっちだって数の多いウチとはやり合いたくねえだろ?」

「……ジュジュ。お前の指南役として、1つ教えといてやる」


 みゆきは邪竜王の言葉を一切無視して、ジュジュに話しかける。

 それは、このゲームで20年以上戦い続けてきた者としての言葉だった。


「このゲームは――クソゲーだ。『虹色の惨劇(トラジティセブン)』」


 みゆきの大斧が七色に染まる。

 七色、と言っても光り輝くような綺麗な物ではなく、虹に泥を混ぜたような鈍い七色だ。


 みゆきは邪竜王に肉薄し、大斧を振り上げる。

 邪竜王はそれを長剣で向かいうとうとするが、斧は剣を()()()()()


「なに!?」


 みゆきは剣を一切意に介さずに、邪竜王に斧を振り下ろす。

 まるで幽霊のように剣をすり抜けた大斧だったが、しかし邪竜王をすり抜けることはなく、そのまま切り裂かれた。


「あ?なんだよ、大したダメージじゃ――ゴフッ」


 斧自体のダメージは大きくない。

 だというのに、邪竜王のHPはどんどん減っていく。


 邪竜王の体に青紫色の斑点が浮かび上がる。

 常にHPの減り続ける『猛毒』状態のサインだ。


「くそったれ。……毒、だけじゃねえ、な」


 視界がゆれ、足下がふらつき、体を支えられなくなる。

 やがて邪竜王は前のめりに倒れ、動けなくなる。

 体の自由が効かなくなる『麻痺』状態の証だ。


 虹色の惨劇(トラジティセブン)

 相手の武器防具を無視して攻撃し、かすりでもしたのならHP以外の5つの能力を弱体化、さらに麻痺と猛毒を確定で付与する。


「なんだ?こんなスキル……知らねえぞ」

固有(ユニーク)スキルだよ。オレにしか使えねえ。決まればそれだけで勝負が決まりかねねえブッ壊れスキルだ」


 みゆきはアイテム欄から麻痺と猛毒を回復させるポーションを取り出すと、邪竜王にかける。


「ほら、ガーディアンが来たぞ。てめえも大監獄送りにはなりたくねえだろ?まだやるか?」

「……クソッ。ずらかるぞ、てめえら!」


 街の奥から、四つの足と2本の刀を持ったガーディアンが現れる。

 夜明けの探索者(ドーンシーカー)をまったく攻略できない内に援軍が到着してしまったので、犯罪ギルドは攻略不可能と見て撤退を開始する。


 完全に街からいなくなると、少しずつ野次馬の波も引いていく。


「ボク的には、ああいうのは厄介のタネになる前に潰しておきたいんだけどね」

「仕方ねえだろ。リーダーの方針だ」


 たとえどんな相手であろうと、プレイヤーの命は奪わない。

 それが夜明けの探索者(ドーンシーカー)の方針であった。


「この後、どうしましょうか?もう訓練って気分でもなくなっちゃいましたね」

『たしかに』

「――大変だったみたいだね、みんな」


 4人のが話していると、唐突に後方から声が聞こえた。

 後ろからヌルッと出てきたのは夜明けの探索者(ドーンシーカー)のギルド長であるハートであった。


「ハート!?ビックリさせんじゃねえよ!」


 突然やってきたハートに、一向は驚く。

 そんな中、比較的驚きが少なかったのはエイだ。


「ココちゃん!久しぶりー!」

「おー、レイちゃん!元気してたー?」


 ハートとエイは幼馴染であり、ゲームを始める前からの親友同士であった。

 ゆえにハートの突破な行動にも慣れており、彼女がどこにでも現れることを知っていた。

 2人の本名はそれぞれ『大槌(おおつち) レイ』と『曽良(そら) (こころ)』と言う。


「なんでキミがここに?今日は桃花や他のメンバーと一緒に素材収集系のクエストをやるはずだっただろ?」

「いやー、なんかPKが出たって話を聞いてさ。それが3人がいる場所だって言うから、心配になって」

「……本音は?」

「あのクエストつまんない!もっと楽しいことしたーい!」


 PKが出たのはほんの十数分前なので、情報が出回ってから来たにしては速すぎる。

 つまりPK云々は一切関係なく、ただサボりに来ただけなのだろう。


『わたしたちの しんぱいは?』

「する必要ないでしょ!みんなが負けるわけないし!」


 ジュジュのツッコミに、ハッキリと答えるハート。

 自分のギルドメンバーの心配はまったくしていないらしい。


「ってわけで、カジノいこー!みんなでパーっと遊ぶぞー!」


 この街にはカジノがあり、ルーレット、ポーカー、スロットなど様々なゲームで遊べる。

 集めたコインはスキルやアイテムなどの景品と交換できる。


「もう、ココちゃんは相変わらず自由人だな〜!けどそういうところが可愛いんだから」

「……親友バカは置いといて、どうするよ?N、ジュジュ」

「良いんじゃないかな。たまにはハメを外しても」

『さんせい』

「よ〜し!そうと決まれば、さっそくレッツゴー!」


 戦闘ばかりでは疲れてしまう。

 ならば、たまにはこんな日があっても良いのだ。

 少女たちは休息を取る。

 明日の戦いに備えて。







 数十分後、怒り心頭といった様子で現れた桃花によって、ハートは泣きながら連れ戻されて行った。

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