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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
6/53

ハート③

 西暦2054年(デスゲーム開始から24年) ピースター


 夜明けの探索者(ドーンシーカー)に加入したジュジュは、今日も強くなるための訓練に費やしていた。

 以前のような無茶な探索は行わず、教育係の指導の下、十分な安全マージンを確保してダンジョンに挑んでいる。


 そんなわけで、今日も彼女はギルドハウスに向かっていた。

 すっかり通い慣れた道を歩みながら今日の探索について考える。

 今日付き添ってくれるのはこのギルドでも最古参の3人だ。

 学べることは多いだろう。


 ハウスの前につくと、内側から何事か怒声が聞こえてきた。

 何かトラブルでもあったのだろうかと扉を開ける。


「――いつまで寝てんだよ。もう出かける時間だぞ!」


 声を荒げていたのは、厳正なる勝負の結果ジュジュの教育係を任されることになったみゆきだ。

 そして、怒られていたのは長身の女性だった。

 女性はソファの上で寝転びながら、眠そうな目を擦っている。


「……なにを言ってるんですか?もう太陽が昇ってきてます。良い子は寝る時間ですよー」


 見事な昼夜逆転生活を送っている彼女は眠りにつこうとするが、そうは問屋が卸さない。

 みゆきは彼女の首根っこを掴んで猫のように持ち上げると、そのまま投げ捨てた。


「プギャッ!!」


 比較的身長の高い女性が小さなみゆきに投げ飛ばされるというのはゲームならではの光景である。


「ほら“あ”。いいから行くぞ“あ”」

「その呼び方やめてって言ってますよね!」


 彼女のプレイヤーネームは〈あ〉、後で名前を変えようとテキトーな名前で遊んでいたら、デスゲーム化の影響で名前の変更ができなくなってしまった哀れな女性である。

 流石に“あ”などと呼ぶのはかわいそうだからとギルドメンバーからはエイ(あ→A→エイ)と呼ばれているが、一部例外もいる。


「おっ、ジュジュ。来てたのか」

『おはよう ございます』


 エイに折檻をしていたみゆきがジュジュの存在に気づく。

 今日ジュジュの探索に付き添ってくれるのはこの2人と、あともう1人いたはず。


『えぬ どこ?』

「この時間なら、Nさんは今日の目玉商品を確認しに行ってると思いますよ。なのでもうすぐ――あ、ちょうど帰ってきましたねー」

「久しぶりだね、ジュジュ。今日はよろしく」

『よろしく です』


 ジュジュが後ろを振り向くと、そこには中性的な見た目の女性がいた。

 彼女のプレイヤーネームは〈seagull N〉、通称Nだ。


「今日の目玉商品なんでした?」

「武器だったよ。大したものではなかったけど」

「やっぱり、NCP製のはもう厳しそうですかねー?」

「そうだね。ボクらも急いで鍛治職人を仲間に引き入れるべきだろう」


 このゲームにおいて武器を入手する手段は主に3つ。

 NPCの運営する店から買うか、ダンジョンの宝箱やボスドロップから入手するか、プレイヤーが作るか、である。

 しかし、NPC製の武具はクオリティが低く、最前線を走るプレイヤーが使うには少々心許なくなり始めている。


『えぬ このスキル みてほしい』

「索敵系のスキルかい?それなら、ハートの方が専門だと思うけど……」

『ハート せつめい へた』

「ああ……。そうだね。ジュジュの索敵能力は充分優れているけど、相手も同等の能力を持っている可能性を忘れがちな傾向があるよね。だから――」


 Nは、ジュジュにスキル構成やパーティー戦での戦い方など、色々と指導してくれる。

 正直、みゆきよりもよほど指南役らしい――


「あ?今なんか言ったか?」

『なにも』


 妙なところで勘が鋭いのがみゆきであった。


 Nの話が終わり、一向はダンジョンに向けて歩き出した。

 Nはローブを羽織り、エイは分厚い鎧を着込み、あとの2人は軽装だ。


「うぅ……太陽が眩しい。早く日の当たらない場所に戻りたい……」

「エイ、バカなこと言ってると置いてくよ」

「こんなところで1人にされたら干からびちゃいますよ……」


 普段から暗いところを好むエイは、屋外が随分と辛そうだ。

 そのせいか、歩く速さも少し遅い。

 ジュジュはそんなエイの手をギュッと握り、優しく引っ張る。


『えい がんばって?』

「ジュジュちゃん……!ありがとう〜!もう、可愛いくて優しいなあ!ジュジュちゃんは!」


 ジュジュとしては、単に早くダンジョンに行きたかっただけなのだが、結果的にエイの歩く速さは早まったので万々歳である。

 と、そんな風に4人が歩いていると――


「キャーーー!!」


 街の入り口の方から、悲鳴が聴こえてきた。


『なに?』

「モンスターの襲撃かな?いや周期的には……」

「考えんのは後だ!早く向かうぞ!」


 みゆきが逸早(いちはや)く飛び出すと、後の3人もそれに続く。

 街の入り口から逃げるように人の波ができており、その波の間を走り抜ける。


「――今すぐ両手を上げて膝を着け!この街は俺たちが占拠する!」


 悲鳴の聴こえた先には、武器を持った数十人のプレイヤーがいた。

 周りにはNPCが倒れており、何体かのNPCのHPが ちょうど0となり消える。


「うわー。アウトローな感じのギルドですか。嫌なタイミングですねー」


 このゲームにおいて、街中で他者にダメージを与える行為は犯罪とみなされる。

 そしてそれは、たとえNPC相手でも例外ではない。


 犯罪者になると、街の施設の一切を利用できなくなる。

 宿屋でHPやスキルのクールタイムを全回復することもできなければ、物資を補給することもできない。

 さらに、犯罪者がしばらく街に留まったり、また犯罪を犯そうとすると『ガーディアン』と呼ばれるモンスターが現れ、犯罪者を捕らえようとする。


 ではなぜ、このギルドは街を襲っているのか。

 それはこの街を占拠することが目的だ。


 その街のガーディアンを全滅させることができれば、街を乗っ取り、そのギルドの所有物にすることができる。

 占拠すると、多くのアイテムを占有したり、街の滞在者から税を取れたりもする。

 それゆえに、このギルドは街を襲っているのだ。


『ガーディアン くる 待つ ますか?』

「……さて、どうしようか。戦うメリットは特にないけれど、かといって彼らに占拠されると……」


 Nはこのまま彼らが街を占拠した時について考える。


 街の占拠は、メリットばかりでもない。

 ガーディアンが倒されると、NPCはいつの間にか消えてしまう。

 廃墟となった街では、NPCによってポーションなどが新たに作られることはなくなり、自給自足しなければならなくなる。

 さらに、ガーディアンがいなくなったことにより、モンスターが街に入り込んでくるようになるのだ。


 なので、犯罪者ではない普通のプレイヤーにとって、街の占拠はデメリットの方が大きいと言えた。


 とはいえ、占拠したプレイヤーが重税を取り始めたり、宿屋を占有したりしないのであれば、他のプレイヤーにとってはさしたる不便はない。

 せいぜい、店が利用できなくなるくらいだが、それは別の街のを利用すれば良い。

 この街は夜明けの探索者(ドーンシーカー)の拠点があるというわけでもないし、わざわざ他のギルドと敵対する必要があるかというと微妙な場面である。


 街を襲っているギルドも、それが分かっているのでプレイヤーは一切狙っていない。

 先ほどの悲鳴もどうやらNPCのものだったらしい。

 プレイヤーたちは不安そうにしていたり、ウザったそうにしていたり、好奇の目で見ていたりと様々だが、止めようとしている者はいない。


 敵は目視で20人と少し。

 もしかしたらまだ増えるかもしれない。

 レベルはこちらが上だが、この人数差でわざわざ手を出す必要もない。


「おい!てめえら何見てやがる!プレイヤーに手出しはしねえから、どっか別の街にでも――」


 と、Nがそんな損得計算をしている時だった。

 みゆきはアイテム欄から身の丈ほどの大斧を取り出すと、一気に駆け出して犯罪ギルドの1人を切り伏せる。

 ちなみに敵が犯罪者であれば、街中で攻撃しても罪には問われない。


『みゆきさん てがはやい です』

「まあ、この街が使えなくなるのは困るからね。加勢しようか」


 Nは一旦思考を止め、みゆきに加勢することに決める。

 みゆきが動いてしまった以上、彼女を止めるよりもサポートをした方が圧倒的に話が早い。

 他2人もそれに追従する。


「みゆき、そっちの〈不死ナル邪龍王〉って名前の男だけは犯罪者じゃないみたいだ。1人だけパーティから外れてペナルティを免れてるらしい。攻撃しないようにね」

「ああ、わかった!」


 Nは弓を(つが)え、エイは大盾とメイスを持ち、ジュジュは手槍を構える。

 街中での戦闘が始まる。

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