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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第三章 シン臓なき人形に、1輪の花を添えて
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N⑭

今日も今日とて11時に投稿する予定だったんよ

けどなんか気がついたら0時だったんよ

もしかしたら俺だけ1日が23時間なのかもしれない

 塔は、未だ謎の多い未知の場所だ。

 初めて訪れた際に軽い探索は済ませたが、それでも全ての部屋をじっくり見て回れたわけではない。

 内部には大量のコールドスリープポッドが置いてあるだけでなく、保存食などの物資や、使い道の分からない装置なども多数存在している。

 ゆえに、それらの調査•解明のために、数十人のプレイが桃花の指示を受けて中に入っていた。


 Nは塔にたどり着くと、周辺を見渡す。

 建物の補修作業をしている者はいるが、特に騒ぎにはなっていないようだった。


 塔の入り口には、門番が立っている。

 塔には、桃花の許可を得た者以外立ち入り禁止なのだ。

 門番は、Nの姿を見ると大きく手を振る。


「あっ!Nさん!」


 Nは塔の入り口に近づくと、門番に話しかける。


「中の様子は?」

「かなり騒ぎになってます。壁が厚いので、外に音は漏れてませんが……」

「誰か出入りはしたのかい?」

「いいえ。ここ30分は誰も通ってません。それ以前の記録でしたら、ここに」


 そう言って門番は、懐から記録用紙を取り出す。

 もちろんこの世界のものではなく、ゲームの中のアイテムの一種である。


「ありがとう。ボクは中の様子を見てくる。ボクが帰ってくるまで、ここは引き続き封鎖だ」

「はっ!」


 塔の出入口はこの一ヶ所だけだ。

 門番が見張っている限り、誰も出入りできない。


 敬礼をする門番の横を通って、Nはその入り口の目の前に立つ。

 入り口といっても、ただ白い壁の中にポツンとタッチパネルのような物が埋め込まれてるだけだ。

 Nがそれに手の平で触れると、ゆっくりと壁が開いていく。


 いったいこのパネルがなにを読み取って判別しているのか、Nにはさっぱり分からなかった。

 手以外の部位でも反応するから、指紋ではないのだろうが。


 扉が開くと、ザワザワとした喧騒が上の方から聞こえてくる。

 相変わらず無機質な白い壁に、不気味に整列したコールドスリープポッド群。

 そんな箱の群れの中に、男が1人立っていた。


「Nさん!」


 彼はNに連絡してきたプレイヤーだった。

 男はNに駆け寄ってくる。


「死体が見つかったっていうのは本当かい?場所は?」

「はい、本当です。場所は第68層です。案内します」


 そう言うと、男は塔の奥に向かって歩き出した。

 Nは男の後ろについていきながら、質問を続ける。


「塔のプレイヤーは今どうしてるんだい?」

「今はほとんどのプレイヤーが3層の休憩室っぽいところにいます。何人か抜け出そうとしましたが、どうにか止めました。ただ、緘口令に関しては……」

「まあ、それは仕方がないさ。チャットのやり取りなんて、止めようがない。情報が定かでない内に広がるのは避けたかったけど、仕方がない」


 死体が見つかったと言っても、その犯人、手口、目的、そしてその人物がどうなったのかも、まったく分かっていない。

 そんな中で無闇に情報が拡散されれば、デタラメな噂ばかりが流れて大きな混乱が起こりかねない。

 だからここで止めておきたかったのだが、指先1つで情報が拡散できるプレイヤーを止める手段などなかった。


 男は、ある壁の前で立ち止まると、その横に設置されている機械を弄り出した。


「何してるんだい?」

「今朝分かったことなんですけど、これってエレベーターらしいんですよね」


 エレベーターとは、なんとも便利な。

 いや、この高さの建物に、ない方がおかしな話であるのだが。

 この白い塔をラストダンジョンと同一のものだと認識していたNは、エレベーターがあるなど想像すらしていなかった。


 壁にしか見えなかった空間に亀裂が入り、中の空間が露わになる。

 2人はそこに入り、男はまた別の機械を操作する。

 すると扉が閉じ、エレベーターは68層へと向かって動き出す。

 動き出すなどと言っても、Nには出発時の過重力や停止時の浮遊感などがまるで感じられず、再び扉が開いたことで上階に着いたことを認識できただけだったが。


 男の案内で2度ほど扉を潜ると、ようやくそこに着いた。

 数多の箱が居並ぶ中で、数人のプレイヤーがある箱を取り囲むように立っている。


「あれ、Nさん……?」

「Nさんだ……!」


 彼らはNに気づくと、小さな声で会話している。

 いずれも消沈した顔をしており、死体を見てショックを受けているようだった。


 Nは彼らの中心にある箱に近づき、中を覗き込む。

 強烈な血の匂いがした。


「これは……酷いな」


 Nは葬式に参加したことが1度しかない。

 そしてその1度目の葬式には死体がなかったため、本物の死体を見るのはこれが初めてだ。


 その死体は、無惨にも頭と胴体が離ればなれになっており、首を切断したというよりも弾け飛んだかのような有様だった。

 箱の上部のガラスには、大きな穴が空いており、恐らく犯人はガラスごとブチ抜いて首を粉砕したのだろう。


 彼女は何度も人の死に触れてきた。

 しかしそれはあくまでもゲームオーバーであり、死体が伴う物ではなかった。

 飛び立った血液も、(あらわ)になった骨や血管も、あまり見ていたいものではなかった。


 Nは死体に顔を(しか)めながらも、その手で触れる。

 ねっとりとした血の感触と、生気を感じられない嫌な生暖かさがあった。


「……まだ温かいね」


 コールドスリープ装置なんて名前の割に、箱の中身は特に冷たくなったりはしない。

 それは、この死体に限らず全ての体で共通である。

 しかし、死体が冷たくなっていないということは、まだ死んでからさして時間が経っていないということだ。

 筋肉も硬くなっていないので、死後数時間といったところだろうか。


「――誰が、だれがレナを殺したんですか!?Nさん、教えてください!」


 Nが昔読んだ推理小説の知識を引っ張り出していると、周囲のプレイヤーの1人が声を上げた。

 彼女はアバターの体でなければ泣いていただろう表情をしていた。


「キミは?」

「第一発見者です。この人とは同級生みたいなんです」


 泣きそうな彼女に代わって、別の者が答える。

 どうやらゲーム以前からの知り合いらしい。

 彼女は友人の体を気にかけていて、調査の合間によくここを訪れていたようだ。

 それで、今日もここに訪れたら、無惨な死体となっているところを発見したのだとか。


 悲しみに暮れている彼女にあれこれと質問するのは躊躇われるが、しかし第一発見者に話を聞かないわけにもいかない。

 それに、Nには1つ、気になっていることがあった。


「傷心のところ済まないが、1つ聞かせてほしい。フレンド欄は確認したかい?」

「……どうして、そんなことを……?」

「頼む。この人の名前を確認してほしい」


 その女性は、どうしてNがそんなことを聞くのか分からないようだった。

 言われて、フレンド欄を確認する。

 ゲームオーバーになったプレイヤーは、当然フレンド欄から名前を削除される。

 ゆえに、そのプレイヤーの名前は、見つからないはずだった。


「――え?」


 彼女は、友人の死体を見た。

 それゆえに、その友人は死んだものと思っていた。

 しかしNは、別の可能性を気にしていた。

 プレイヤーは今、肉体を2つ持っている。


「……ありました。い、生きてます!どうして――?」


 Nがが睨んだ通り、フレンド欄にはそのプレイヤーの名前があった。


「Nさん、知ってたんですか!?」

「そんなわけがないさ。ただの直感だよ」


 ただ、予想していたことではあった。

 そもそもの話、プレイヤーは100年もの間このコールドスリープポッドに閉じ込められている。

 そして、コールドスリープポッドは数十万台もあるのだ。

 外の世界が滅ぶほどの戦火の中、100年間も稼働し続けて、ただ1つの不良品もトラブルもないとは、考えづらい。


 だというのに、HPがゼロになっていないプレイヤーが突然死んでしまったなどという話は聞いたこともない。

 これはつまり、元の身体が生命を停止しようとも、アバターには関係がないということなのではないだろうか。


 Nの予測には、もう一つの根拠があった。

 資料に書いてあった、"転生者"の存在だ。


 彼らは、おのれの肉体を捨てて、魂だけでこの世界に来たらしい。

 Nは魂なんて信じてはいなかったが、しかし事実としてプレイヤーは本来の肉体を離れ、別の身体で100年もの時を過ごした。

 ならばもはや『本来の肉体』なんてものには大した意味はないのかもしれなかった。


 なにはともあれ、そんなNの予測は当たった。

 これから半獣と戦うにあたって、眠ったままの弱点を置いておくのもどうかと思っていたので、この結果はNとしてはありがたかった。


 一応、フレンド欄の表記が間違っている可能性もあるので、油断はできない。

 フレンド欄から名前が消えたにも関わらず生きていたプレイヤーは2人もいることだし。


「この塔にいる者全員を3層の休憩室に集めてくれ。全員漏れなく、だ。ボクもあとで向かう」

「はいっ!」


 Nがそう言うと、周囲のプレイヤーたちはいそいそとエレベーターへと向かっていった。

 あらかた死体の検分を終えたNは、ポツリと呟く。


「試してみるか……」


 Nは、何も入っていない空の箱を見つけると、それに向けて弓を構えた。

 放たれた矢は勢いよく飛んでいき、箱上部のガラスに突き刺さって止まった。

 巨木を貫通させる威力を誇るNの矢を止めるとは、どうやら単なるガラスではないらしかった。


「『烈弓•刃』」


 スキルを使って再び矢を放つ。

 矢はガラスを貫通して箱の下部に深々と刺さった。


「硬いな……」


 それなりにレベルが高くなければ、一撃での破壊は困難だろう。

 あるいは、レベルが低くとも、時間をかければ可能かもしれないが……。

 改めて死体を見るが、一撃で貫いたような痕跡だ。


 塔の内部にいるのは、外で探索のできない低レベルのプレイヤーばかりだ。

 しかし、塔は未だ解明されていないことも多い。

 未知の危険を警戒して、高レベルのプレイヤーを数人同行させるのが決まりとなっていた。


 であれば、犯人はその中だろうか?

 だとしても、一体動機は?

 こんなことをして何になる?


 分からないことだらけだ。

 Nは一旦自身の思考を後回しにして、エレベーターに向かう。

 操作方法はさっき見ていたので、問題なく動いた。


 Nが3層にたどり着くと、遠くから喧騒が聞こえてきた。

 しかしそれは先ほどまでの悲壮なものと違い、驚愕が多分に含まれたものだ。

 おそらく、かの死体の持ち主が生きていることが共有されたのだろう。


 Nは騒がしい部屋の中へと入る。

 そこでは、数十人のプレイヤーが集まっていた。


 そして、その内の1人が、Nにとって少しばかり予想外のプレイヤーだった。


「あら、Nさん。お疲れ様。こんなことになって、大変ね」


 そこにいたのはイリカだった。

 彼女は他の人物と違って、随分と落ち着き払っていた。


 どうして彼女がここにいるのか。

 いや、塔のプレイヤーの護衛は防衛部隊の仕事だ。

 高レベルプレイヤーの彼女がこの仕事をしているのは、何もおかしなことではない。


 だが、つい先日も騒ぎを起こしていた彼女がここにいるのは、偶然の一致なのだろうか。

 どうにもNは、嫌な予感が拭えなかった。


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