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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第三章 シン臓なき人形に、1輪の花を添えて
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ジュジュ①

本日から3日に一回更新となります。

よろしくお願いします。

 ジュジュが去ってからしばらくの後。

 ハート、エイ、N、リリスの4人は、避難壕を探索していた。


 Nが見た数十人の半獣たちがまだ残っているのかもしれないので、一行はかなり警戒しながら進んでいた。

 しかし、その警戒に反して、避難壕の中には誰も残っていなかった。

 まるで初めから誰もいなかったかのようだ。


 なにか情報があればと探索しているが、あまり芳しくない。

 機械類は念入りに破壊され、書類もボロボロでまともに読める状態ではない。

 いくつか残っていた機械も、未知の技術の塊で起動方法すら分からない。

 やはりここは敵の重要拠点などではないようだった。


 探索の途中に主に話題になったのはジュジュのことだった。


「まったく、ジュジュはなにを考えているんだろうね」

「一体どうしたんでしょうか。私たちになにも言わずに行っちゃうなんて」


 敵であるはずの半獣をかばい、そのままどこかへと転移していった。

 死んだはずの彼女が生きており、喋らないはずの彼女が喋った。

 一体、なにがどうなっているのか。


「まあ、とりあえずそこはなんでも良いんじゃない?生きてたんだからさ」


 なにはともあれ、仲間が生きていたのだからそれでいい。

 そう言ったハートに、エイは笑って頷く。


「……そうだね。うん。生きてて良かった」


 なにがあったにせよ、ジュジュが生きていたのだ。

 ひとまず、それを喜んでおくべきだろう。


「あの……先ほどの方とは皆さんお知り合いなのですか?」

「そうさ。昔のパーティメンバーで……死んだはずだったんだけどね」

「そんな方が敵となってしまったのですね」

「……まだ敵と決まったわけじゃない」


 この中で唯一ジュジュと親交のないリリスには、3人の気持ちは分からないようだった。

 明らかな敵対行動をとったジュジュを未だに仲間とみなしている3人に疑問を呈している。


「ハートさんにも攻撃したのですよ?」

「……この場にいる誰よりも強かったバルヘルと、あんなにたくさんいた半獣。そいつらがなぜかそろっていなくなっていて、半獣の女が一人だけが残された。そんな女をジュジュはかばった。なにか事情がありそうじゃないか?」

「事情があるなら、ここで説明すればよかったではないですか」

「それは、そうだが」

「仮に事情があったとしても、彼女は半獣をかばいました。私にとっては“敵”とみなすには十分です」


 リリスは静かに、しかし確かな憎しみを秘めた目をしていた。

 半獣によって世界が滅ぼされる様をその目で見ていたリリスには、半獣に味方するジュジュが許せないのだろう。

 彼女の気持ちを思うと、これ以上ジュジュをかばう言葉は紡げなかった。


「……探索も終わったし、そろそろ帰ろうか」

「ええ、そうですね」


 避難壕の大部分を見終えた一行は、塔へと帰還することにした。

 生身のリリスに気を遣いながら地上に出ると、外はもうすっかり暗くなっていた。


「こんなに時間がかかるなら、手分けすればよかったですね」

「仕方がないさ。いつまた敵が現れるかもわからないんだから」


 夜中の行軍はリリスの安全面・健康面において不安が残る。

 ゆえに今日は塔へと向かわず、休むことになった。

 避難壕の近くは崩落の危険があるため、少しだけ歩く。


「きえりんは?」

「さっき連絡があった。目が覚めたらすぐにアバターを呼び出して、身体の方は塔に送ったらしい。そこで元医者の団員に診てもらったが、命に別状はないそうだ」

「そっか。ならいいけど」


 ケガで離脱した樹永だったが、どうやら大事はないようだった。

 転落した場所はそれなりに高かったはずだが、幸運にも骨折程度で済んだようだ。


 ふと、エイはNがショルダーバックをかけていることに気が付いた。

 さっきまではしていなかったはずだが。


「Nさん。それ、なに入ってるんですか?」

「避難壕にあった書類さ。まだ比較的読めそうなものを選んで持ってきた」


 Nがショルダーバックを開けてその中身を見せてくれる。

 改めて書類を見てみても、書類のほとんどが食い荒らしたように欠損していて、残った部分は血や煤、炭や埃にまみれている。

 エイには文字が書いてあるのかどうかすら分からなかった。


「……それ、本当に読めるんですか?」

「断片から推測していくしかないね。これだけあるんだ。いくらかは読めるだろう」

「なんだか考古学者みたいですね」

「どちらかというと歴史学じゃないかな」


 Nとしても、これが本当に読めるのかは分からない。

 読めたとしても、それが今の自分たちに必要な情報かどうかも分からない。

 しかし、分からないことが多すぎる現状では、こんな不確かなものに頼るしかなかった。


「これが、現状の突破口になれば良いのだけれどね」


 侵略者たちの手の平でいいように踊らされているこの現状。

 それを打開する一助にでもなればと、Nはそう願わずにはいられなかった。



 #



 天を突くようにそびえたつ、14本の巨大な塔。

 しかし実のところ、塔は14本ではなく、15本目が存在していた。

 それが、大地を貫く秘密の塔『E15』。

 避難壕があったよりもさらに深くまで伸びる地下空間。

 かつては守護者の最重要拠点であったその塔は、今や侵略者どもの住みかとなっている。


 そんな塔の一室に、1人の大男がたたずんでいた。

 見上げるほどの巨体と、鎧のような筋肉、そしてゴリラのような両腕を持った彼はバルヘル。

 侵略者の1人である。


 彼の目の前にある扉が、やや乱雑に開け放たれる。

 外から、ある人物が入ってきた。


「ちーっす、バルヘル隊長」


 その人物は、うっすらと笑みを浮かべながら、軽く手を挙げて挨拶をする。

 バルヘルは闖入者をその眦にとらえると、思案するように目を細めた。

 その容姿となれなれしい口調にはどこか覚えがあったのだが、いまいち思い出しきれない。

 数瞬の間が空き、バルヘルはその人物について思い出した。


「貴様は……先行組の1人か。確か名は……なんだったか」

「キシュナですよ。まあ、100年ぶりじゃ忘れてるのもしゃーなしですが」

「……しかし、よく生きていたな。てっきり死んだものと思っていたが……」


 キシュナは、バルヘルの同僚に当たる人物だった。

 バルヘル率いる本体よりも先に地球に着き、ある方法で地球人に紛れ込んだ先行組の1人だった。

 しかし、長らく連絡がなかったため、すでに死んだものと思っていたが。


「なるほど。つまり、貴様もまた『プレイヤー』ということか」

「御名答。守護者の調査のためあのゲームに目を付けたはいいものの、閉じ込められてしまいましてね」


 キシュナは地球人として『ロストアドベンチャー』に参加していた。

 そして、数多くのプレイヤーとともに、あのデスゲームに巻き込まれていたのだ。


「キシュナよ。長きにわたる潜入任務ご苦労。労ってやりたいところだが、生憎と厄介な状況が続いていてな」

「ガルドから聞いてます。こっちとしても、驚きですよ。まさかこんな状況になってるとは」


 キシュナは先にE11の塔を訪れており、そこでガルドという侵略者の仲間から話を聞いていた。


「それで、貴様はこれからどうするつもりだ?」

「もちろん協力しますよ。これまで通り、スパイとしてね」

「……そうか。では、まずはあちらの世界の様子を聞かせてもらおう。概要はカメラで確認しているが、外からでは分からないことも多くてな」

「ふむふむ、そうですね。ではまず――」


 キシュナはバルヘルに、様々なことを話した。

 ゲームの中での情勢、戦力、危険人物、勢力図、自身の立ち位置、システムに関することなど。

 それを聞いたバルヘルは、興味深そうに頷いた。


「――なるほど。『秩序派』と『脱出派』か。何か争っているのは知っていたが、そこまで明確に派閥ができていたとは」


 特にバルヘルの関心を引いたのはプレイヤー同士の対立関係だ。

 戦力的に、プレイヤーを全滅させるのはそう難しくないが、そうはできない事情もある。

 ゆえに、内部争いで疲弊してくれるのはかなり都合がよかった。

 特にキシュナの立場を使えば、プレイヤー間に亀裂を入れるのはそう難しくない。


「キシュナよ。貴様に新たなる任を与える。『秩序派』と『脱出派』の争いを再び活性化させろ。そして、その混乱に乗じて【鍵】をここに連れてこい」

「了解ですよ、バルヘル隊長」

「……それと1つ、貴様に伝えておくことがある。ジュジュのことだ」


 ジュジュ。

 その単語が出たとたんに、キシュナの眉間にしわが寄る。

 なにせキシュナにとって、ジュジュはすでに死んだはずの存在だからだ。


「……ガルドも言ってましたけど、それ、なにか悪い冗談なんじゃないんですか?ジュジュは死んだはずじゃ――」


 その時、部屋の扉が再び開いた。

 2人はとっさに扉のほうへと身構えた。

 その侵入者は、音もなく、気配もなく、質量のない幽霊のようであった。


「――やっほー、バル君。わたしの陰口?」


 間の抜けた声の侵入者は、ジュジュであった。

 ジュジュはまるで友達に向けるような笑顔をバルヘルに向けている。

 キシュナは突然のことに理解が及んでいないようで、口を半開きにして目を見開いている。

 バルヘルはもう慣れたもののようで、呆れたように肩をすくめる。


「……貴様、なぜここに来た?」

「ちょっとやること終わって暇だったからー。まあ、すぐに帰るよ」


 多少の怒りと、多分な呆れをにじませるバルヘルに、ジュジュは悪びれもなく笑顔だ。


「ああ、あとそれと……キシュナちゃん、だっけ?あなたに会いたかったんだ」


 名前を出されてようやく我に返ったキシュナが、怒りをむき出しにして吠える。


「……てめえ、一体どういうことだ!?なんで向こうじゃ――」

「いやー、ごめんね。騙しててさ。いくらキシュナちゃんといえど、正体を明かすわけにはいかなかったんだよね」


 ごめんねー、と雑に謝るジュジュに、キシュナはさらに怒りを高ぶらせる。

 バルヘルはそんなキシュナを手で制し、改めて問いただした。


「貴様はそんなくだらない話をするためにここまで来たのか?だとしたらもう叩き出してしまうが、良いか?」

「もう、そんなに怒らないでよ。用件はまだあるんだからさ」


 まるで舞台役者のように、ジュジュは両の手を大きく広げる。

 そして、夜明けのような眩い笑顔でこう言うのだ。


「――あなたたちの目的を、わたしが叶えてあげるって言ったら、どうする?」

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