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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第二章 1羽の鳥となって、このソラの向こうへ
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このソラの向こうへ

 ベヒモスの触手が、一行を襲う。

 それを、エイは完全に受け止めていた。

 30年前と違い、一切危なげなく完全に受けきっている。

 その間に、ハートは駆けていた。


「あははっ、始めるよ!『荒風断ち』」


 広範囲スキルで後方のドローンを一掃する。

 残ったドローンは、エイとハートによって一瞬で片付けられていった。

 8体いたドローンは瞬きの間に0となっていた。


「ハート、エイ、準備はいいかい?」

「もちろん!」

「はい、やっちゃってください!」


 Nは新たなドローンが出てくる前に、行動を開始する。

 弓を上に向けると、天井に向かって矢を放った。


「『飛翔閃刃』」


 矢は重力に負けずにぐんぐん進んでいき、遂には天井にたどり着く。

 その瞬間破裂し、天井一面に爆風が広がる。

 その爆発は、天井に備え付けられていたライトを破壊した。


 辺りは光を失い、暗闇に包まれる。

 壁から新たなドローンが出現するが、その動きはどこか鈍い。

 ドローンはフワフワと不安定に飛んでいたが、やがて動きが切り替わり、エイやハートに向かって一直線に飛び始めた。

 手動操縦から自動操縦に切り替わったのだろう。


 さらに、壁の穴から新たなドローンが大量に湧いて出てくる。

 質が落ちた分、数で対抗しようというのだろう。


「『叫ぶ』!」


 エイのスキルによってドローンは『怒り』状態を付与される。

 ドローン相手でもスキルが効くことはすでに実証済みだ。

 ドローンたちは一直線にエイへと向かっていく。


 エイは暗闇の中ではなにも見えず、ドローンの銃撃も無防備に受けるしかない。

 盾で受けられない分ダメージは大きいが、数分程度なら耐えられる。

 ベヒモスの攻撃だけが心配だが、一発なら死にはしないだろう。

 エイはダメージを気にせず、あらかじめ指示されていた位置へと動き出した。


 そこから少し離れた位置で、ハートはベヒモスと対峙していた。


「『リサイクル』そして『竜巻旋風』!」


『リサイクル』によって『竜巻旋風』を使用可能にし、再びベヒモスの上を取る。

 目指すは半獣の女のいる場所。

 しかし、ベヒモスに乗った程度ではまだ距離が足りなかった。


 さらに離れた場所で、Nは弓を構えていた。

 風にすら乗らないような小声で、呟く。


「――ハート、今こそ見せようじゃないか。この30年で強くなったのは、キミだけじゃないということを」


 すでにハートは所定の位置につき、エイはドローンの誘導を終えている。

 あとは、Nが道を作るだけだ。


 弦を強く引き絞り、矢を放つ。

 目指すは、ドローンの一団だ。


「『鳥籠』」


 矢は曲射ぎみに進み、頂点で分かたれる。

 その軌道は、鳥籠のようにドローンを囲みこんだ。


 瞬間、ドローンたちの動きが止まる。

 その羽は回らず、姿勢は変わらず、銃口は動かない。

 機械音は消え去り、世界はシンと静まり返る。

 だというのに、ドローンが落ちることはない。

 重力に逆らって、その場にとどまり続けていた。


 固有(ユニーク)スキル『鳥籠』。

 その矢に囲まれた敵を一定時間静止させるスキル。

 まるで時が止まったように、ドローンはその場に縫い付けられていた。


「まだまだ『烈弓・破』」


 さらにNは、追加で矢を放つ。

 その矢は爆発を起こし、縫い留められた鉄くずを上方に吹き飛ばした。


「――よし、いける」


 そのドローンは道だった。

 ハートが登るための道。

 高く飛び立つための滑走路。


 ハートはベヒモスの背を蹴りつけ、空へと飛び出す。

 重力に引きずり降ろされる前に、ドローンを足場にしてさらに上へと進む。

 まるで空を飛ぶように、自由自在に宙を駆けていく。


 エイとNが紡いだ道は、ハートに翼を与えた。

 その翼はハートを、敵の下へと導く。

 最後のドローンを蹴りだし、ガラス窓を突き破る。

 そこでようやく、敵はハートの存在に気づいたらしい。


「――えっ?きゃあああ!」


 慌てて腰から銃のようなものを取り出そうとするが、しかしあまりにも遅い。

 ハートは一瞬のうちにそのウサギ耳の女の後ろに回り、右手を取った。

 右手を後ろに回させつつ、うつ伏せに押し倒す。


 どうやらこの女は大して強くないようだった。

 だからこそ、直接的には戦闘に参加していなかったのだろう。

 ハートは両ひざで体を固定し、その首に短剣を突き付けた。


「あっははー。初めまして、おねーさん。指一本でも動かしたら、頭と体がバイバイしちゃうから、そのつもりでね」

「あ、あんたたち、私を誰だと思っているのよ!私は――」

「聞いてなかったのかな?口も、勝手に動かしちゃダメなんだよ。はははっ」


 短剣を押し込み、薄皮一枚だけ首が切れる。

 その女は青い顔をして口を閉ざした。

 ハートはそれを確認して少しだけ短剣を首から離した。


「まず、あのベヒモスとドローンは止められる?」


 女はゆっくりと頷く。


「じゃあ、今すぐ止めて」


 女は空いた左手をゆっくりと動かし、こめかみに人差し指をあてる。

 その女がなにをしているのかは分からなかったが、下の方でかすかにドローンが落ちる音が聞こえた。

 ハートは女を無理やり立たせると、窓枠まで移動した。

 下を見ると、ベヒモスもドローンもその動きを止めていた。

 これで、ミッションはクリアだ。

 あとは、この女から情報を聞き出すだけである。


「……情報って、なにを聞けば良いのかな。あははっ、わかんないや。まあ、しぐるんに聞けばいっか」


 なにか光を出すアイテムでも使ったのだろうか。

 エイの周りにはいつの間にか光源があった。


 ハートは躊躇なく女を突き落とし、直後に自分も落下する。

 上空100メートルに届こうかという高さからの自由落下に、女が叫び声をあげた。


「いやああああああ!」

「あ、レイちゃん!受け止めてー」

「うわあっ!あっと、『ヒツジさんのモコモコクッション』!」


 突然上から落ちてきたハートに、エイは慌ててスキルを使用する。

 エイは上空に向かって盾を構え、2人はそこに着地する。

 盾はクッションのようにポンと跳ね、着地の衝撃を吸収した。

 ハートは盾の上でぐったりとしている女をかつぎ、盾から降りる。


「ココちゃん!降りてくるなら、もっと早くに言ってよ!」

「あははは!いやー、ありがとねレイちゃん」


 ぷりぷりと怒るエイに、ハートは軽く笑って返す。

 そこに、Nとリリスがやってきた。


「皆さん!戦いはもう終わったのですか!?」


 どうやらリリスはベヒモスが止まったのを見て近づいてきたらしい。

 Nは念のためリリスを迎えに行っていたようだ。

 そんな2人を見て、座り込んだ女は顔をゆがめる。


「あ、あんたは、リリス!?なんであんたが――ひぅ!」


 立ち上がってリリスに向かっていこうとしたので、ハートが短剣を突き付けて止める。

 女は、大人しく座っておくことにしたようだ。

 そんな女に、Nが近づいていく。


「さて、キミには色々と聞きたいことが――」


 始めに気づいたのはハートだった。

 否、ハートしか気づけなかった。

 その部屋にもう1人、敵がいることに。


 いつの間にいたのか、あるいは初めからいたのか。

 いずれにせよ、その人物は武器を構えてNの後ろからやってきた。


 ハートは飛び出し、ソレに向けて短剣をふるう。

 金属が打ち合う音が響き、ハートの短剣が止められる。


「あっはは。あなた、どこの誰なのかな?」

「はっ。どうでもいいでしょ、そんなこと」


 小馬鹿にするようなその笑い声は、老若男女のちょうど中間のような声をしていた。

 その人物は影のように黒いマントを着込み、目深にフードをかぶっていた。

 短めの槍を剣のように扱い、ハートの攻撃を押しとどめていた。


「あなたは、この前の……!」


 そう、乱入してきたのはかつてエイにハートの位置を教えた者であった。

 その人物は(STR)が強く、ハートとのつば競り合いも長くは続かない。

 短剣をはじくと、ハートにも匹敵するほどの速さで駆ける。

 そのまま半獣の女を抱き上げた。


「『烈弓・刃』」


 状況を素早く把握したNは、その人物が半獣の女を抱きかかえる一瞬のスキをついて矢を放つ。

 一撃で殺せるとは思っていない。

 狙いはフードだ。


「そのフードじゃ、前が見づらいだろう?取ってあげるよ」


 仮にこのまま逃げられるのだとしても、せめて正体くらいはつかんでおきたい。

 わざわざ顔を隠しているのだから、なにか隠す理由があるのだろう。


 Nのそんな予想は当たっていた。

 なにせフードの下から出てきた顔は、ハートたちのよく知った顔だったのだから。


 だが、どうして彼女がここにいるのか。

 彼女がここにいるはずはない。

 なにせ彼女は、もうすでに死んだはずなのだから。


 そこにいたのは、1人の少女。

 少女はただ、無表情でたたずんでいた。


「――ジュジュ、ちゃん?」


 少女の名は〈ジュジュ〉。

 かつての夜明けの探索者(ドーン・シーカー)の新入りであり、怒涛の勢いで成長してトッププレイヤーへと上り詰めた少女。

 そして、すでにゲームオーバーになったプレイヤーだった。


 どうしてジュジュが半獣を助けようとするのか。

 呆然とする一行を無視して、女とジュジュが話をしている。


「おっそいのよ、ジュジュ!あんたがどっか行ってるせいで、散々な目にあったじゃない!」

「ごめんごめん。ちょっと用があったから」


 声を発さないはずの彼女が、ウサギ頭の女と親しげに言葉を交わしている。

 それを見てハートは、面白くなさそうに笑う。


「あははっ。知らなかった。ジュジュちゃんって、そんな声なんだね」

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

「あっはは。ほんっと、バカみたい」


 未だに衝撃を飲み込めずにいるエイが、納得がいかないように声を漏らす。


「ジュジュちゃん、どうして……!」

「…………今は、間が悪いみたい。ここは引いておくよ」


 ジュジュは懐から2つの転移結晶を取り出すと、片方を女に手渡した。

 思わずNは、それを止めようと手を伸ばす。


「ジュジュ、待つんだ!話を――」

「大丈夫。また、会えるから。『転移』」


 影のように、2人の姿が掻き消える。

 ろくな話もできずに、ジュジュは去ってしまった。

 あとに残されたのは、ただ茫然と立ちすくむ一行と、巨大な銅像のようにたたずむベヒモスだけだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

これにて第二章は完結になります。


次回更新に関してなのですが、しばらく時間が取れそうにないので未定とさせていただきます。

早くて10月、遅くとも12月始まるまでには、第三章更新開始いたしますので、少々お待ちください。


少しだけ第三章の予告をしますと、起承転結の転に当たる話です。

様々な疑念が渦巻きつつも、これまでの謎が徐々に明かされていく予定です。

それでは、第三章「シン臓なき人形に、1輪の花を添えて」でお会いしましょう。

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