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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第二章 1羽の鳥となって、このソラの向こうへ
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N⑩

 Nの啖呵(たんか)を聞いたハートは、どことなく嬉しそうに微笑んでいた。


「……ふふっ。ありがと、しぐるん。後ろは任せたよ」

「ああ、任された!」


 Nが戦闘に加わり、戦況は変わる。


 ハートをつけ狙うドローンが、Nによって正確に撃ち落とされていった。

 ならばとNに照準を合わせた個体は、ハートに叩き切られていく。

 ドローンは倒されるたびに出現するので数は減らない。

 しかし、その攻撃がハートの動きを遮ることはなくなり、ベヒモスへの攻撃頻度は格段に上がった。


『さて、ハート。作戦会議といこうか』

『……あれ、なんで念話?』

『上の半獣が聞いているかもしれないだろ?』

『そっか。確かにそうだね』


 順調に思えるベヒモスの攻略だが、1つ大きな問題があった。

 それはHPだ。


 ベヒモスのHPは、まったく減っていなかった。

 いや、正確には減っているのだろうが、Nの目にはその違いが見えない。

 具体的な数値が分かれば良かったのだが、レベル差があるせいかNにはベヒモスの詳しいステータスは分からない。

 なので、知っている人に聞く。


『率直に聞くけれど、仮に1人であれを相手するとして、倒すまでにどれくらいの時間がかかるんだい?』

『うーん。今の私なら、半年?』


 半年。

 Nが来るまで、ハートはおよそ30分ほど戦っていただろうが、その間に千分の一も削れていないということだろうか。


『そうか。なら倒すのは諦めたほうが良いね』

『え、どうして?半年で倒せるのに?』

『……ボクたちが半年も留守にしている間に、敵が他のプレイヤーを全滅させているかもしれないだろう?』

『あ、そっか』


 当然のように半年間戦い続ける気のハートに、Nは震えた。

 もちろん、本気でハートが戦い続けるというのなら付き合うつもりではあるが、実際に自分にもそれができるとはまったく思えなかった。

 いくら眠らなくても良いと言っても、人間の集中力には限界があるのだから。


『けど、ここまで来て逃げるわけには……』

『ああ。ボクも手ブラで帰る気はないよ。けれど、2人では……』


 この地下施設は、せっかく見つけた重要な手掛かりだ。

 ゆえに、簡単に逃げ帰るつもりはなかった。

 だが、この人数では打開策は見出せそうもない。

 せめて、あと1人いてくれれば――


「――ココちゃん!遅くなってごめん!」

「あ、レイちゃん!それに、りりりん!」


 その時、天に導かれたかのようなタイミングで、エイが現れた。

 その隣にはリリスも一緒だ。

 しかし、現れた位置がおかしかった。

 エイたちは、ハートやベヒモスの通った通路ではなく、ドローンたちがやってくる高所に開いた穴のうちの1つから現れたのだ。


「エイ、どうしてそんなところに?」

「すみません!リリスさんが、ここの道には詳しいって言うから付いて行ったんですけど……」

「し、仕方ないではないですか。灯りもないから本当に暗くて……」


 Nやハートは問題なく視認できるため気にしていなかったが、確かにこの地下空間は暗い。

 これでは、迷ってしまうのも仕方のないことだろう。

 そういえば、今戦っている通路の行き止まりだけは少し明るい。

 上を見ると、天井にはライトが付いていた。

 これがあるから、エイたちもここに来れたのかもしれない。

 いやしかし、これはもしかすると――


「あれ?そういえば、りりりんはどうやって下まで降りてきたの?」

「ああ、それでしたら……」


 リリスは普通の人間である。

 プレイヤーと違って、こんな地下深くまで降りるのは大変なはずだった。

 それを説明しようとしたリリスを、エイが肩で担いだ。

 途端にリリスは慌て始める。


「ちょ、ちょっとお待ちくださいエイさん?まさか、また――」

「舌、噛まないでくださいよ」


 次の瞬間、エイは飛び降りた。

 十数メートルの高さから。


「ひやああああああああ!!」


 リリスは恐怖に顔を歪ませて叫ぶ。

 あっという間に地面が近づいていく。


「『ヒツジさんのモフモフクッション』」


 エイは着地と同時にスキルを使用する。

 その着地によって、普通の人間であるリリスには耐えがたいほどの衝撃に襲われたはずだが、リリスに外傷はない。

 ただ、恐怖で泣きそうになっているだけだ。


 エイが使ったスキルは、衝突時のダメージを軽減できるものだ。

 落下ダメージなどは完全に無効化できるため、初心者の頃はよく使ったスキルだが、高レベル帯だと軽減値が低すぎてまるで使わなくなったスキルだ。

 そういえば、あのスキルは接触していたもの全員に効果があるんだったか。


「うぅ、エイさんは鬼です。せめて、事前に言ってくだされば心の準備も……」

「さあ、リリスさん。ここじゃ危ないです。私が守るので、一緒にNさんのところまで下がりましょうね」


 ニコリと笑顔でエイはリリスを促す。

 リリスとしてはまだ文句を言っておきたかったが、ここが危ないことは事実だ。

 今だって、ひっきりなしに襲い来るドローンをエイとNが撃ち落としているのだから。


 リリスがNの後ろに隠れ、エイはハートの隣で前線を支える。

 ベヒモスやドローンと戦いながら、3人は念話を繋ぐ。


『それでしぐるん、3人ならこの状況を動かせるの?』

『ああ、もちろんさ。エイも聞いてくれ。ここのドローンは、他の場所で見た個体とは明らかに動きが違う。そして、なにより大きな特徴がある。』

『特徴、ですか?』

『必ず8体だけしかいないんだ。穴の奥にはもっとたくさんのドローンがいるはずなのに、8体以上が同時に出てくることはない』


 他の場所で見たドローンの動きは、ひどく単純だ。

 プレイヤーを認識すればまっすぐ向かってくるという点では、モンスターに近い。


『あれ?でも、最初はもっとたくさんいたような……』

『もしかして、数が少なくなった途端に動きが変わったんじゃないかい?』

『あ、言われてみればたしかに』


 ドローンの一部が近距離戦に移行し始めてから、攻撃の質は明確に上がった。

 そして、それと同時にドローンの数は減っていた。

 それが意味することはなにか。


『つまり、あの8体のドローンは自動操縦ではなく手動なんじゃないかな』

『だれかが、動かしてるってことですか?』

『ああ、恐らくは上からずっと見下ろしている彼女だ』

『上?上に誰かいるんですか?』

『エイには見えないかもしれないが、上にはウサギ耳の半獣の女がいるんだ』


 あの半獣の女が遠隔で操縦しているのだとすれば、辻褄は合う。


 ここだけライトが付いているのは、視覚に頼って状況を把握しているからだろう。

 しかし樹永の話によれば、ドローンはなにか特殊な方法でプレイヤーを認識しているようだ。

 ドローンに視覚は必要ないのであれば、ここの灯りもいらないはずだ。

 つまり、ドローンではない何者かが、この戦場を見ていることになる。


 ドローンが同時に8体までしか現れないのは、それが同時に操縦できる限界だから。

 操作できないドローンをさらに追加投入するよりは、残機として残しておいた方が良いという判断だろう。

 向こうとしては、焦ってこちらを潰す理由はない。

 なにせ、このまま時間を浪費していけば、やがてベヒモスの攻撃を避けきれずに死ぬのだから。


『ベヒモスとの連携もかなりとれていることから、あの怪物もある程度彼女の意思に従っているんじゃないかな』

『つ、つまり、その人を捕まえればベヒモスも止められるかもってことですか?』

『さて、そこまではさすがに分からないけれど。試す価値はあるんじゃないかな』


 ベヒモスが止まるかはわからない。

 だが、最悪ベヒモスは放置でも構わないのだ。

 それよりも優先すべきは、あの半獣の女から情報を引き出すこと。

 ハートとNだけではそれも厳しかったが、エイが加われば活路も見えてくる。


『それじゃあ、あの女を狙うの?けどあそこは高すぎて、わたしでも届かないよ』

『それに、転移結晶も持ってるんじゃないですかね。まっすぐ近づいたら、逃げられちゃいますよ』

『そこは、ボクに任せてくれ。多少賭けになるが、ガムシャラに突っ込むよりはマシなはずさ。2人には――』

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