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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第二章 1羽の鳥となって、このソラの向こうへ
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エイ⑩

 リリスに出会ってから数日、一行はE04と書かれていた塔にたどり着いていた。

 その塔は、ハートたちのいた塔と違い人の気配が非常に多かった。

 4人はかなりの距離を離れて塔を観察していた。

 観察と言っても、スキルを持ったハート以外には細かい部分は見えていないのだが。


「向こうの様子はどんな感じっスか、ハートさん」

「うーん。人がたくさんいるね。建物も結構補強したりしてるみたい。あとなんかね、旗を掲げてるよ」

「旗?もしかしてそれって……」

「ハートさん、これで写真撮ってみてくださいっス」


 樹永が『カメラ』のアイテムを取り出し、ハートに渡す。

 アイテムのカメラは、現実のものと違い、使用者の視界をそのまま写し取るものだ。

 ゆえに、使用者の目の良さによって精度が変わる。


 ハートが撮ってみせたその模様は、樹永とエイにとって見覚えのあるものだった。


「『自警団【篝火】』……」

「うわーっ。ど、どうしよう」


 そう、それは自警団の掲げるマークだった。


「なんで慌ててるの?」

「え?いや、そっか。ココちゃんは知らないのか。えっと、少し前までケンカしてたギルド、かな……」

「会うの気まずいの?」

「気まずいというか、私が近づいたら普通に戦闘になっちゃうというか……」


 大規模抗争において、エイは【脱出派】についた。

 その事実は、あの戦いに参加したものならば誰でも知っているだろう。

【秩序派】である自警団にとってみれば、【脱出派】の者など等しく敵だろう。


「なんのことはありませんよ。本物の体の方なら、誰にも気づかれないでしょう」

「あっ!確かにそうですね!」


 リリスに言われ、エイは気づいた。

 確かにアバターの体ではなく本来の体であれば、誰もエイだとは分からない。

 早速、エイは子機を取り出してリアルの体を呼び出した。


 懸念も解消され、いざ次なる塔へと向かおうとするが、樹永が後方でうずくまって何事かを呟いていることに気づく。

 樹永は塔に滞在している集団が自警団だと知ってからずっとこんな調子だった。


「……最大規模の集落なら自警団である可能性は元から高かった。ここはむしろチャンスとして――」

「きえりん?どうかしたの?」

「い、いや!なんでもないっス!」


 取り繕うように、樹永は慌ててハートに返事をする。

 そんな様子をハートたちは多少不審に思うが、しかし本人が追求してほしくなさそうなので、その話が続くことはなかった。


 一行は、改めて塔に向かって歩き始めた。


「っていうか、自警団って何?わたしの知らないギルド?」

「うん、そうだよ。自警団は桃花さんが立ち上げたギルドで、Nさんも一緒にいたんだよ」

「そっか。夜明けの探索者(ドーン・シーカー)はなくなっちゃったもんね」


 かつての戦いでメンバーの大多数がゲームオーバーになり、ギルド成立の最低人数を下回ってしまったことで、夜明けの探索者(ドーン・シーカー)は存在自体がなくなっている。

 そのことはハートも知っていたが、しかしメンバーがその後どうしたのかは知らなかった。


「レイちゃんとみゆきちゃんも2人と同じギルドだったの?」

「ううん。私たちは別だよ」

「そうなの?なんで同じギルドにしなかったの?」

「それは……」


 聞かれて、エイは言いよどむ。

 ハートはまだ、秩序派と脱出派の争いを知らない。

 かつての仲間たちが本気で殺しあっていたという事実を、いったいどうやって伝えたものか。


「あっ!」


 エイが悩んでいると、ハートが晴れやかな声をあげる。

 いつの間にか、4人は塔に近づいていた。

 ハートは塔を囲むようにして建物の補修作業をしている集団に向かって、大きく手を振って走り出す。


「しぐる〜〜〜ん!!!」


 その集団の中にはNがおり、自警団の人間と何かを話しているようだった。

 Nは人外の速度で走っているハートに気づき、驚きの声をあげる。


「ハート!?」


 驚愕に目を見開くNに一息に近づいたハートは、慣性の法則を無視してピタリと止まる。

 なんとも不可思議なことに、一連の動作にはまったく音がしなかった。


「どうして……いや、やっぱりキミもこの世界に来ていたのか」

「ふふっ、元気してた?」


 満面の笑みで、ハートは笑いかける。


 そんなハートたちを見て、周りの自警団の面々はザワついていた。


「え?今ハートって……」

「あれってやっぱり……!」

「うお!嘘だろ!ってことはよ……」


 彼らにとって、ハートはすでに死んだはずのプレイヤーだった。

 ハートがゲームをクリアしたという話は出回っていたが、しかしそれは噂程度の物だ。

 そんな噂が現実となって目の前にいるのだから、団員たちは大いに沸きあがっていた。


「……場所を変えようか」


 騒ぎが大きくなりそうのを察知したNは、落ち着いて話ができる場所の移動することにした。

 そうこうしている内に、ハートに置いていかれたエイ達もやってきていた。


「そっちの3人もハートの連れかい?」

「そうだよ!」

「そうか。じゃあ、そっちの3人も一緒に来てくれ」


 バレやしないかとビクビクしているエイと、どこか上の空な樹永の代わりにリリスが頷く。

 それを見たNは、4人を自身の部屋へと案内するのだった。



 ♯



「と、桃花様。〈イリカ〉です。一体どうなさったのですか?」


 E04と呼ばれる塔の中、桃花のいる部屋にイリカという少女が訪れていた。

 イリカは閉められた扉の前で桃花に呼び掛けている。

 別にカギがかかっているわけでもないが、イリカには桃花のいる部屋を勝手に開ける度胸はなかった。


「……Nさんに聞きませんでしたの?この部屋には近づかないように、と」

「そ、それはそうなのですが……しかしながら、桃花様が理由も言われずに閉じこもっておられるなんて、なんか大変なことが起きているのではないかと心配で――」

「ありがとうございます。ですが、不要な心配ですわ。早く自分の持ち場に戻りなさい」

「そ、そんな――」


 イリカはしばらくの間、桃花に部屋から出るように説得を続けたが、やがて諦めて帰っていった。

 イリカの気配がなくなったのを確認した桃花は、一つ息を吐く。


「――どうして、今さらこんなものを見せるんですの?」


 もうとっくに諦めて、忘れていたはずなのに。

 なぜまたこの姿を見なければならないのか。


 桃花は、ある身体が入れられた箱を見ながら、独り呟いた。


「わたくしは――わたくしはもう、あなたには戻りませんわ。絶対に」


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