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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
3/53

桃花①

 西暦2129年(デスゲーム開始から99年)ベザト大森林


 少年は走っていた。

 そこは陽光に照らされた木々が燦然(さんぜん)と輝く明るい森。

 大したモンスターもおらず、少年にとっては安全な場所のはずだった。

 しかし、少年は別のプレイヤーの奇襲を受け、少なくないダメージを負っていた。

 いわゆるPK(プレイヤーキラー)というやつだ。


「てめえ! 待ちやがれ!!」


 両者のレベル差は2倍以上あり、少年の勝機などかけらもない。

 少年はどうにかしてとか生き延びようと必死で足を動かすが、速さ(SPD)の差から、徐々に両者の距離は縮まってきている。


「わっ!」


 ふと、少年は足をもつれさせて転んでしまう。

 急いで立ち上がろうとするも、PKはすでに追いついてきていた。


「手こずらせやがって。お前みたいなザコはな、黙って強いやつの経験値になっとけばいいんだよ!」


 PKはアイテム欄からサーベルを取り出した。

 ゆっくりと少年に近づくと、その手に持った刃を――


「お待ちなさい」


 少年の後ろから、誰かの声がした。

 森の奥までよく響く、凛とした声だ。


「てめえは……!」

「私欲のために罪なき者を手にかけようとするその暴挙、このわたくしが許しません!」


 少年が振り向くと、そこには髪の長い女性がいた。

 その女性は、あまりチャットやSNSなどをやらない少年でもよく見かけるような有名人だった。


「チッ、自警団の大ボスか。こんな大物に会うたぁ、俺も運がねえな」


『ロストアドベンチャー』史上最大のギルド、『自警団【篝火】』。

 団員数7000を超える大規模ギルドを率いる彼女の名は〈祇園桃花〉。

 かつて『夜明けの探索者(ドーンシーカー)』のサブリーダーだった女性だ。


「この世界の秩序を守る者として、あなた方を拘束します!」


 桃花は、数十メートルはあろうかという距離を一瞬にして詰めると、PKへと切りかかった。

 桃花の舞うような剣戟をPKは対処しきれず、見る間にHPが削れていく。


 わずか数十秒後には、両手足を切り落とされたPKが地面に転がっていた。

 この世界に流血表現はないが、代わりにHPが徐々が減る〈出血〉という状態異常がある。

 桃花はPKに状態異常回復ポーションをかけ、出血死するのを防ぐと、PKの口にロープをかませ、声の出ないようにした。


 手際のいい捕縛に見入っていた少年に、桃花は声をかける。


「大丈夫でしたか?」

「……と、桃花様!!自警団の創設者で絶対的なリーダーの祇園桃花様ですよね!?」

「……確かにそうですわよ。できれば気軽に桃花と呼んで――」

「そんな、とんでもない!!まさか桃花様を呼び捨てになんてできるはずもないです!!あ、あのあの僕〈昇離(しょうり)〉って言います。よろしければサインくれませんか!?もう半世紀以上前からファンなんです!」


 興奮した様子でまくし立てるように話す昇離は、自身のアイテム欄からサイン色紙を取り出すと、桃花へとズイっと差し出す。

 そんな昇離の様子に困惑する桃花は、困ったように笑う。


「さ、サインとかそういうのはちょっと……」

「あ、そ、そうですよね。初対面の自分なんかがサイン貰おうなんて、そんなの迷惑ですよね……」


 しゅんと分かりやすく落ち込む昇離を見ていると、流石に可哀想になってくる。

 しかたなく、祇園桃花とまるで契約書にサインでもするかのような達筆で名前を書く。


「ありがとうございます!!一生の宝物にします!!」

「い、いえ。喜んで頂けたのなら良いのですが……」


 喜色満面の笑みを浮かべる昇離は、色紙を額縁に入れると、丁重にアイテム欄へしまっていた。

 このゲームに額縁なんてアイテムはあったかなと思案する桃花だったが、それは置いておく。


「コホン。それよりも、最近はPKもおとなしいとはいえ1人で歩くのは危ないですわよ」

「すみません。まさか、自警団本部のすぐそばで襲われるとは思わなかったので」

「それは……申し訳ありませんわ。こんなところまで侵入を許してしまったのは、我々の落ち度ですもの」

「いえいえいえ!!桃花様が謝る必要なんてありません!!悪いのはこのゴミ共ですから!」


 思い切りPKに睨まれているが、昇離は気にした様子もなくPKを罵倒する。

 先ほどまで殺されかけていたというのに、随分と立ち直りの早いことである。


「お詫びと言っては何ですが、街までエスコートしますわよ」

「マジですか!!……ああ、なんて幸運なんだ。自分、もう今日で死ぬんじゃないの?」


 天を見上げて大げさな喜びを(あらわ)にする昇離に困ったように笑う桃花。

 2人は四肢を失ったPKを運びながら街を目指して歩き始めた。

 ちなみに、失った体の部位はしばらく経つと生えてくる仕様だ。


「その人たちはどうするんですか?」

「レベルからして『久遠の光』のメンバーとは到底思えませんわ。どこかの中小ギルドのメンバーですわね。詳しい事は、大監獄で聞くことになりそうです」


 久遠の光。

 それは自警団【篝火】と共にこのゲームを二分するギルド。

 団員数であれば自警団に大きく劣るが、一人一人がトップクラスの実力を持つ超武闘派ギルド。

 そして、史上最悪のPKギルドである。


「それにしても、まさか桃花様に助けてもらえるなんて思ってもみませんでしたよ」

「たまたま近くにいただけですわ。救援要請があれば、役職など関係なく駆け付けるのが、自警団の方針ですのよ」

「流石です! 桃花様!」

「ところであなた、どこかのギルドに所属していらっしゃるのかしら?」

「いえ。どこのギルドとも肌が合わなくて。五大ギルド以外のギルドなんて、入っていてもほとんど意味ないですからね」


 五大ギルドとは、自警団及び久遠を含めた5つの大規模ギルドの総称である。

 現在では、この5つのギルドの動向次第でゲーム全体の勢力図が決まると言われるほどに、影響力を持っている。


「ならば、自警団に入りませんこと?自警団は、普段街から出ないような方も歓迎して――」

「無理です!!無理無理! 桃花様と同じギルドに入るなんて……!ああ、でも桃花様直々の勧誘を断るなんて失礼なんじゃ……でもでも、自分なんかが桃花様に近づくなんてそんな恐れ多い……。ああでも――」

「ええと、迷っていらっしゃるのでしたら、体験入団というのはいかがですか?案内しますわよ」

「――ぜひ! お願いします!!」


こうして、昇離は自警団に体験入団することになった。


――現在のログイン者数 2万7236人


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