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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
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久遠の光VS自警団【篝火】④

 大監獄をかけた戦いは熾烈を極めていた。

 桃花とみゆきを中心に、激しい近接戦が繰り広げられる。


 レベルでは久遠が上回っているが、数では自警団が上だ。

 このままなら、自警団が勝つだろう。

 それを肌で感じ取ったみゆきは、動きを変えることに決めた。


「てめえら!ここは任せた!『牙獣の走乱』!」


 みゆきは1人戦場を離れ、街に向かって駆け出す。

 当然、自警団の面々が止めにかかるが、みゆきの進軍は止められない。


「っ!わたくしは敵将を追います!絶対に彼らを街に入れてはいけません!」


 他の団員では相手にならないと判断した桃花は、1人でみゆきを追跡することにした。

 桃花は小盾によるシールドバッシュで久遠の1人を弾き飛ばすと、みゆきの後を追う。


 みゆきの狙いは、街に侵入しガーディアンを倒すこと……ではなく、転移してくるエイと一刻も早く合流することだった。

 そのために、街中にある転移ポータルを目指す。


『牙獣の走乱』は一定時間自分の速さ(SPD)を高めるスキルだが、効果は短い。

 素の速さ(SPD)は桃花の方が高いため、徐々に2人の差は縮まっていく。


「お待ちなさい!『剛楼撃』!」


 細剣に見合わない重さとパワーを得るスキル『剛楼撃』。

 桃花は深く踏み込んでみゆきとの距離を一気に詰めると、スキルによって強化された一撃を振り下ろす。

 みゆきは振り返向きざまに大斧で迎え撃つ。

 甲高い音が響き、両者の力は拮抗する。


「みゆき……!なぜ、なぜですの!どうしてあなたはわたくしについてきてくれなかったのですか!?」

「オレにとっての“リーダー”は、ハートだけだ!お前の下に付く気はねえよ!」

「それでも構いません!サブリーダーの座も、自警団も、いっそすべて明け渡しますわ!だから、またみんなでやり直せませんの?この世界で、永遠に生きていくことはできませんの?」


 自警団団長らしからぬ発言。

 それまでの威厳に満ちた表情などかけらもない。

 まるでただの少女のようであった。


「はっ、部下がいなくなった途端に弱気だな。だからてめえにサブリーダーなんて無理だっていったんだよ」


 彼女は、常に鎧を纏っている。

 それは、人の上に立つ者としての鎧。

 弱い自分を覆い隠す為の鎧。


 本当の彼女は、この期に及んで過去の幸福にすがるただの少女でしかない。


 そんな少女をみゆきは突き放す。

 みゆきの宿敵は幼い少女などではないからだ。


 みゆきは大斧を振り上げ、桃花を突き飛ばす。

 スキルの効果が切れてしまえば、(STR)はみゆきが上だ。


「それにな、オレはこの世界で一生を終えるつもりはねえよ」

「いったい何が――何が不満だというのですの!?この世界にいれば、死も病も老いも全てないんですのよ!みんなでこの永遠の楽園を謳歌できるというのに!」

「ふざけんな!こんな滅びの見えたゲームの中で一生を終えるなんて死んでもごめんだ!オレはこのゲームをクリアして元の世界に帰る!」

「この、みゆきの分からず屋!」


 みゆきの激しい猛攻を、桃花は凌いでいく。

 小盾と細剣を上手く使い、速さ(SPD)でかわし、(DEX)で受け流していく。

 しかし、その圧倒的な攻撃力(STR)の対処に精一杯で、攻撃に転じられない。


「オレはてめえをぶっ倒して、約束を果たす!『虹色の惨劇(トラジティセブン)』!」


 いっきに勝負を決めるため、みゆきは固有(ユニーク)スキルを起動する。

 七色に染まった大斧が、桃花に襲いかかる。


「もう結構。わたくしの楽園に、あなたは必要ありませんわ!『包帯仕掛けの人形劇』!」


 桃花もまた、固有(ユニーク)スキルを起動する。

『包帯仕掛けの人形劇』は自身のHPが徐々に減少していく代わりに、すべての能力値とスキルレベルが大きく増加するスキル。


 大斧が桃花を切り裂くが、大したダメージは入らない。

虹色の惨劇(トラジティセブン)』の真骨頂は、この先の能力弱化と状態異常だが、しかし。

 桃花の『麻痺耐性』と『猛毒耐性』は固有(ユニーク)スキルにより大きく増加しており、すべての能力値も上がるため、みゆきの固有(ユニーク)スキルで下がった分は、ほとんど帳消しになる。


 つまり、両者の固有(ユニーク)スキルの効果はほとんど相殺され、残ったのは、大斧を振るい終わったばかりのみゆき。


 桃花はその隙を突き、みゆきに細剣を向ける。

 みゆきは桃花の連撃を甘んじて受けつつ、その勢いを使ってなんとか後退する。

 桃花はそれを逃さず、みゆきに追撃を放とうと――


「残念ですが、やらせはしませんよ」


 その細剣は、割って入ってきた大盾に止められた。

 エイがみゆきの応援に到着したのだ。


「エイさん!?どうしてこんなところに?」

「これが、私の仕事ですからね」


 みゆきは、エイの背後を飛び出して大斧を振り回す。

 たまらず桃花は引こうとするが、エイがピッタリとくっついて離れない。

 保たれていた均衡が、エイによって崩され――


「2対1は、ちょっと卑怯なんじゃないかな?」


 そして、Nによって戻される。

 Nはみゆきに弓矢を放ち、エイがとっさにそれをカバーする。

 そこに生じた隙をつき、桃花は一旦距離を取る。


「N……。てめえもこっちに来たのか」

「任されちゃったからね。団長を死なせるなって」


 これで、2対2。

 くしくも夜明けの探索者(ドーンシーカー)始まりの4人が、集結していた。


「はっ。懐かしい顔が揃ったもんだな。ケリをつけるにはちょうどいい」

「ここで全て、終わらせてみせますわ!わたくしの楽園を守るために!」

「今日で、キミたちの顔を見るのは最後だ。ここで叩き潰す!」

「私は、絶対にココちゃんを取り戻してみせます。そのために、負けられません!」


 それぞれの、意志と願いとがぶつかり合う。

 4人は武器を構え、気迫を込めて戦闘を始め――ようとした、その時だった。


 けたたましい音楽がなる。

 まるで何かを祝福するかのような、場違いに明るい音楽が、4人の頭の中を埋め尽くす。

 その耳障りな音に、4人は思わず動きを止める。


 遠くで、花火が上がる。

 何発も何発も、世界の端からでも見えるような、巨大な花火。


 これは、いったいなんだ?

 100周年のイベントが、少し遅れてやってきたのか?


 すると、彼女たちに――否、全プレイヤーにシステムメッセージが届く。

 そのメッセージは強制的に開封され、視界を遮る。

 そこに書かれていたのは――












 ゲームクリア!


 おめでとうございます!ゲームがクリアされました。ログアウトボタンが解放されます。また、10分以内にログアウトしない場合、強制的にログアウトされます。


「……なん、だ?なんだよ、これ」


 みゆきが震えた声を出す。

 おそらく、全てのプレイヤーが同じ気持ちだっただろう。

 これは、いったいどういうことだ?

 まるで、本当にゲームがクリアされたみたいじゃあないか。


「おい、どういうつもりだ……?お前らの仕業か……?」

「し、知りませんわよ、こんなの。ゲームクリアって、一体どういう――」

「とぼけんじゃねえぞ!ふざけたことやりやがって!」


 極限の混乱は、みゆきを短絡的な思考に走らせた。

 ゲームがクリアされたはずがない。

 ならば、これは自警団の小細工にちがいない。

 みゆきは大斧を振り上げ、桃花に切り掛かる。

 桃花は、それを向かいうとうと細剣で――


「――あははっ。もう。ダメだよ、みゆきちゃん。ケンカなんてしたら」


 大斧と、細剣は、いとも簡単に止められた。

 2振りの小さな短剣で。

 その短剣を握るのは、笑顔の少女。

 少女はこの戦場においてただ1人、笑っていた。


「……ココ、ちゃん?」


 少女の名は〈ハート〉。

 かつて夜明けの探索者(ドーンシーカー)を創設し、すべてのプレイヤーの希望の光となった少女。

 そして、既に死んだと思われていたプレイヤーだった。


「どうしたの、みんな。そんな暗い顔してさ。ははっ」


 乾いた笑い声を上げて、少女は降り立つ。

 その顔は、張り付いたように笑顔だった。

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