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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
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久遠の光VS自警団【篝火】③

 夜が深けていく。

 帷はすっかり堕ちきり、満月は天高く昇っている。


 そこで、Nは気づいた。

 今日がデスゲームが始まってちょうど100年の日であることに。

 100周年だというのに、結局何も起こらない。

 何かあるかもと警戒していたのがバカらしい。


 と、Nは前方の敵に思考を戻す。

 100周年だとか、そんなくだらないことを考えている暇はなかった。


【脱出派】と【秩序派】の戦いは、射撃戦の様相を呈していた。

 自警団は弓矢や槍投げ、投石などでダメージを稼いでいき、久遠はそれに応戦する。

 ときおり遠距離攻撃手段を持たないものが分かれて奇襲をかけにくるも、そのことごとくを撃退していた。


 しかし、肝心の射撃戦の方はあまり(かんば)しくない。

 なにせ、エイがあまりにも厄介だった。


 防御力の低い味方を的確にカバーし、雑な遠距離攻撃では一切のダメージにならない。

 というより、エイはこの戦いで未だダメージを負っていないのではないだろうか。

 さすがに接近すればダメージも通るだろうが、まさかこちらから接近するわけにもいかない。

 おそらく、エイはみゆきが囚人を解放するのを待っているのだろう。


 Nは少し、迷う。

 このままじりじりと持久戦を続けるか、それとも何か別の策を講じるか。

 桃花を信じてはいるが、しかし相手はあのみゆきだ。

 本当に守り切れるのか?

 無理やりでもここを突破して加勢に行った方が良いのではないか?


 こんな時、ハートだったらなんて言っただろうか?

 彼女の戦場での嗅覚はずば抜けていた。

 どんな時でも正しい選択を直感的に引いてくる。

 ハートがいてくれれば――


 Nは頭を振り、今までの思考を振り切る。

 ハートがいればなんて、何を血迷ったことを考えているのか。

 この戦場に、いやもうこの世界にハートはいない。

 ならばこそ、自分の手で正しい選択を選び取らなければならないのだ。


 Nは判断する。

 多少危険だが、揺さぶってみるか。


『――ねえ、エイ。こんなことをしてハートが喜ぶとでも?夜明けの探索者(ドーンシーカー)は不殺のギルド。その決まりを作ったのはハートだ。それをキミが破るのかい?彼女の親友だったキミが』


 Nは夜明けの探索者(ドーンシーカー)の掟など今更気にも止めていないが、しかしエイは気にしているかもしれない。


『――うるさい。あなたが、ココちゃんを語るな』


 案の定、エイの敬語は崩れ、その言葉には怒気が混じり始める。


『ココちゃんは私の親友で、私の光だ!ココちゃんを取り戻すためなら、私はなんだってする!』


 エイの言葉は荒々しく、明確に怒っている――ように見える。


 しかし、長年の付き合いのNには分かる。

 ()()()()()()()()


『ですので、私はこの程度じゃブレませんよ。……さて、時間稼ぎはいいですかね』


 時間稼ぎ。

 確かにこの戦いは時間稼ぎなのだろうが、桃花とみゆきの決着がつくまでの時間稼ぎではなかったのか。

 おそらく、2人の戦いはまだ始まったばかりのはずだが……。


 エイはアイテム欄から何かを取り出し、天高く掲げる。


「『転移』」


『転移結晶』。

 最後に行った街に転移できるアイテム。


「なっ!?ありえないっ!【脱出派】がそれを使えるはずがっ……!」


 転移結晶は犯罪を犯したプレイヤーには使えない。

 ゆえに、【脱出派】は転移を使えないはずだった。


 しかし思い返せば、エイは一切攻撃していないし、されてもいない。

 ただ盾で攻撃を防いでいただけだ。


 いつぞやの〈不死ナル邪竜王〉がそうしていたように、エイは久遠のパーティに入らず、犯罪者にならないようにしていたのだろう。

 すべては、ここで意表を突くために。


「くそっ!ミユキの応援か!?」


 エイがこちらに来ていたから、本拠地の防衛は桃花に任せた。

 だが、向こうにエイとみゆきが揃うとなると話は別だ。

 圧倒的な攻撃力(STR)を誇るみゆきと、異様なまでの耐久力(DEF)を持つエイ。

 この2人が揃った時の厄介さは計り知れない。


 桃花の護衛に付いている者たちも精鋭揃いだが、しかしエイとみゆきが揃うとなると分が悪い。

 部下を加勢に行かせようにも、あの2人が相手ではかえって足手纏いだろう。

 援護に行くとすれば、Nしかいない。


 しかし、現状N以外にこの戦場の指揮を取れる者はいない。

 なにせ【秩序派】は自警団以外にも様々なギルドが集まっている。

 これらの統制をとれる者は少ない。


 それに自警団にしても、決して全員の意思が統一されているとは言い難い。

【中立派】よりの者も多く、士気は簡単に下がるだろう。

 久遠よりレベルで大きく劣っているのに、さらに連携力や士気まで落ちれば敗北は必至だ。


 ゆえに、ここを離れるわけには――


「N、あなたは桃花様のところに行ってください」


 迷うNに、話しかける者がいた。

 自警団副団長のshaynだ。


「悔しいですが、桃花様を支えてあげられるのはあなたしかいません。ずっと隣で戦い続けてきた、あなたしか」

「shayn、けど――」

「いいから行きなさい!それとも、あなたはこの自警団副団長が信頼できないとでも?」


 彼女は、誰よりも桃花を慕っている。

 そうレベルが高くないにも関わらず彼女が自警団の副団長を務めているのは、彼女が桃花にできないことをやれるように努力してきたからだ。

 彼女は、ずっと桃花を支えてあげたいと願っていた。


 今だって、本当は自分で加勢に行きたいのだろう。

 しかし、そんな思いを押し殺してまで、Nに任せているのだ。

 ここで桃花を助けに行くべきは、Nであると。


「……すまない。行ってくる!」


 ならば、応えないわけにはいかないだろう。

 Nは、転移ポータルに向けて走り出した。


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