久遠の光VS自警団【篝火】①
西暦2129年(デスゲーム開始から99年)ピースター
【東堂新聞公式】
遂に決戦!
【秩序派】筆頭『自警団【篝火】』の守る街ピースターに、【脱出派】筆頭『久遠の光』が進軍開始!
【秩序派】の人数7000人に対して、【脱出派】はわずか400人という少なさだが、果たして結果はどうなるのか。
戦闘開始はおよそ3時間後となる見積もりだ。
〈サイトウ〉
結局、どっちが勝つのかな
〈獅子瑠衣ルイ〉
久遠じゃね?自警団とかただの寄せ集めだし。
〈火星住みの地球人〉
俺久遠に三千ゴールド掛けるわ
〈きほう〉
おれは自警団に全財産かけるwwwどうせ久遠勝ったら〇されるんだしwww
〈ロリコン〉
やっぱみゆきちゃんはちっちゃくて可愛いなあ。
〈VRヒャッハー〉
お前PKギルドのトップにそんなこと言ったら殺されるぞ(笑)
〈Couse〉
最近ちっちゃい言っても乗ってくれなくなったよな
〈リホ〉
私たちの未来がかかってるんですよ?もっと真面目に議論しましょうよ。これだからここの住人は嫌いなんです
〈KATE〉
で、でた〜正論言ってる風でただ他人を罵倒したいだけのやつ
〈こうせい〉
俺らみたいな部外者が今更何を真面目にやるっていうんですかね
〈紅蓮の比翼・改〉
更年期かな?オバさんはつらいね
〈九九丸〉
いや、ワシら全員百歳超えとるわ!オバさんどころかお婆ちゃんやないかい!
#
新聞社公式SNSに寄せられたコメントを見て、Nは1つため息をつく。
「まったく、気楽で良いね」
「興味がないんですよ。どっちが勝ったとしても、勝った方に追従するだけ。自分の未来も生死も、まるで興味がないんでしょう」
今まさに久遠が攻め入らんとする地、ピースターには自警団の団員たちが集まっていた。
また、自警団以外にも【秩序派】の中小ギルドの面々も揃っている。
そんなピースターの中心部、ひときわ大きな建物の中には、この戦いの陣頭指揮を務めるNがいた。
Nの隣には、『東堂新聞社』の〈アリサ〉が久遠が来るであろう方面の窓を覗いている。
「それで、私はどちらで待てば良いんでしょう?できればもう少し戦場に近づきたいんですけど」
「勇敢だね。無謀とも言うけど。まあ、多少の願いは聞くよ」
「ほほう。Nさんが私を相手に願いを聞くだなんて、珍しいことを言いますね。てっきり嫌われているものだと思ってましたよ」
「嫌いだよ。けど、ボクは自分の感情じゃ動かない主義でね。今回、キミにはこちらの願いを聞いて欲しいんだ」
「なるほどなるほど。それで、どんな対価を――」
と、そこでアリサの言葉が途切れる。
彼女の目線は視界の端に表示されたウィンドウに釘付けだ。
そこには、ギルドメンバーからのメッセージが届いたことに関する通知が表示されていた。
新聞社において、通知付きのメッセージが届くのは緊急事態の証左だ。
アリサは嫌な予感がしつつも、そのメッセージを――
「――動くな」
――開こうとして、Nに止められる。
Nはそれまでの余所行きの顔を一変させ、冷酷な表情でアリサに弓を向けていた。
さらに、Nの後ろの扉が乱暴に開かれ、自警団の団員たちが部屋になだれ込んでくる。
団員たちはアリサを囲み、武器を向けている。
アリサはニッコリと微笑むと、Nを非難するように言う。
「……個人的感情では、動かないのでは?」
「キミたちは、組織にとって不利益をもたらす。だからここで潰させてもらおう」
「不利益?この永世中立たる我々が、いったいどんな――」
「中立?笑わせるなよ。久遠の犬が」
久遠の犬。
その言葉にアリサの笑みがピクリとひくつく。
「妙なことはいくつもあった。東の最果ての襲撃事件も、トウカの暗殺未遂も、こちらに悟らせずにエイを唆したのも。どの件でもボクらは後手に回らざるを得なかった。まるで、こちらだけ偽の情報に踊らされているみたいに」
「言いがかりもいいところですね。何か証拠でもあるのですか?」
「ボクはキミたちよりもミユキという女を知っている。カノジョがしたくもない作戦を受け入れる時は、自分と対等以上の相手から提案された時だけだ。そして、ミユキにそんな提案ができるとしたら、キミしかいない」
「それだけですか?そんな状況証拠にも満たないような屁理屈で、我々を敵に回すおつもりで?」
「冤罪なら、後で誠心誠意謝るだけだ。だから今は、しばらく捕まっていてくれ」
Nとしては、確実な証拠を掴んでからアリサを捕らえたかった。
しかし、アリサがみゆきと繋がっている証拠を見つけるのは非常に困難だった。
他人のメッセージ履歴を覗く術はないし、新聞社の社員に揺さぶりをかけようにも、こちらが疑っていることがバレては逃げられてしまう。
そうこうしているうちに久遠に宣戦布告され、こんなタイミングで捕らえるしかなくなったというわけだ。
「諦めろ。この街にいる新聞社のメンバーは全員捕えている。ボクらがキミたちに望む対価は2つ。降伏と、服従さ。その為なら、多少の願いは聞き入れよう」
アリサに弓を構えるのとほぼ同時に、自警団の団員たちは街中に潜伏している新聞社のメンバーを拘束していた。
アリサが開きかけたメッセージは、いち早く気付いた社員からのSOSだったのだ。
「……どうやら少し、迂闊だったようですね」
なにかを諦めたかのように、アリサは哂う。
「……我々の理念を、ご存じですか?」
「さあ、知らないね」
「すべての真実を、すべての人々に届けること。そう、我々は見つけなくてはならない。この世界の真実を。その為に、このゲームに永住するわけにはいかないのです」
その言葉は、暗に自分は久遠の仲間だということを明かしていた。
もちろんここで誤魔化して、自分は【脱出派】ではないと言い張ることも可能だ。
しかし、それは彼女の矜持に反する。
捕えられてこれからの戦いで何もできないのであれば、ここで少しでも反抗した方が良い。
「そうか。残念だ。ならここで退場してもらおう」
「――私は『東堂新聞社』代表取締役〈アリサ〉!【脱出派】の一員ですので、あなたの仲間にはなれません!」
アリサはアイテム欄から煙玉を取り出し、地面に叩きつける。
モクモクと煙が部屋を包み、アリサの姿が見えなくなる。
アリサはその隙に窓を割って逃げようとする。
しかし、相手が悪い。
Nはどんな暗闇や霧の中でも周囲を見通すことができる。
そんなN相手に、煙玉などまったく意味をなさない。
Nは矢を放ち、アリサの足を射貫く。
足はあっさりと体から離れ、アリサはバランスを崩し、うつ伏せに倒れる。
Nはそんなアリサを冷たい瞳で見下ろしながら、次の矢を番えていた。
「――降伏する気は?」
「ありませんよ」
「ここで首を横に振れば、キミは死ぬ。キミも、新聞社の仲間もみな死ぬ。もう一度聞こう。大人しく降伏してキミたちの持つすべての情報を明け渡す気はあるかい?」
「……この街にいる社員がすべてだとでも?私1人を殺したところで、我々は止まりません!東堂新聞社は――」
2射目の矢が、アリサの眉間を正確に狙い撃つ。
アリサのHPは一瞬の内にゼロとなり、その体がゆっくりと透けていく。
Nは、アリサの体が完全に消えるのを待ってから、言う。
「キミ達は持ち場に戻れ。決戦の時は近い。気を抜くなよ」
「他の新聞社のメンバーはどうしますか?」
「全員殺せ。街の内部構造を知っているものを生かしておくわけにはいかない。メッセージは絶対に送らせるな」
「はっ!」
自警団の団員たちはNの言葉を聞き、各々の持ち場に戻っていく。
Nは新聞社の社員を抑えている者たちに同じ内容をメッセージで送ると、ふうと一息ついた。
そして、彼女の死に際の言葉を思い返して、独りごちる。
「……そうでもないさ。リーダー1人失っただけで、チームは案外簡単に瓦解する」
だからこそ、守らねばならない。
何もないこの世界に恒久の楽園を築こうとしている、無謀なリーダーを。
戦いは既に、始まっている