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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第一章 ノロイあふれる戦場に、1人の少女が降り立つとき
15/53

夜明けの探索者①

 西暦2036年(デスゲーム開始から6年) 


 これは、夜明けの探索者(ドーンシーカー)が設立される少し前の話。

 デスゲーム化の混乱も落ち着き、もはやこのゲームの中にいるのが日常になりつつあった。

 そんな中、街の大通りで揉めているプレイヤーが2人。


「――お待ちなさい! あなた、また騒ぎを起こしたそうですわね」

「あ?んだよ、またお前か。お前にはカンケーねえだろ」

「いいえ、ありますわ! わたくしはこの街の住人として秩序を守る義務がありますのよ」

「この街の住人?すっかりこのゲームに慣れちまったみてえだな。この世界はオレ達の居場所でもなんでもねえだろ」


 彼女たちの言い合いは、この街の住人にとっては見慣れたもののようで、ほとんどの通行人は気にせずに通り抜けている。

 しかし、そんな2人の様子を観察している者もいた。


「アレが、例の2人?」


 そう訊ねるはつらつとした少女は〈ハート〉。

 普段は別の町で活動しており、この街には来たのは初めてだ。

 今日はパーティメンバーを探しにきたようだ。


 そんなハートに訊ねられている中性的な見た目の女性は〈seagull N〉。

 仲介屋を自称しており、主にパーティを組む手助けをしたり、ギルド同士の橋渡しをしている。

 彼女の今日の仕事は、ハートにパーティメンバーを紹介することだった。


「あっちの小さい方が〈みゆき〉。性格は粗野で乱暴。実力はあるが、その性格ゆえにどのパーティにも所属していない。各地で問題を起こしては拠点を転々と移す流れ者。最近はこの街に居着いているらしいね。

 反対の金髪の方が〈祇園 桃花〉。デスゲームになる前からこの街を拠点に活動している。性格は頑固で生真面目。多くのパーティから勧誘の声がかかる実力者だけど、なぜかその全てを断っている」


 Nの紹介に、ハートはふむふむと頷いている。

 そんな二人の隣にいる背の高い女性は〈あ〉。

 通称“エイ”。

 ハートの幼なじみであり、現在のハートの唯一のパーティメンバーである。


「ほ、本当にあの2人に声をかけるの?」

「もちろん! やっぱりパーティ組むなら強い人じゃないと」


 オドオドとした態度のエイに、ハートは自信満々に答える。

 もはや彼女の中で2人をパーティに入れるのは決定事項なようだ。


「確かにキミの出した条件に合うようなプレイヤーなんて、ここらじゃ彼女たちしかいない。けど、僕はオススメしないね」


 そんなNの忠告もどこ吹く風と受け流し、ハートは2人へと歩み寄る。


「ねえ、そこの2人! とーかちゃんにみゆきちゃんだっけ?」

「……なんですの?」

「私と、パーティを組んでくれない?」


 唐突に話しかけてきた見知らぬ少女に、怪訝な視線を向ける2人。

 しかし、その隣に立つ人物を見て納得したようだ。


「チッ、仲介屋か。また面倒事でももってきたのか?」

「まあまあ、そう時間は取らせないよ。ボクの顔に免じて、少しだけ付き合ってくれないかい?」

「……あんたには何度か世話になったからな。話くらいは聞いてやるよ。けど、オレは人と組む気はねえぞ」


 みゆきは話を聞くと言いながらも譲る気はなさそうな様子だった。


「ねえ、みゆきちゃん。どうして人と組みたがらないの?」

「必要ねえからだ。オレは1人でも生きていける。仲間なんて邪魔なだけだ」


 突き放すような言い方をするみゆきに対し、桃花は好意的だった。


「わたくしは一時的なパーティであればかまいませんよ」

「私は一夜だけの関係じゃなくて、もっと深い仲になりたいの」

「どうしてそんな意味深長な言い方を……?それはさておき、残念ながら固定のパーティを組む気はありませんわ」


 しかし、言い方は優しくとも否定するところはきっぱりと否定してくる。

 どうやら2人とも意志は固そうである。


「うう~ん。それは困ったねえ………………ねえ、そこの2人! 私と、パーティを組んでくれない?」

「ここ数十秒の記憶でも失ったか?」

「いや、何度か話しかけないと仲間になってくれないタイプなのかな、と」

「NPCじゃねえんだよ」

「やっぱどっかでイベントフラグ立ててこなきゃダメか~」

「ゲーム脳ここに極まれり、だな」


 2人の意思を確認した後もしつこく食い下がるハートを、エイが諫める。


「ココちゃん。やっぱり無理なんじゃないかなー。2人とも嫌がってるし……」

「……もしかして、本気で嫌がってる?」

「もしかしなくても本気だよ!」

「え?どうして?私が勧誘してるのに?」

「それを真顔で言えるココちゃんは間違いなく大物だね」

「でしょでしょ。なんたって私、最強だもん!」

「別に褒めたつもりはなかったけど、可愛いからいっか!」


 よーしよしとハートを甘やかしつつ頭を撫でまわすエイ。

 みゆきはそんな2人を冷めた目で見ると、踵を返してどこかへ行ってしまおうと歩き出す。


「みゆきちゃんどこ行くの?まだ話は終わってないよ」

「オレはパーティには入らない。それで話は終わりだろ?」

「どうして?」

「だから――」

「あれー、もしかして、ビビってる?」


 みゆきはその言葉に足を止める。

 続けざまにハートは畳みかける。


「私たちが向かう『咆雷山』は、確かに標高が高くて敵の数も多いもんね。レベル的に問題はなくても、ちょっと気を抜けば死んじゃうかもしれないし。ほんのちょつぴりでも死ぬ可能性があるところなんて、怖くて行けないよね〜。あーあ、残念だな〜。噂に聞く《小さな暴牛》がこんなビビりだったなんてな〜」


 煽るようなハートの発言に、エイは呆れる。


「ココちゃん、いくらなんでもそんな安い挑発に引っかかるわけが――」

「ビビりじゃねえし!いいぜ!やってやろうじゃねえか!」

「えぇ……」


 みゆきは、煽り耐性が低かった。

 ちなみに、Nにとりなしてもらった揉め事と言うのも、SNSで煽られたことが発端だったりする。


「ね。とーかちゃんも、先っちょだけ……いや、3日だけでいいから」

「ええ。3日くらいなら良いですわよ」


 桃花は、もともと短期間であればOKということだったので、あっさりと承諾する。

 こうして、この4人で3日間だけパーティを組むことに決まった。


「話は纏まったかい?」

「うん!みんな快く頷いてくれたよ!」


 “快く”かどうかはさておき、決まることは決まった。

 ゆえに、仲介屋たるNの仕事はもう済んだということだ。


「そうかい。それなら、依頼料を……」

「まあまあ、それはダンジョン攻略の後でいいでしょ?」

「良くない。ボクは君たちの帰還を待っているほど暇じゃないんだ」

「帰還を待つ?なんで?君も一緒に行くんだよ?」


 寝耳に水なハートの発言に、Nは困惑する。


「どうしてボクが行くことになってるのかな?」

「仲介役でしょ?じゃあ最後まで見届けてよ」

「ボクの仕事は、キミの出した条件に合うプレイヤーを見つけたことで終わって……」

「私の出した条件、覚えてる?」

「……レベル400以上で、どのパーティにも所属していないソロプレイヤー、だろ?」

「それ、あなたも該当してるよね」

「っ!」


 隠蔽系のスキルで偽っていたはずの自分のレベルが当てられていることに、Nは警戒を(あらわ)にする。

 レベルでいうならNの方が上、その上で隠蔽スキルを使っているのだから、見破られることはまずない。

 だというのに、ハートは簡単に見破ってきた。

 それだけ看破系のスキルを育てているのか、それとも本当はもっとレベルが高くて隠蔽のスキルで偽っているのか。


「レベルも高くて、看破系のスキルで敵の情報も丸見え。こんな人材色んなギルドがほっとかないだろうな〜」

「……それはキミも同じだろう?」

「私は良いんだよ。君と違って目立ちたくないわけじゃないし」


 別にNは目立ちたくないわけではなく、単に人と組むのが嫌いなだけなのだが、しかし自分の情報をバラされるのは困る。

 ギルドに入る入らないのいざこざを起こしたくないし、最悪顧客からの信用を失うことにも繋がりかねない。


 それを分かっているのかいないのか、容赦なく脅しをかけるハートは、Nをじっと見つめている。


「ねっ、来てくれる?」

「……分かった、降参だ。行くよ」

「やった!」


 ハートは朗らかな笑顔で無邪気に喜ぶ。

 先ほどまで人を脅していた人物とは思えない。


「それじゃあ……えっと、名前なんて読むの?それ」

「seagull、カモメという意味ですわ」


 ハートの疑問に、桃花が答える。


「……Nでいい」

「よし、分かった。宜しくね、しぐるん!」


 観念したような表情のNを完全に無視して、ハートはあだ名で呼ぶことに決めた。


 良く言えばマイペースな自由人、悪く言えば人の話を聞かない奴。

 ハートとは、そういう人物なのだと3人は理解した。



 *****



 それから2日ほど経過した深夜。

 5人は咆雷山の8号目付近にいた。 


 咆雷山は、モンスターの強さこそさほどでもないが、山道が長く険しい上、トラップもそれなりに設置してある。

 特にこの8号目はモンスターの巣が多数存在しており、下手に縄張りに入ればたちまち囲まれてしまう危険地帯だ。

 ゆえに、8号目以降は誰も登ったことがなかった。

 なのだが――


「ちょっと、聞いてませんわよ!まさか未踏破区域まで進むなんて!」

「あれ、言ってなかったっけ?」


 ハートは、そんな未踏破区域に一昨日組んだばかりのパーティで挑もうとしていた。

 まさか互いの戦い方もろくに知らないパーティで未踏破区域に進むとはは夢にも思っていなかった桃花は、ハートに苦言を呈す。

 しかし、ハートは聞く耳を持とうとしていない。


「あなた、彼女の友人なのでしょう?止めなくても良いのですか?」

「いやー、ああなっちゃったココちゃんはもう止まらないので。無理ですね」


 エイは、多少山道を登りづらそうにしているが、ハートについていくつもりのようだ。


「仲介屋さんも、本当にこのまま進む気ですの?」

「……即席にしてはパーティの連携も取れてるし、バランスも良い。敵のレベルもそこまでではないし、彼女の索敵のおかげでほとんどのモンスターやトラップを回避できてる。確かに無茶ではあるけど、無謀ではない。君もそう思ったから未だに付いてきてるんだろう?」

「それは……」


 Nの言う通り、ハートは斥候(スカウト)として非常に優秀だった。

 モンスターの巣は的確に避けるし、細かなトラップも決して見逃さない。

 視界の悪い山道で周囲を警戒しながらも、行軍速度が遅くなることは決してない。


 パーティ全体に関しても、攻撃役(アタッカー)のみゆき、盾役(タンク)のエイ、補助役(サポーター)のN、斥候(スカウト)のハートと非常にバランスが良く、そこに様々なパーティに所属した経験のある桃花が連携の隙を埋めれば、もはやパーティとして完成していると言っても良い。


 まさかハートは、ここまで見越してこのパーティを集めたのだろうか?


「なんか私たち、結構いい感じに戦えてるよね!いやー、しぐるんに紹介してもらって良かったよ!」


 どうやら偶然らしい。


 暗がりの中を、5人は進む。

 時々モンスターと戦いながらも、順調に夜の山道を踏破していく。

 やがて獣道すら無くなり、上方に大地が存在しなくなる。

 山頂に辿り着いたのだ。


「――ほら、見えてきたよ!」


 ハートは小走りで山頂へと向かい、他の4人は普通に歩いて後を追う。

 彼女らは咆雷山を登頂し、そして――


「――!」


 言葉を失った。

 まさかハートは、この時間まで計算していたのだろうか。

 あり得ないと思いつつも、もしかしたらと疑ってしまう。


 だって、登頂したと同時に朝日が登り始めるなんて、そんなの普通はあり得ない。


 東の空が東雲色に染まり始め、白く輝く太陽がゆっくりと顔を出す。

 下を見れば森や街がミニチュアのように広がり、上を見れば雲一つない晴天が朝焼けを出迎えている。

 その光景を遮るものは何もなく、雄大な大空が黒と白のコントラストを描いていた。


「この山すっごく高いからさー、きっといい景色が見られると思ったんだよね。うん、思った通りの絶景だね!」


 ボス攻略が目的でも、レベル上げが目的でも、素材集めが目的でもなく、ただこの景色を見るためだけに、危険な未踏破区域を踏破したというのか。


「まさか、これを見るためだけにここに……?」

「うーん。そうだけど、そうじゃなくって。なんてゆーかさ。3人とも暗い顔してるから」


 桃花はどこか寂しそうで、みゆきは常に気を張っていて、Nはいつも面白くなさそうな顔をしていて。

 それが、ハートはもったいないと感じていた。


「これはゲームなんだよ。それも、世界で初めてのVRMMO!まだ誰も見たことない冒険が、きっと私たちを待ってる!!」


 デスゲームだというのに能天気で、相手のことを何も知らないというのに無遠慮で。


「だからさ。みんなもこのゲームを楽しもうよ。笑ってる人が、1番強いんだから!!」


 しかし、彼女は誰よりもこのゲームを楽しんでいた。

 誰よりもこの冒険を愛していた。


「――うん、決めた。パーティの、ううん、私たちのギルドの名前は夜明けの探索者(ドーンシーカー)!」


 ハートは、まるで夜明けの空のように晴れ々れとした笑顔で、語りかける。


「とーかちゃん、みゆきちゃん、しぐるん。夜明けの探索者(ドーンシーカー)に入ってよ。みんなでまた、こんなワクワクするような冒険を探そう!」


 これが、夜明けの探索者(ドーン・シーカー)始まりの1ページ――


「いえ、今日だけという話でしたし」

「オレはパーティ組む気とかねえし」

「ボクもこういう無茶をする人にはついて行けないかな」

「ええ!?今の流れで断るの!?」

「ココちゃん、流石にちょっと無理があるよ……」


 ――などではなく。

 彼らがパーティを組むまでにはまだまだ紆余曲折あるのだが、それはまた、別の話である。


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