ハート⑥
西暦2100年(デスゲーム開始から70年)死霊平原
賢者の虹里から程近いその平原は死霊平原と呼ばれており、骸骨のような見た目のモンスターが多数出現する。
ハートは、そんな骸骨のモンスター『スカルランサー』の群れと戦っていた。
「『暗殺』+『暗器の心得』+『先制快進』+『バックパンサー』!」
短剣装備時にスキル効果発動確率を1.5倍にする『暗器の心得』、互いに一度も攻撃していない相手に対してスキル効果発動確率とクリティカル発生率を2倍にする『先制快進』、敵の背中から攻撃した時にスキル効果発動確率を2倍にするスキル『バックパンサー』。
4つのスキルを同時に発動して、ハートはスカルランサーの背中をとって攻撃する。
暗殺のスキルにより『即死』効果が発動しスカルランサーのHPは一瞬で0になる。
「よし、もういっちょー!『リサイクル』、そんで『暗殺』+『ラッキー7』!」
スキルのクールタイムを一気に0にする『リサイクル』で、『暗殺』を再度使用可能にする。
ハートは別のスカルランサーの背面を斬りつけ、再び『即死』させる。
そこまでを見たところで、そばにいたみゆきがハートに話しかける。
「リーダー、もういいか?」
「うん、バッチリ!やっぱり2回使えるよ『確殺コンボ』!いやー、間に合って良かった!」
そう、ハートは決まれば確実に相手を倒せる『確殺コンボ』が連続で使えるかを試していたのだ。
実用的なことを考えると、クールタイムが異様に長い『ラッキー7』を『リサイクル』した方が良いのだろうが、手札を増やしておくのは大事だ。
ゆえに、攻略の前に試し撃ちしていたのだ。
「まあ、敵が全員『即死無効』持ちだったら意味ねえけどな」
「もう、みゆきちゃん!そんなテンション下がること言わないの!」
2人は会話しながらもスカルランサーの群れをスキルも使わず叩き潰していく。
もはや通常モンスターなど相手にもならなかった。
その横で、バベルの塔を見上げて憂鬱そうな顔をしているエイが呟く。
「来週の今頃はあの塔に登っているんですねー。うう、もう頭が痛くなってきました。帰ってぐっすり寝てたいです」
「別にそれでもいいけどよ、その場合は寝てるお前を塔に運び込んで囮に使うぞ」
「ひどいです!」
スカルランサーを倒し尽くしたみゆきは、ジュジュがバベルの塔を見つめて浮かない顔をしていることに気づいた。
「……どうした、ジュジュ。そんなしけた面して」
『ううん なんでもない』
なんでもないと言う割には、その顔はやけに暗い。
「まあ、緊張するのは仕方ないんじゃないですかねー。なんたって最後なわけですし」
「ほら、ジュジュちゃん。笑顔笑顔!」
ジュジュは一瞬だけ2人の方を見たが、すぐにみゆきに向き直ると、メッセージを送る。
『ねえ、みゆき わたしは強くなって、何としてでもこのゲームを脱出しないといけないの』
「ああ、何度も聞いたよ」
『わたし、強くなった?』
そのメッセージを見たみゆきは、少し思案するように空を見上げる。
数瞬の思考の後、みゆきはいきなり大斧を振り上げ、ジュジュに向けて叩きつけた。
ジュジュは紙一重でそれを避け、斧は地面に突き刺さる。
真顔で睨みつけるジュジュに対して、みゆきは笑顔だ。
「――このオレの不意打ちをかわせる奴なんて、そういねえぞ。だから、自信持て!」
『強引』
みゆきのあまりにも強引な慰め方に、ジュジュはしばらく睨んでいた。
しかしやがて、その笑顔と単純さに絆されたのか、フッと表情を柔らかくする。
「それでもまだ自分の力が信じられねえんだとしても、大丈夫だ。オレが絶対守ってやるから」
みゆきは握り拳をつくり、腕を伸ばしてジュジュに向ける。
ジュジュはみゆきに笑いかけ、握り拳にコツンと自分の握り拳を合わせる。
「むー。なんか、2人だけの世界ってカンジ―。私も混ぜろ!」
「っていうかみゆきさん、守るのは私の仕事ですからね!勝手に前に出たりしないでくださいよ!私の速さで追いつくの大変なんですからね!」
そんな2人に嫉妬するハートと、みゆきに注意を促すエイ。
そんな2人と共に笑うみゆきとジュジュ。
彼女らは決戦直前であっても何も変わらない。
賑やかに、騒がしく、その日は過ぎていった。
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1週間後、夜明けの探索者を中心とした攻略部隊120名は、バベルの塔に挑んだ。
10日に渡るダンジョン攻略の末、彼らは壊滅。
115人がゲームオーバー、1人が行方不明となり、生還したのはたった4人だけだった。
そして、プレイヤー〈ジュジュ〉もまた、このゲームから姿を消した。




