疑われた探偵サークル
5月14日 午後2時。事件は起こった。
文立学園大学 本校舎前にある初代学長の像が、何者かに破壊されたのだ。
本校舎前は人通りが少なく、講義中ともあり、当初 目撃者は居ないと思われた。
しかし、幸運にも事件の目撃者が現れる。
軽音サークルに所属する学生3人が学長像を破壊した現場を目撃した。
そして、さらに幸運にも、彼らは目撃した学長像を破壊した犯人と顔見知りであった。
その犯人の名はーーー、
「ーーー水谷 イズミ。軽音サークルの学生は、そろって そう答えた」
学生課 北郷は淡々と口にした。
「水谷イズミさん って、俺たちが報告書に記載した演劇部の・・・?」
「あぁ。その水谷だ」
「ーーーあの水谷さんがそんな野蛮な事しますかね? 正直、信じられない」
演劇部 部長の草野も水谷の事を評判が良くない人物だと言っていた。しかし、田中が直接 話をした印象では、とても悪評がたつ様な人には見えなかった。
むしろ、心優しく清楚で可憐なイメージを抱いたくらいだ。
「実際、軽音サークルの連中が目撃しているからな。確かだと思うぞ」
だが、北郷は田中のイメージを容赦なく打ち砕く。
「ーーーで、」
「む? なんだ足立?」
「なんだじゃ ねーよ! なんで私たちが その水谷の共犯者になってんだぁ!? 禿げたおっさんの像を壊したのは、水谷で決まりだろ! 目撃者だって居るんだし! 探偵サークルが出てくる隙なんて無いじゃん!!」
「先輩。初代学長像と言ってください」
北郷は、嘆息をひとつ。
「問題はここからだ。当の水谷は、犯行を否認している」
「!」
「ーーー水谷は犯行時刻、D棟に居た、と言っているんだ」
「あ、そうか!」
北郷の言葉を聞いて、田中は声を上げた。
「犯行時刻ーーー、14日の午後2時って、俺たちが演劇部部室で水谷さんと丁度 話してた時間じゃないですか?」
「ぇ、ーーーあ、そういや そうだっかも」
うろ覚えなのか、頭を捻る足立。
「そうですよ。話してた最中に、水谷さん時計を確認したから時間も正確です! そうか、それで俺たちが共犯者だと疑われているのか・・・」
「は? どういう事?」
さらに頭を捻る足立。頭上にクエスチョンマークが踊るほどだ。
「ーーーおそらく水谷さんは、犯行時刻のアリバイとして、演劇部の部室で草野さんと その友人として盗難事件の捜査に訪れていた俺たちに会った事を言ったんですよ。で、そのアリバイを裏付ける様に俺たちが盗難事件の報告書で水谷さんと話した事を報告したから・・・」
正確には、活動報告書と一緒に出した捜査のあらましを記載した書類だろう。
その書類では、捜査当日に起こった事や、どういう経緯で犯人を特定したかを事細かに報告したはずだ。
その書類の一文に、田中は確かーーー、
ーーー(14日) 午後2時 演劇部員 水谷イズミに (演劇部盗難) 事件当日の詳細を聞いた。
と、記載していた。
「ふーん。まぁ、北郷が なんで私たちを共犯者扱いしているのは分かった。けど、そんなんで私たちを疑うのは心外だよ」
「と、言うと?」
「そんなの、D棟で私たちと会った前か後に、はげ銅像を壊しただけだろ。D棟と本校舎が遠く離れた土地にあったとかなら別だけど、同じキャンパス内にある建物だし、それで説明はつくよ」
足立の言う事は最もだ。
文立学園大学は、田舎にあり、キャンパスは広い。学内を自転車で移動する学生もいるくらいだ。
だが、だからと言って、学生が遭難するほど広大では無い。新入生が多少迷う事は あるかも知れないが、大学の施設間を数分で移動する事くらい容易い。
だがーーー、
「D棟から本校舎までは、どう頑張っても5分はかかる」
北郷は、そう言って ある動画をこちらに見せてきた。
スマホに記録された それは、防犯カメラの映像だろうか。見たところ、文立学園大学の一角を映してある。
「本校舎の西側にある 駐輪場を映した防犯カメラの映像だ」
学内を自転車で移動する学生がいる事から、大学内の施設には、駐輪場が設置されてある。と、同時に自転車の盗難を防ぐための防犯カメラもだ。
「この防犯カメラが映している時刻は、午後2時1分・・・」
「・・・ぁ!」
北郷のスマホを食い入る様に見ていた田中は、防犯カメラに映り込んだ怪しげな人物を捉えた。
後ろ姿だったので、顔までは判別出来なかったが、逃げる様に立ち去ったこの人物が、初代学長の像を破壊した犯人である事は明白だった。
「軽音サークルにも確認したが、この服装の人物が学長の像を破壊した犯人らしい。ここでひとつ、お前たちに確認したいのだが、お前たちが演劇部の部室があるD棟で 水谷イズミと会ったのは何時だ?」
北郷の問いに足立と田中は、顔を見合わせる。
あの時、演劇部 部室の時計は、丁度2時を指していた。偶然にも水谷が時計で時刻を確認したので、確かに覚えている。
無論、北郷には、その事をそのまま伝える。
「丁度・・・午後2時でした・・・」
「あぁ。そして、この防犯カメラの映像から事件発生時刻が午後2時である事も分かる。つまりだーーー」
北郷は、鷹の様な鋭い目を探偵サークルのふたりに向ける。
「ーーー同時刻に同じ人間が、別々の場所で目撃されている という事だ!」
「同時刻に同じ人間が・・・」
「別々の場所で・・・?」
ぽろり、と足立と田中の口から言葉が溢れ出た。
北郷は というと、鋭い鷹の目をさらに鋭利にさせて、まるで探偵サークルの2人を射殺すのではないか、と思えるほどの眼力で睨みつけている。
「だが、そんな事は実際にはあり得ない! つまり、どちらかが嘘をついていると言う訳だ! ーーーそして、無論 嘘をついているのはーーー、」
北郷の指が 足立を指し示しめす。
瞬間、肩をびくつかせる足立。
そして、一拍おいてーーー、
「貴様だ! 足立 一華!」
まるで、2時間サスペンスの犯人を突き止めた探偵の様に 北郷は自信満々に言い放った。