《演劇部内盗難事件》の活動報告書
《探偵サークル 活動報告書》
○事件内容:演劇部内で発生した盗難事件の捜査
○依頼人:演劇部部長 草野 公仁
○概要
202x年4月16日に 演劇部員のイヤフォンが盗まれた事が、盗難事件のはじまりと思われる。
当初 部内では、ただの紛失だと思われていた。
しかし、3日後の19日に万年筆。22日に時計。26日にメガネケース。30日に指輪と、部員の私物が次々と紛失していった事から、演劇部部長 草野氏が盗難事件ではないかと 徐々に疑いを募らせていく。
しかし、明確な証拠がない為、捜査には至らなかった。
5月10日、部室内の金庫に保管してあった部費が、帳簿の金額と合わない事が発覚。
その額、¥36200-
ここで ようやく 草野氏は、以前から起こっていた不審な紛失も含めて、誰かが悪意を持って 窃盗を繰り返していると確信する。
翌日11日から 草野氏は、部費の保管場所を変えて、新聞紙で作ったダミーの部費の封筒を部室内の金庫に保管した。
上記の行動は、演劇部内に居ると思われる盗難事件の犯人を 捕まえる為の作戦による物である。
作戦内容や草野氏が金庫に仕掛けたトラップは、別紙にて写真で説明する。
5月13日。早速、草野氏が金庫に仕掛けたトラップ(別紙参照)が作動した。
しかし、犯人特定には至らず。
翌日14日に、草野氏から《探偵サークル》に上記の盗難事件の捜査の依頼が持ち込まれる。
○活動報告
《探偵サークル》部長 足立 一華により、演劇部内で多発していた盗難事件の犯人は特定された。
犯人は、部員の城島 朋子だった。
城島の犯行動機は、金銭によるものではなかった。
城島は、裕福な両親の元、望めば何でも手に入る生活を送ってきた。
しかし、唯一 彼女が得られなかったものがあった。
それはスリル感。
幼少の頃から、不自由なく暮らしてきた城島は、日々の生活にスリルを求めていた。その欲求から窃盗を繰り返していたのだ。
当初は、イタズラ感覚で 演劇部員の私物を盗んでいた城島だが、ある時、部長である草野氏の上着のポケットからメモ帳を発見する。
メモ魔であった草野氏は、メモに演劇部の金庫のダイヤル番号を記載していた。
城島は、メモにあった金庫の番号を写し取り、保管されてあった部費を少額ずつ盗んでいた。
草野氏が トラップ(別紙参照)を仕掛けた当日も、城島は金庫を物色していた。
その日も少額 盗む気でいた城島だったが、鳴り響いたブザー音に驚き、部費が丸々入った封筒ごと持ち出してしまう。
その際、部室へ通じる通路に 積まれていた段ボールに躓き、足を捻挫。
持っていた部費の封筒を 通路に置いてあった棚の下に落としてしまった。
怪我をした足で、重い棚を持ち上げることが出来なかった城島は、一先ず 場を離れようとする。
しかし、舞台裏の通路から草野氏が向かってくるのに気づいた城島は、とっさに倒れ込みーーー、
『部室に繋がる通路から出てきた人物に 突き倒された』
と、嘘の証言をした。
この時、運が城島の味方をした。
遅れてきた 水谷イズミに草野氏はーーー、
『怪しい奴とか見なかったか。急いでいたり、走ってきた奴とか』
と、尋ねた。
この時、水谷氏はーーー、
『一人、舞台裏を走って来た人がいた』
と、答えた。
この走ってきた人物とは、草野氏の事であり、草野氏は、それを部費を盗み、城島を突き飛ばした犯人だと勘違いした。
D棟の舞台 下手側の袖に居た水谷氏にとって、下手側奥にある音響室からきた人物も 上手側からきた人物も「走ってきた奴」となる。(D棟見取り図 参照)
部費を盗まれた事を知らない水谷氏にとって、音響室の手前にある小部屋から出てきた草野氏の姿は、怪しい奴に見えたという訳だ。
この勘違いから城島の証言は信憑性を得た。
この事実を足立から聞いた《探偵サークル》田中 礼司は、城島が草野氏に言ったーーー、
『突き飛ばした奴は封筒のようなモノを持っていた』
と、いう証言も、曲がりなりに手に入れた大金を手放したく無いという心理から来るものだと推察した。
事実、金遣いが荒い城島は、慢性的な金欠状態に陥っており、盗んだ部費を小遣いの足しにする気だったと後に語った。
以上の事から足立と田中は、近いうちに城島が落とした部費を回収しに来ると考え、現行犯で城島を捕らえるため、罠を張る事を草野氏に提案した。
草野は、部室に繋がる通路を、防災上の理由で 後日 整理すると城島に嘘のメールを送った。
これに焦った城島は、夜に演劇部の部室があるD棟に忍び込み、部費を回収しようと画策する。
その現場を《探偵サークル》と草野氏が押さえた事によって、城島の罪は暴かれた。
《探偵サークル》部長 足立 一華
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「ーーー先輩。報告書 提出してきました」
文立学園大学の校舎裏にある山・・・の中に建つーーー第二部室棟。
大学の陸の孤島だとか、山小屋だとか、隔離施設だとか言われている建物。
そこの、一番陽が当たらないであろう突き当たりの部室ーーー《探偵サークル》の扉を開けた田中は、開口一番にそう言った。
「おー、ご苦労!」
出迎えたのは色気はともかく、品すらないボサ髪の女ーーー足立だ。
今もカップ酒を煽りながら、ゲソを食んでいる。
ちなみに、学内での飲酒は禁止だ。
「先輩。昼間から・・・つーか、学校で飲まないでください」
「なにおう! じゃあ、水道水を飲めってのか!?」
「なんで その二択しかねぇーんだよ!」
「水道水ばっかり飲んでたら お腹壊すわ」
「酒ばっかり飲んでてもお腹壊しますよ」
カップ酒を、ぐいっ と飲み干す足立。よく見たら、机に空の酒瓶などが幾つか転がっていた。
「ンな事より・・・活動停止は、取り消されたのか?」
「ばっちりですよ。部費もいつも通り出してくれるそうですよ」
「よしっ!」
ガッツポーズで喜ぶ足立。その姿を見て、田中も少し嬉しくなる。
「ーーーでも、またふざけた報告書を持ってきたら、その時は問答無用で活動停止とも言われました」
「かッー! どうせまた学生課の北郷だろ。あいつねちっこいからなー!」
「まぁ、そうですね・・・」
「あいつは私を目の敵にしてるからな。この前だって・・・」
それから、ぶつぶつと独り言ちる足立。
確かに、学生課の北郷という人物は足立に対してアタリがキツイ事で有名だ。足立を学内で見かけた場合、問答無用で説教をくらわせる程だ。
例えばーーー、
酒を片手に講義を受けていた事を叱責されたり。
大学のグラウンドで花火大会を開催して説教をくらったり。
学内で怪しい露店を開いて、商売をしていた事に対してブチ切れられたり。
・・・うん。確実に先輩が悪いな。
「ーーー北郷さんは、良い人ですよ」
「ばっか! あんなちんちくりんの何処が良い奴なんだよ」
「いや・・・確かに、特別良い人って訳じゃないですけど、極悪人が隣にいたら相対的に普通の人でも良い人に見えてきて・・・」
「? そんな悪い奴この大学に居たっけ?」
ーーーアンタだ。
とは、口が裂けても言えない。
「ーーーま 今回はなんとか乗り切れましたし、また 次の依頼が来るのを待ちましょ」
「そうだなー・・・ま 来ねぇと思うけど」
足立の言葉とは裏腹に、次の事件はすぐに来た。
バァン・・・ッ! と《探偵サークル》の扉が開け放たれる。
「ーーーっ!?」
「?!」
肩をびくつかせて、振り向く探偵サークルのふたり。
「あ、北郷さん・・・」
入ってきたのは、小柄なスーツ姿の男性。件の学生課 北郷だ。
眉間に刻んだ皺が、気難しい北郷の性格を表している。
「ーーーこの報告書・・・」
しゃがれた声を上げて、取り出したのは、今しがた田中が学生課に提出したばかりの《探偵サークル 活動報告書》だ。
「ーーーここに書いてある事は、事実か?」
「ーーー? そうですけど? 何か不備でも有りました?」
「そうか・・・。それならーーー、」
北郷は、鷹の様な鋭い双眸を足立と田中に向ける。
「ーーーお前ら《探偵サークル》は、先日 学内で発生した器物破損事件のーーー共犯者だな」
「ーーーは?」