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演劇部 盗難事件の犯人

 教職員や学生が帰宅した夜。


 演劇部部室があるD棟に人影がひとつ。

 こそこそ と怪しい動きをしながら、裏口に向かっていた。

 どこから仕入れたのか不明な鍵を使い、裏口を開けるとD棟内部へと侵入していく。

 怪しい人影は、そのまま舞台裏を通り抜けて、部室に繋がるL字の通路へと向かった。


「・・・」


 衣装掛けや棚で(せば)まる通路を()()()() と進む人影。


 途中、鉄製の棚の前で立ち止まるとーーー、


「ーーー・・・っ! くそ・・・」


 身を低くして、何やら棚の下に棒の様なモノを差し込んでいる。


 そしてーーー。

「ーーーく・・・っ! もうすこ、し・・・っ!」

 棒の様なモノを何度も棚の下に出し入れして・・・。

「ーーー! やった!」

 厚い封筒を取り出した。


 と、その時ーーーパッと通路の蛍光灯が灯る。


「ーーーぇ!!?」


 小さな驚き声を上げた人影。



「そこまでだ! この(ぬす)()こどっこい!」



 通路奥の部室から足立が姿を現した。


「ーーーっ!?」


 足立の姿を目にした人影は焦って来た道を戻る。だが、彼女の足では素早く歩くことが出来ない。


「逃げても無駄ですよ」


 通路の入り口から、今度は田中と草野のふたりが姿を現す。


「ーーーくっ!」


 咄嗟(とっさ)に立ち止まる人影。

 その際、バランスを崩して 転倒してしまいーーー、


「ーーーぁ・・・!?」


 持っていた封筒から札束に似せて作られた新聞紙が床に散らばった。

 盗難犯によって、金庫から盗まれた新聞紙の札束だ。


「・・・君だったのか犯人は」


 演劇部部長の草野が、盗難事件の犯人である人影に問いかける。



「ーーー城島くん」



 演劇部で多発していた盗難事件の犯人は、城島(じょうしま) 朋子(ともこ)だった。

 城島は、()()った顔で 草野を見つめている。


「部長・・・? 何でここに? ()()()()()は・・・?」


 城島の頭の上にクエスチョンマークが踊る。

 未だに、状況が理解できていない様だ。


「ーーーあのメールは犯人・・・つまり、君を誘き出させるための嘘だよ」


 あのメールとは、田中が草野に授けた犯人を誘き出させる作戦の事だ。

 詳細はーーー、


《防災上の観点から、部室の通路を塞ぐ様に置いている棚や衣装掛け、段ボール等を 片付ける様に学生課から指導があった。その為、後日 通路の荷物を他に移す》


 と、言う内容のメールを演劇部員に一斉送信したのだ。


 無論、一斉送信と見せかけて、城島にしか送っていない嘘の(フェイク)メールだが。


「・・・なんでそんな事を? そもそも私が盗難事件の犯人って・・・?」

「それは・・・」


 言葉を詰まらせた草野は、助けを求める様に通路の先に居た足立に目を向ける。


「言葉の通りですよ。城島が演劇部で起こった一連の盗難事件の犯人だってこと」

「な、何 あなた!? 急に現れて、失礼じゃない!?」


 声を荒らげて足立に食ってかかる城島。狭い通路に、彼女の声が嫌に響いた。


「ーーーそ、そもそも、そんな事 言うくらいなら、証拠はあるの!? 私が盗難事件の犯人だって言う証拠が!?」

「ーーーいや、証拠なら足元に思いっきり散らばってるけど」

「ーーーっ!」


 城島の足元に散らばる札束に似せて作られた新聞紙。


「・・・いや だがしかし、足立さん。俺は正直、城島が犯人だなんて 信じられないんだが・・・」


 草野の疑問も最もだ。

 一連の盗難事件の犯行はともかく、今回の部費盗難事件に関しては、城島を犯人とするならば、不可解な点が幾つかある。


 そのひとつがーーー、

「彼女は、足を怪我しているだろ」

 城島の足の怪我だ。


 彼女の証言を信じるなら、この怪我は部費盗難時 逃げる犯人に突き飛ばされて 出来なモノだ。


 だが、実際はーーー。

「いえ、その怪我は 城島さんが部室から逃げ出す時に、この狭い通路で転んで出来たモノだよ」

 足立は、通路を見渡す。


 人ひとりが通れるくらいの幅しか無い上、通路には棚や衣装掛け、段ボールなどが置かれている。


「犯人である城島さんは部費を盗んだ際、草野さんの防犯ブザーのトラップに驚いて、この狭い通路を走って逃げたんです」


 だが、と続ける足立。


「こんな狭い通路を急いで逃げたから、置物に足を取られて、転倒。足を挫く事になったってわけです」

「なるほど・・・」


 辻褄としては合うので、草野も納得する。


 しかしーーー、

「でも だったら、水谷さんの証言はどうなんだ?」

 もうひとつの不可解な点が残っている。


「水谷さんが 見たって言う舞台裏を走って来たっていう人物。そいつはどう説明するんだ?」


 水谷が見た、舞台裏を走って来た人物。当初、部費を盗んだと思われていた人物だ。

 水谷の この証言があったこそ、城島の《誰かに突き飛ばされ、足を怪我した》と言う証言に信憑性が生まれたのだ。


「足立さんの言う通り、城島が犯人なら水谷が見た 走って逃げていった人物なんて いない事になる。そうなると、考えられる可能性は 2つだ」


 一、水谷が犯人である城島を庇って、嘘の証言をしている。

 二、そもそも 城島は犯人ではなく、犯人は逃げていった人物である。


「この逃げて行った人物を特定しなければ、城島犯人説は納得いかないぞ」


 草野の言葉を、足立は軽く笑って返す。


「大丈夫ですよ。水谷さんが見た《舞台裏を走って来た人物》は、もう特定できています」

「なっ!? 誰だそれは!?」

「それはーーー、」


 足立は、ゆっくりとその人物を指し示した。


「草野さんです」


「・・・」

 一拍ほどの間を置いてーーー、

「はぁ!?」

 草野は驚愕する。


「水谷が見た走って来た人物は、俺・・・? って、なんでそうなる!?」

「いや、別に おかしな事はないですよ。ふたりの位置関係を見てみたら。ーーーな、田中」

「えぇ」


 足立に言われて、田中はD棟見取り図を取り出した。


「草野さんが初めに居たのは、この下手側から伸びる通路の中ほど にある小部屋です」

 下手側から音教室に伸びる通路の中ほどに小さな部屋が記されている。

 犯行当時、草野が台本を執筆していた 物置となっている小部屋だ。


「で、水谷さんが居たのは、下手側の袖です」

「あぁ。そうだが・・・それが?」

「分かりませんか? 水谷さんは、あの時《一人舞台裏を走って来た人がいました。顔はよく見えなかった・・・》と言ったんです。そして、草野さんは、犯行発生時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と走っていったんですよ」

「ーーーっ!」


 田中の言葉を聞いて、草野はようやく、ハッとした。


「なるほど・・・つまり、水谷にとっては、下手側奥からも上手側からも“走って来た”人物になる訳か・・・」

「えぇ。あの時、水谷さんは、下手から部室がある上手の方へ 走って来た人物ーーー草野さん を見た、と言っていたんです。まぁ、顔は見えなかったみたいですけど」


 田中の言葉を足立が続ける。


「それを、草野さんは、城島の《部室から出てきた人物に突き飛ばされた》という証言と 犯人は、防犯ブザーの音を聞いて逃げ出したはず、という先入観(せんにゅうかん)により、上手側から走って来た人物と勘違いしたんですよ」

「なる、ほど・・・それなら、冴島もD棟から出てきた人物を見ていないはずだな・・・」


 謎が解けて、少しばかり脱力する草野。


「ーーーまぁ、さっきも言った様に、城島がこの場に来た事が何よりの証拠ですよ」

「なっ! そ、それはーーー・・・」


 城島がなにやら言い訳を口にしかけたが、足立は無視して言葉を続ける。


「彼女が 草野さんの任意(にんい)の持ち物検査の時に、新聞紙の札束を持ってなかったのは、この通路で転んだ際、札束が入った封筒を棚の下に落としたからだし。それを、この棚を退()かすって 聞いた途端、回収しにくるのは犯人しか いないですし」


「・・・!!」


 足立の話を聞いた城島は、もう言い逃れが出来ないと悟ったのか、押し黙ったままだ。


「ーーー城島・・・なんで、君がこんな事を・・・?」


 城島は、その場で 草野の問いに答えることはなかった。

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