事件解決
「ーーー・・・ぇ、、と・・・僕が犯人・・・って・・・え??」
混乱する模糊月だが、足立に犯人追及の手を緩める気配はない。
「模糊月。まず、お前は4階 “呪いの教室”の前の廊下・・・その窓の手すりに細い針金で砂袋を吊り下げる。もちろん、室内から見えないように外に出した状態でな。次に、屋上へ行き、首だけのマネキンに衣服を貼り付けたモノを教室側から垂らしておく。そして、C館の表側(廊下側)の砂袋と裏側(教室側)のマネキンを、釣り糸のようなモノで“呪いの教室”の真下の3階で結んで繋げておく。そうすれば、廊下側に吊るした砂袋を落とせば、教室側に吊るしたマネキンの首が引っ張られて落ちてくるって訳だ。ちなみに、みんなが聞いた大きな音は、砂袋が落ちる音な。目の前で何かが落ちて来たのを見たせいで、私たちは それが地面に激突した音だと錯覚したんだ」
「ーーーッ!」
淡々と模糊月が仕掛けたトリックを説明する足立。
足立は過去へ潜り、模糊月が仕掛けたトリックを その目で実際に見ているのだから、今の説明は まず間違いなく正確なモノだ。
事実、謎を解かれた模糊月からの反論、異論はない。
「ーーーなぁ。ちょっと待ってや、一華」
だから、足立の推理に異議を唱えたのは泊だった。
「一華が今 言うたトリックでウチらを騙せるとして・・・いや、実際に騙せたんやけど・・・その仕掛けを なんで模糊月くんがやったて言い切れるん?」
「ーーーふむ。確かに泊娘のおっしゃる通りですな。怪事件のトリックを暴かれた姫のご慧眼はさすがと言えますが、、模糊月氏を その犯人と断定するには早慶な気がしますぞ」
「いや、模糊月が犯人で間違いないよ。つぅか、今のトリックを発動出来たのは模糊月しかいないんだ」
「ーーーと、言いますと?」
足立は廊下の方を指差す。
「さっきも言ったが、トリックのトリガーとなる砂袋は廊下側に吊るされてあったんだ。私たちが4階の“呪いの教室”で “幽霊の自殺”を見た時、教室の外ーーー、つまりは廊下にいたのは模糊月だけだ」
「ぁ・・・確かに」
「それにほら」
「え?」
足立の言葉を続けるように、田中がスマートフォンを泊と縦文字に見せてきた。
見せられた画面に映っているのは、模糊月が撮影したという件の“幽霊の自殺”動画だ。
「模糊月くんが撮ったと言っている“幽霊の自殺”動画も、廊下側から撮られているものです。1人で仕掛けを発動して、1人で撮ったから、廊下から教室を見るというアングルしか取れなかったんでしょう」
「・・・ッ」
模糊月は、悔しそうに息を呑み込む。
それ以外に、模糊月に反論らしい反応はなかった。
どうやら、もう逃れられないと悟ったようだ。
「・・・いやー・・・どうやら、一華の推理は正しい感じやな」
「うむ。模糊月氏からの反論もありませぬし、動機の件で色々と聞くべき事はありましょうが、とりあえずは一件落着ですかな」
泊と縦文字も、足立の推理に納得したのか、場の締めに入っている感じだ。
そんな時に、模糊月が ぽつり と足立に尋ねて来た。
「あの、、最後に教えてください」
「ぁん?」
「どうして、僕のトリックが分かったんですか? けっこう、自身があったのに・・・」
「・・・む!」
模糊月に尋ねられた足立は、すらり と長い指を顎に這わせながら、「ふむ」と呟いた後、トリックに気がついた経緯について話し始める。
「ーーー劇的に何かを閃いた訳じゃないんだが・・・切っ掛けは、お前が嘘をついて外に出かけてた事が気になったからかな」
「ーーーぇ!?」
「いや お前、縦文字の部室を家探ししている時にトイレに行くって言って、外に出かけてたろ? そんで なんで嘘ついて外に出かけたのかなー・・・って考えて、外に見に行ったら、ゴミ箱の中にあった砂袋とマネキンの首を見つけてな。そっからは芋づる式にトリックが分かった感じだ」
「なる、、ほど・・・って、ぇ?? なんで、僕が外に言って事を知っているんですか??」
「ん? あー・・・お前の靴に泥がついてたらな」
「ーーーッ!?」
足立に指摘されて、咄嗟に自らの足元を見た模糊月。すると、確かに靴に泥が付いている。
「室内のトイレに行くだけなら靴に泥は付かないだろ。ここらで靴に泥がつく場所といえば、C館の端にある屋外用のゴミ箱の前だけだ。あそこは特に日照りが悪いし、舗装もされていない砂利道だ」
「・・・ぅう」
「多分だけど、3階に残ったマネキンの首を隠すためにゴミ箱に向かったんだろ? 砂袋に繋げた釣り糸の長さ的に、反対側の屋上から落としたマネキンの首は、“呪いの教室”の真下ーーー、3階教室に残っちまうだろうから」
「・・・ッ」
どうやら完全に観念したようで、ガクンッ と膝を折った模糊月。
こうして、C館の《幽霊の自殺事件》は、解決に至った。




