犯人は・・・ッ
屋外用のゴミ箱の取手に手をかけた足立は、勢いよく 蓋を開ける。ゴミ箱の蓋はスライド式らしく、ガァァッ という音を立てて 蓋が開いた。
すると中にはーーー、
「ーーー! これは・・・人形の、、頭?」
マネキンだろうか。人形の頭と黒い衣服が収まっていた。
「おそらく、私たちが4階の “呪いの教室” で見た、上から落ちてきた “人らしきモノ” がコレだろう」
「ぇ・・・ッ? なんで、そんなものが ここに?」
足立たちが4階で見た “人らしきモノ” は、C館の反対側ーーー、つまりは中庭に落ちたはずだ。それがなぜ、C館を挟んだ反対側のゴミ箱の中にあるのか・・・田中にはさっぱりだった。
「別に難しい話じゃねぇよ。犯人が証拠を隠すために ここへ掘り込んだだけだ」
「??」
「コイツを見てみろ」
「え?」
ゴミ箱の中にあった人形の首と衣服を取り出した足立は、その下に収まっていた “あるモノ” を田中に見せる。
それはーーー、
「・・・砂、、袋??」
「あぁ。おそらくは、人の重さ程度の砂袋だ」
およそ、60〜70キロ程度と思われる砂袋だ。
「私たちが聞いた “重いモノが落ちた音” つぅのは、これがゴミ箱に落ちた音だ」
「は??」
「順を追って話してやる。田中、スマホで文立学園の見取り図は見れるか?」
「ぇ、、ぁ、はい」
田中は、スマートフォンから文立学園大学のホームページにアクセスして、そこからさらに、学生の専用サイトへ入る。
この学生の専用サイトは、大学構内の各建物の空き状況などが分かるようになっており、空き教室の使用予約などを サイトから依頼できるのだ。
だが、足立は特段 教室の使用予約を取る気などなく、彼女の目的はC館の正確な見取り図を見る事にあった。
「C館の見取り図は・・・あっ、、これです」
文立学園大学の各建物からC館の見取り図を選んだ田中。
次の瞬間、田中のスマートフォンの画面にC館の見取り図が いっぱいに映り込んだ。
無駄にリアルな上、3Dのように立体的に見る事ができる その見取り図を見た足立は、「ーーーまず」と言葉を切り出して、今回の事件のあらましを 話し始める。
「怪事件の犯人は、私たちが4階の “呪いの教室” に向かう前に、ある仕掛けを施していたんだ」
「ある仕掛け・・・ですか?」
「あぁ。“呪いの教室” の前の廊下・・・その窓に、人くらいの重さの砂袋を外に出っ張るように吊るしておく。吊るすのには、何か細い針金のようなモノを使ったんだろうな。廊下の窓側の金属製の手すりに針金を巻いて、それに吊るした・・・って感じだろう。“呪いの教室”はC館の端の方にあるし、外から砂袋を見られる心配はない」
「確かに・・・建物の こんな端の方まで わざわざ来る人なんて 余りいませんもんね」
「あぁ。まぁ、この屋外用のゴミ箱にモノを捨てに来る奴がいるかもだが・・・それでも、わざわざ上を見上げる奴もいないだろうしな」
「そうですね。そもそも、C館の使用者は極端に少ない状況です。それこそ、最近では縦文字くんぐらいしか居ないんじゃないでしょうか?」
田中は、ちらり と自らのスマートフォンの画面に映し出されたC館の立体見取り図に目を落とす。
講義や部活動などで使用されていたり、使用予約が取られている状態ならば、見取り図の教室は赤色に切り替わっている筈だ。
だが、田中のスマートフォンに映し出されたC館の見取り図に赤色の箇所は極端に少ない。
つまり、現在、C館を使用している教授、大学職員、学生は ほぼ居ないという訳だ。
「そうだな。とーーー、話を戻そう。“呪いの教室”の前の廊下の窓から砂袋を吊るした犯人は、釣り糸のようなモノを真下の3階に届くように垂らしておく。その後、C館の屋上に移動して、同じ要領で今度は人形の首が付いた衣服を屋上から垂らす」
「俺たちが4階で見た、屋上から落ちてきた“人らしきモノ”ですね」
「あぁ。犯人は、再び同じ要領で 3階まで届くように釣り糸を垂らして、その釣り糸を“呪いの教室”の真下にある3階の教室で繋ぎ合われたんだ」
「つまり・・・廊下側で吊るした砂袋と教室側に吊るした人形を、俺たちの足元の3階で繋げた・・・という事ですね」
「そうだ。そうすれば、廊下側の砂袋を吊るしている針金を切れば、繋げた釣り糸に引っ張られて反対側の屋上に吊るしておいた人形の首が下に落ちる」
「では、あの時 下を見たら何もなかったのは・・・」
「人形の首が砂袋に引っ張られて、3階の窓に吸い込まれたからだろうな。おそらく、犯人は釣り糸を通した下の窓を全開にしておいたんだ」
「なるほど・・・確かに、それなら あの時した“何かが落ちた大きな音” と “消えた人らしきモノ”の説明がつきますね」
「あぁ。大きな音は、反対側のゴミ箱に砂袋が落ちる音。私たちは、目の前で人らしきモノが上から落ちてきたのを見たせいで、聞こえてきた音を無意識に それが地面に落ちた音だと勘違いしたんだ」
「なる、、ほど・・・それが “幽霊の自殺”の真実ですか。それなら犯人はーーー、」
「あぁ。あの時、4階の廊下から吊るした砂袋の針金を切れる人物。つまり、あの時 唯一、廊下にいた人物ーーー、模糊月だけだ」




