足立の推理
「それで? 実際は違うのか縦文字?」
「無論でございまする。ワタクシ、神・・・いえ、ドールに誓って怪事件の犯人ではないでございまする」
足立の目をまっすぐに見つめて そう言った縦文字の言葉に嘘はないように思える。
だがしかしーーー。
「だがな、縦文字。状況からして お前が1番怪しいのは分かるな」
「承知しております。姫たちが この真上の4階教室・・・噂に聞く “呪いの教室” にて、得体の知れぬ亡霊の飛び降り自殺を目撃・・・すぐさま4階教室の窓から下を確認したところ、飛び降りた亡霊の姿はなく、亡霊の痕跡を探すためC館中庭を捜索した。そこで、ワタクシ縦文字が飛び降り自殺を目撃した教室の真下の教室から姿を現した・・・状況的に疑われるのは当然のこと・・・」
「何、お前? 誰かに説明してんの?」
「・・・ですが、姫がワタクシを怪しいと踏んでいる最大の理由は “彼” でしょうな」
言いながら、縦文字はドール研究所の1番目立つところに飾られてある 1体の人形に目を向ける。
それは、およそ170センチはあろう等身大の人形だ。
モデルは誰かわからないが、中世の貴族に仕える執事が着てそうなタキシード(?)を着用しているところを見る限り、何かのアニメのキャラクターだろうか。
「まぁ、そうだな。縦文字、お前は私たちが 4階の “呪いの教室” についた時を見計らって あの人形を屋上から落とし、その人形を私たちに目撃させたのち、素早く中庭に移動して片付けた・・・違うか?」
「まったく違いまする」
「ほぅ? 貴様・・・私に手荒な事をさせたいようだな」
渾身の推理を縦文字にスカされた事により、足立の思考が危険なモノへとシフトする。
「お、お待ちくだされ 姫! 姫は聡明な方です! そのような野蛮な行為は似つかわしくありませんぞ!」
「貴様に私の何が分かる? 田中、“アレ” 持ってこい」
「なんすか、アレって?」
「お前ッ、、アレはアレだよ。アドリブ効かせろよバカ」
「バカはどっちすか? というか先輩。縦文字くんを拷問する前に見てください」
「あん?」
「このデカい人形ですよ。ほら、傷ひとつない綺麗なモノでしょ?」
「む・・・んー・・・」
田中に促されて、ドール研究所の中央付近に飾られてある等身大の人形を観察する足立。
確かに、田中が言う通り傷ひとつない綺麗なモノだった。
「縦文字くん。この人形の重さって分かる?」
「くぅひひひッ。田中氏はいつも良いところに目をつけますな。彼は成人男性の平均体重とほぼ同じ重さ・・・だいたい70キロ弱はありますな」
「重っ・・・気持ち悪っ」
想像より重かった人形に、思わず ぽつり と気持ちを吐露してしまった泊。
幸い、縦文字には泊の声は聞こえていなかったようだ。
「けっこう重いね・・・でも、これではっきりしました。仮に、これだけの重さの人形を屋上から落としたとなると、かなりの損傷があるはずです」
「あー、確かに。普通は壊れるわな」
「はい。ですが、この人形は綺麗なまま・・・おそらくですが、俺たちが4階の窓から見たのは、この人形ではないはずです」
「つぅか、さっき一華 言うてたやん。幽霊の自殺を見た時、ウチらすぐに下を見たから人形を片付ける時間なんてないって。屋上から人形落としたあと、1階まで行って片付ける・・・なんて余計に出来ひんやろ?」
「む・・・でも、そりゃ何かピタゴラスイッチ的な仕掛けで自動に落ちるようにしときゃ良いんじゃないか?」
「いや、ピタゴラスイッチ的なモンを仕掛けといたとしても、落ちてきた重たい人形を数秒で片付けるなんて無理やって・・・さっき自分が言うてたん忘れたんか?」
「うぐ・・・まぁ、確かに言ったと思うが・・・」
「それにですぞ、姫。“彼” はワタクシの最高傑作。むやみやたらに傷つけるような事はしませぬ」
「オメェは黙ってろ」
「ーーー御意」
捜査が振り出しに戻った足立は、「うーん」と頭を悩ませる。
と、その時ーーー、
「あのぅ・・・」
今まで黙っていた模糊月が、おずおずと手を上げた。
「ん? どないしたんや、模糊月くん?」
「ぁ、、えっと・・・もしかしたらですけど・・・他にもう1体人形があって・・・それを使ったとか?」
「もう1体の人形か・・・」
「はい。それを何処かに隠しているとか?」
「んー・・・なるほど。可能性はあるかもだけど・・・」
田中は、ちらり と縦文字に目を向ける。
田中の視線に気がついた縦文字は、静かに首を横に振った。
縦文字が嘘を吐くような人間でない事を知っている田中は、模糊月が示唆した可能性が ほぼ無いことを確信したがーーー、
「うしっ! んなら、このドール研究所を家探しすっぞ!」
足立は違ったようだ。
「姫! お手柔らかに頼みますぞ!!」




