待ち合わせ
「・・・まさか、、明美さんが言っていた幽霊の自殺動画を撮ったのって・・・縦文字くんだったの!?」
「くぅひひひひッ」
C館で、突如 田中の背後に現れた縦文字は、意味深な笑みを その顔に称える。
「ーーーぜんぜん違いますぞ」
「はい、違ったーッ!!」
そして、田中の言葉を真っ向から否定した。
「察するに、田中氏と姫は誰ぞと待ち合わせてですかな?」
きょろきょろ と辺りを見渡した縦文字は、素早く状況を把握する。
「ぇ・・・あぁ、うん。まぁね」
「田中くん。この人は知り合いなん?」
「あぁ、はい。そうです泊さん。俺の友達の縦文字くんです」
「くぅひひッ。縦文字 ユキマサと申します。以後 お見知り置きを。くぅひひひひッ」
田中に紹介された縦文字は、礼儀正しい所作で一礼したのち、スゥ と握手を求める手を泊に差し出した。
「・・・ぁ、あぁ。ご丁寧にどうも。ウチ、一華・・・足立の友人で泊 明美って言います」
不気味な言葉遣いとは真逆な、礼儀正しい縦文字に戸惑いながらも握手に応じた泊。
「ほぅ、、、姫のご友人とは。お会いできて光栄ですな。くぅひひひッ」
「ひ、姫??」
縦文字が言う “姫” とは、当然《探偵サークル》の部長兼紅一点の足立 一華の事だ。
そんな姫が、縦文字に尋ねる。
「つぅか、縦文字は何でこんなところに居んだ?」
「ーーーくぅひひひッ。姫ぇ・・・ご挨拶が遅れて申しわけーーー、」
「挨拶はいいから説明しろよ。なんで、こんな所に居たんだ?」
「・・・御意。このC館は、ワタクシ、縦文字が率いるドール研究所の本部があるところだからですぞ」
「ドール研究所?」
「えぇ ですぞ。一言で言えば、人形を愛でる組織ですな」
「ふーん」
「どうですかな、姫。いえ、皆様もご一緒に」
「私はいいや。興味ないし」
「俺もいいかな」
「せやんな。ウチら、このあと人と待ち合わせしてるし」
「そうですか、そうですか・・・でしたら、また機会があれば お越しくださいませ。我がドール研究所は、C館の1階外れに有りますので。くぅひひひひひひッ」
そう言った縦文字は、不気味な笑い声を残して通路の闇へと消えていく。
縦文字が充分に離れたのを確認した泊は「ほぅ」と息を吐いた。
「なかなか強烈な人やったな。何やねんドール研究所って」
「縦文字くんは、ああ見えて武道の達人なんですよ。それで昔から人体の仕組みに興味があったみたいで・・・人形が好きになったのも その影響みたいです」
「はぁー・・・なかなか斜め上からの興味の持ち方やな。つぅか、アイツ 一華のこと “姫” 言うとったで。どんな感性やねん」
「それについては、俺も同感です」
まるで嵐のように過ぎ去った縦文字に肩を落とす泊と田中。
その時だーーー、
「おい。誰か来たぞ」
縦文字が消えた方とは逆の廊下から、また1人、別の男性が歩いて来たのを 足立が見つける。
「アイツか? 明美が言ってた映像を撮った奴ってのは?」
「んー・・・あぁ! そやそや。あの子やで」
泊の姿を見た途端、走り出した男。
どうやら、待ち合わせで相手を待たせていた事に気が付いたらしい。
ダッダッダッダッ と少し間の抜けた足音で駆けてきたのは 小太りの男性だ。
「はぁはぁはぁ・・・すみません、泊さん。遅れたようで・・・」
荒く繰り返される息を縫って謝罪してきた男性。
足立と田中が抱いた 彼の第一印象は、“小動物” だろうか。
身長は160台前半くらいで、垢抜けていない柔和な顔付き。もじゃもじゃとした毛量が多い髪質から、小型哺乳類を連想させる見た目をしている。
「ええよ ええよ。ウチもざっくりとした時間しか伝えてへんかったし」
「それでも すみません。講義が長引いてしまって」
「だから、ええって。そんな事より紹介するわ。こちら、《探偵サークル》の足立さんと田中くん。今回、模糊月くんが撮った例の映像の幽霊を捜査して貰うために呼んだんや」
「ぇ・・・あの幽霊動画をですか?」
「うん。一華、田中くん。紹介すんで、この子が例の動画を撮った模糊月くんや。なかよーしてよ」
「よろ」
「よろしくお願いします」
「うし! そんなら、さっそく行こか。例の、幽霊の自殺が見れる教室に」




