C館
文立学園大学C館。
小教室や小規模な実習室が連なるC館は、文立学園では それなりに大きな建物だ。
このC館の特徴を挙げるとするならば、細長く、高い点だろうか。基本構造は 5階建で、廊下と その横に小教室が連なっている。
イメージとしては、小学校の校舎をギュッと横に潰した感じだろうか。
「俺、C館って入った事ないんですよね」
C館を見上げながら、田中は ぽつり と呟いた。
「デカい大学の学生あるあるやな。何年も通てるのに 入った事がない建物がある」
「まぁ、ウチの大学は学部も多いですし、関係ない建物に入らない事はザラですけどね」
「確かになー。だけど、C館は用もあっても中々 入りにくいんとちゃう? なんたってーーー、この不気味さやからな」
C館は文立学園大学の端にあり、さらには、いくつかの別の建物がC館を遮るように建っている。つまり、C館を訪れるには、他の建物の間を通るしかない という事なのだ。
その、まるで路地裏のような立地から陽の光も少ししか入って来ず、終始 薄暗く、どんより とした空気が建物全体を包み込んでいる。
「ーーーなるほど。というか、C館って何に使われてる建物なんですかね」
「前は、食品栄養学科やら教育学科やらが よく使てたみたいやけど・・・ほら」
「あ、そっか。栄養学科は他のキャンパスに移動しましたもんね」
「うん。それに B棟が新なったやんか。今まで、ここを使てた教育学科の奴らも 新なったB棟の施設を使うようになってな。あんまり、ここは使われへんようになったんや」
「なるほど・・・」
再び、C館を見上げた田中。
泊の説明もあってか、よりC館が不気味に見えてきた。
イメージとしては、心霊マンションなんかの類に見える。正直、立ち入るのに勇気がいる建物だ。
「ほな、行こか」
「ぇ、、はい」
「うへー、めんどくセー」
だがしかし、泊に誘われるようにしてC館へ足を踏み入れてしまった田中と足立。
C館の中は、シン・・・ッ としていた。
薄暗く、蛍光灯の数も少ない気がする。日頃、使われていないため節電でもしているのだろうか。
そんなC館内部の内部は、はっきり言って もの寂しいを通り越して不気味なまであった。
それこそ、本当に幽霊が好みそうな雰囲気だ。
「・・・ッ」
ごくりッ と生唾を飲み込んだ田中。
「それで・・・その幽霊の自殺が見れる教室というのは 何処なんですか?」
「んーとなぁ・・・確か、4階のどっかやったと思うわ」
「・・・ぇ!? 正確な場所 知らないんですか?」
「いやいや、知らんというか・・・ここで その場所を知っとる人間と待ち合わせとるんよ」
「待ち合わせ?」
「ん? まだ他にも来んの?」
今、足立たちはC館の1階中央付近のエントランスに居る。
どうやら、泊は このエントランスで ある人物と待ち合わせをしていたようだ。
「件の幽霊動画について よく知っている人物ですか?」
「せやで。いや つぅか、知ってるも何も、あの噂の動画を撮った張本人や」
「へぇ!」
「本人?」
「うん。場所への案内がてら、撮った時の様子を説明してもらお 思て、今回 呼んだんやけど・・・」
言いながら、左右に広がる細く薄暗い廊下に目を向ける泊。
「ーーーどうやら、まだ来てへんみたいやな」
「おいおい、明美。そいつ本当に来るんだろうな? こんな不気味な場所までくんだりして ブッチとかはなしだぜ」
「そんな事 する子には見えへんかったし大丈夫やろ。つぅか、一華。アンタ、どうせ暇やろ。ぶつぶつ言うなや」
「暇じゃねーよ。私も色々とあるんだよ」
「ウチがさっき部室に行ったとき、酒食らって大いびきで寝てたクセに?」
「ちがっ、、アレは脳をクリアにするために必要な事でな・・・ッ」
やいやい と言い合う足立と泊。
その争いを少し離れて見ていた田中は、背後から近づいてくる影に気づかなかった。
ひたひたひたッ と足音を消して近寄ってきた “彼” は、スゥ と田中の耳元に口を持っていきーーー、
「この様なところで奇遇ですな。田中氏」
ぼそりッ と不気味な声音で呟いた。
その瞬間ーーー、「うぉわ!!」と大声をあげて振り返った田中。そんな彼の視界に飛び込んできたのは、肩まで伸びたネットリとした黒髪に 黒縁メガネの青年ーーー縦文字だ。
「た、縦文字くん!!」
「くぅひひひッ。この様な場所で会うとは。田中氏も文立学園で噂となっている幽霊氏を見にきたとみえますな」
「・・・ッ! なんで縦文字くんが ここに・・・!? あっ!! まさか、明美さんが言っていた幽霊の自殺動画を撮ったのって・・・縦文字くんだったのか!?」
「くぅひひひひッ」




