噂の映像
「お前・・・こいつ観せに、わざわざ《探偵サークル》の部室まで来たのか?」
文立学園大学の校舎から《探偵サークル》部室がある第2部室棟までは、十数分以上 山道を歩かなければ辿り着けない。
そこへ、わざわざ足を運んで 雑な心霊動画を見せに来たのは、足立の数少ない友人であるーーー、泊 明美だ。
明るい赤毛の長髪に、すらり とした体躯。
服装もカジュアルの中にオシャレを散りばめた・・・いわゆる、一般的な女子大生の それだ。
どこからどう見ても、鬱蒼とした山道を登り、ボサボサ頭の上下スエット女に会いに来る見た目ではない。
だが、泊は確固たる意志を持って《探偵サークル》まで来たのだ。
「まさか・・・私に、この心霊動画の謎を解いて欲しいのか?」
「いんや、違うで。ここに足を運んだんは、一華に貸した2万を返して貰うためや」
「・・・ぉう」
「アンタ、ほんまに大学の中じゃ捕まらんからな。つぅか、ちゃんと講義 出てんの? このままやったら ほんま留年するで」
「安心しろよ。大学生活を謳歌できる範囲では ちゃんと取得している。まぁ、多少は人には言えない手段を取るときもあるがな・・・“単位は騙し取るもの” だ」
「ほうほう。クズの御高説ほど耳障りなモンは無いわー」
「クズて・・・」
「貸した金 返さんままなんはクズやろ。反論するなら まず金返してな」
「うぐ・・・返す気はあるさ。たが、金が無いだけで・・・」
「うーん、クズ」
「クズって言うな。今度、部費が入ったら返すよ」
「部費はサークルのモンやろ。勝手に使こたら田中くん に叱られんで」
「バレなきゃいいだけだ」
「いや、バレんで」
ここで、一旦 言葉を区切った足立と泊。
まったく別の感性を持つ2人だ。このまま話し合っても平行線を辿るだけだと悟ったのだろう。
意味のない話題をダラダラ と話し合うのならば それもいいが、今は大事な話をしたいのだ。
「まぁ、アンタが素直に金を返すとは思えんからな。返済能力がない 一華にエェ話を持って来たったわ」
そう言うと、泊はパソコンを操作して 先ほど見せた心霊動画を再び足立に見せる。
「ーーーこの心霊動画の謎を解き明かして欲しいねん」
「・・・やっぱ、私に謎を解かせる気じゃねぇか。つぅか、心霊映像に謎もクソもないだろ」
と言いつつ、再生された映像に目を向けた足立。
当然、先ほどと同様に、黄昏時の教室の窓の外に、何やら人らしき影が上階から落ちてきた映像が流れる。
遅れて、ドンッ!! と映像が揺れるほどの音が鳴り響いた。
映像を撮っている本人が緊張でもしているのだろうか、『フーッ、フーッ』と荒く繰り返される息が聞こえて来る。
そして、その荒い息遣いと共に、恐る恐る窓際に近づいていきーーー、バッ と映像は窓の下に向けられる。
だがしかし、窓下に向けらた映像には、先ほど 上から落ちてきたはずの人らしき姿は影も形もなかった。
そこで、映像は終わっている。
「ーーーなっ! おかしいやろ、コレ!」
映像が終わった瞬間、興奮気味に足立に食ってかかる泊。
「上から落ちて来たん、絶対に人やんか! なのに窓から下見ても落ちてきた人の姿はない・・・つまり、これって・・・」
「幽霊だと言いてぇのか? んなモン、居るわけねぇだろ」
「じゃあ、この映像は どう説明すんの?」
「編集でもされてんだろ。上から人形でも落とした後、そいつ片付けて窓の下を撮ったんだよ。それかCGか」
「でもなぁ・・・映像に詳しい人に見てもろたんやけど、コレ、イジられてるモンや無いらしいんよ」
「んなモン、そいつがテキトー言ってるだけだろ。作りモンだよ作りモン」
頑なに映像の真偽を否定する足立。
だが、泊も譲る気はないようだ。
「そんなら、偽モンかどうか調べてぇな。ウチ、この心霊動画の特集組むって部長に言ってもたし」
「んあ? あぁ・・・そういや 明美って、新聞部だったけ」
「せやで。今、大学で噂の幽霊騒動を解明したろ思て、部長に大見えきってしもたんや。このまんま何もなかったら、ウチ、部長にどやされてしまうねん」
「別にいいんじゃない?」
「うぐ・・・ッ」
友人とは言え、他人の都合に合わせるような性格ではない足立は、泊に冷徹な言葉を浴びせる。
だがしかしーーー。
「アンタ・・・私に2万借りてんの忘れたん?」
「ぅ・・・」
「この話は、返済能力がないアンタに掛けた私の温情なんやで」
「・・・」
「この幽霊動画を調査せんのやったら、今すぐ2万返して」
「・・・」
すっかり黙り込んでしまった足立。そんな彼女の態度を肯定と取ったのかーーー、
「よし! ほんなら、早速 調査しにいくで!!」
泊は足立の首根っこを掴んで、彼女を《探偵サークル》の部室から連れ出す。
「向かうは映像が撮られた場所! 文立学園大学のC館や!!」




