ひとまずの落着
「・・・テンちゃん!?」
突如、背後の扉から姿を現した親友に驚きの声をあげる辻 リサ。そんな辻を前に、天宮は はじめ、申し訳さなさそうに目を泳がせた。
「なんでここに? 今は 実家に帰ってるんじゃないの・・・」
「・・・」
辻の問いに無言を返す天宮。そのため、天宮に代わり 足立が辻の問いに答える。
「ーーー悪いな」
「ーーーはぁ!?」
「私が、体調不良で大学を休学して 実家で療養していた天宮を無理に呼んだんだ」
「なっ、、お前っ・・・」
足立の無茶に、一瞬 怒りを見せる辻だったがーーー、
「ーーーそう怒るなよ。天宮の体調不良は精神的なモノ。私は、その原因を取り除いてやるっ言って、ここへ呼んだんだ」
「??」
「天宮はな、辻・・・お前が自主退学に追い込まれたのを自分の責任だと思っている。なんたって、お前の住居不法侵入と器物損壊の件を警察に通報したのは天宮なんだからな。天宮は、その責任感から体調を崩していたんだ」
「ーーー!!? そ、、んな・・・出まかせを」
ギリィィ と、犬歯を剥き出しにするほどの怒り顔で足立を睨みつけた辻。なんなら、今にも足立へ飛びつきそうなくらいの勢いだ。
その顔に敏感に反応した田中は、さりげなく足立の前に出る。
「テンちゃんが私を裏切るわけ無いじゃん!! テンちゃんとは高校の頃からの親友なんだよ・・・ッ。それを・・・それを・・・ッ」
込み上げる想いに言葉が付いてこなくなったのか、辻は思わず口をつぐむ。
そして最終的にはーーー、
「そう、、だよね・・・テンちゃんッ!!」
背後にいる親友に縋るように詰め寄った。
「・・・ッ」
縋り付く辻を前に、天宮は苦しそうに言葉を詰まらせる。
だが、いつまでも胸の内に “親友への想い” を留めておく事は無理だと判断したのか、天宮は降り始めの雨のように、ポツリポツリ と口を開いた。
「ゴメ・・・リーちゃん。リーちゃんの事、通報したの、、私・・・ッ」
「ーーーぇ!?」
「あの時、、リーちゃんが酔っ払って・・・私の話を聞かずに、他人の家に入って行ったのが怖くて・・・」
「なっ、、え!? それなら・・・本当に、テンちゃんが・・・私を!?」
「・・・ッ」
瞬間、コクンッ と頷いた天宮。
その頷きを見るや否や、辻はガクリッ と肩を落とす。
信じていた親友に裏切られていたと知ったのだ。気力が無くなるのも無理はないだろう。
否。
“裏切られていた” というのは、少し違うかもしれない。
「辻。一応 言っておくが、天宮は お前を陥れようと思って警察に通報した訳じゃないぞ」
「ーーーはぁ?」
「ましてや、自主退学に追い込まれるとも微塵も思ってなかっただろうよ」
「・・・ッ。なん、、で・・・お前なんかに そんな事が、、分かんのさッ!!」
怒りを滲ませる辻。
だが、足立も口から出まかせを言っている訳ではない。天宮が辻を“裏切っている” 訳ではない理由を知っているのだ。
「ーーー辻。お前、今回の堀沢襲撃事件が、なんで私たち《探偵サークル》の知るところになったのを知っているか?」
「な、、に??」
「天宮が《探偵サークル》に堀沢の保護を依頼して来たからだ。しかも、ただの依頼の仕方じゃねぇーーー、お前が堀沢を襲おうとしている事を伏せた状態での依頼だ」
「?? どう言う事よ?」
「まんま、“友達がある人物を襲おうしているので、その人を守ってください” なんて依頼したら、いくら私たち《探偵サークル》でも警察に通報するだろ。そうなりゃ、今回こそ辻は警察にお縄になるかもだろう。そうならないために、天宮は堀沢が浮気していると嘘を付いて、私たちに堀沢の浮気調査を依頼したんだ。浮気調査する以上、私たちは べったり堀沢に着いて周るだろ。そうなりゃ、辻が堀沢を襲うチャンスもグッと減る」
「・・・ッ」
「友達の犯罪行為を露呈せず、なんとかして止めようとした結果だよ。ま、天宮の狙いは失敗に終わっちまったけどな」
そう言って、足立は ちらり と堀沢に目を向ける。正確には 堀沢の痛々しい頭に・・・だが。
「・・・ごめん。リーちゃん」
「!」
ぽつり と呟かれた天宮の言葉に、辻は惹きつけられるように振り向いた。
「私、リーちゃんを止めたくて・・・でも、嫌われるのが怖くて、周りくどいやり方しか出来なかったの・・・」
ぽつぽつ と紡がれる天宮の言葉に釣られるように、彼女の瞳からは涙が、1粒 また1粒とこぼれ落ちていく。
それを見るや否や、辻は膝を折って その場に崩れ落ちてしまった。
その数分後、ようやく立ち上がった辻は、親友の天宮と学生課の北郷に連れ添われ、警察へ自首しにいった。
こうして、ひとまずだが《探偵サークル》に寄せられた《堀沢 コウスケ浮気調査依頼》は、落着する事となる。




